この眼の名前は!

夏派

文字の大きさ
上 下
143 / 202
十六章

127話 vs暗黒軍 ヘタレも戦闘だとカッコよく見える

しおりを挟む
 遂に2週間が過ぎた。

 現在の妖魔島の時刻は夜7時。天候は晴れだが、陽はすっかり落ちて満月の光が地面を照らす。ここにいる者達を嘲笑うかのように不気味な生暖かい風が虚空を裂く。その風によって茂みは物音を立てる。静寂なこの空間にとって、その音ひとつで緊張感は高まるものだ。

「もう一度確認するぞ」

 シェアードという名前の現神主現ジジイは、あたりを見渡して語る。

「この島の整備されていない東部からは、狸の妖魔ドーラと青髪変態のヒロト、それにその他多数の妖魔と村人たちが行く」

 その言葉に武器を担ぐ人間達と、妖魔達が頷く。妖魔達は普段は、島の下部でバラバラに散布して生活をしていて、この日のために鍛錬をしていたらしい。

「そして、妖泉の火口湖カルデラに1番近い、島の中央から攻め行くのは、ネコの妖魔であるミューと赤髪貧乳のエナ、そしてより優れた力を持つ妖魔と人間たちじゃ」

 いや誰が貧乳よ?! とエナは空気感なしに叫ぶが、特に誰も気にしない。だって事実だもの。

「道の整備が進んでたくさんの人が通れる西側からは、クジャクのシャムルとシマウマのゼブレータ、ゲロ魔法長アムールと白髪超貧乳のネネ、そして残りの妖魔人間が行く」

 …………なんかこっちサイドの説明雑じゃないですかね。

「それで私黒髪美人の巫女の北村美湖きたむらみこと、半妖魔のゴン、今にも逝きそうなシェアードおじいちゃんと、アホバカパンツの田中風太たなかふうたが、更に西側の海岸沿いから妖泉の火口湖カルデラを狙うわけね」

 一応は年上の冷たい女、北村美湖が最後に作戦の確認を行う。

「そうじゃ。わしら4人は、他の者達が戦闘している間に裏からその場所へ向かい、今にも枯れそうな妖泉を水路へと流す役割がある」

 なぜそれが枯れそうなのかというと…………はい、ゴンくんどうぞ。

「ラターイ復活や敵の活性化のために、この液体が使用されて量が著しく減り、村やみんなに迷惑がかかってるんだよね?」

「そういうことじゃゴン。この2週間の間にそれが顕著になってきたんじゃ」

 シェアードはそういうと、この確認の大詰めに入る。一段と大きく太い声で。

「この作戦の目的は、《1つ 妖泉の確保》、《2つ 暗黒軍の撤退》、《3つ 真の平和を掴む》」

 平和を掴むというと、彼は俺たち全員をゆっくりと見渡す。誰も恐れた顔なんてしていない、誰も泣きそうな顔はいない。

「そうじゃ、その顔じゃ。強気の顔でいけ!! わしらが島を取り戻すのじゃ!!!!!!!」

 心を燃やす雄叫びが俺たちから溢れた。

 それと同時に妖魔たちの象徴、紫色紋章が藤色に輝く。




 妖魔島 東側

 舗装されていない道、いやけもの道を2号とドーラand moreは進んでいく。周りは巨大な木や、崖に囲まれている。戦国時代ならば上からの投石を恐れてこの道を通る武将はいなかっただろう。だが彼らは平気なのだ。鍛え上げられたその体に石など虫に等しい。 

 その中を歩いていると、不意にドーラが立ち止まった。その毛並みは剣山のように鋭く立っている。

「ど、どうしたドーラさん」

「…………ほぉ、彼奴あやつから、わしのことを呼んでくるとはな…………」

 その言葉を聞いて2号は静かに察する。修行の最中に、ドーラが言っていたことだ。

『第一位のユニバースはわしにやらしてくれぬか。いや、わしがやらねばならない…………。この左腕をわしから切り離した張本人とな』

 だからその言葉、そしてその意思を尊重して2号は言う。

「ドーラさん、ここは俺や他の者たちに任せて、その第一位のところへ行ってきてくれよ」

「!! いいのか? しかし…………この先300メートルもすると30人規模の敵さんが待ち受けているのが分かるぞ。お主もそれは気づいておろう?」

「もちろんだ。あっちからの殺意やら敵意やらには気付いてるし、人数がいるのも知ってる。なんなら2つの殺意は凄まじく大きいからな。第三位と第二位もいるんだろうな」

「な、なら尚更ッッ!!!」

「いいや結構だぜご老人。アンタはアンタの本当にやりたいことをやりやがれ」

 その言葉を聞いたドーラはしばしの逡巡を巡らせるが、すぐに黙って茂みへと消えていった。

「よしテメェら、根性出せよ」



 妖魔島 西側

 一方こちらの道は舗装されて大きな道となっている。田舎の県道と言えばわかりやすいか。道幅が広く横に広がって歩くその様子は、ヤンキー漫画さながら。

「ネネちゃん、緊張とかしてない?」

 クジャクの妖魔であるシャムルはネネに気を遣ってくれる。

「えぇ問題ないですよ。たった2週間。されど2週間です。これほど濃厚な2週間はそうないですね、とても強くなった実感があります」

「あらやだネネちゃん! 誰の何が白くて濃厚だって?!」

「「………………………………………………………………」」

 なんか股間押さえているゴミシマウマを、侮蔑しながらネネは少し後ろに歩くアムールに声をかける。さらにその背後には、40人は超える妖魔と村人が歩いてきている。

「アムールさん、ずっと背負ってて疲れませんか? なんならボクの召喚獣に運ばせますが」

 アムールの背中には2週間経っても未だに目覚めないフォンセが乗っかっている。シャムルの治癒術や様々な薬草を使ったが、それでも目覚めることはなかった。唯一の成果といえば、アムールが何を血迷ったのかキスして起こそうとした時に、明確に体がアムールを退けていたことぐらいだ。

「いや大丈夫だ。これは我輩自身が守らなければならないからな…………それに」

 それに? とネネは続きの言葉を促す。

「それに…………胸が当たって気持ちがい」

 蹴ッッ!!!! とりあえずネネはアムールのことを蹴ることにした。

 そのまましばらく歩き続けると、体内の血の流れが速まるような気圧を感じた。正確に言えば、敵意に殺意。

 それを感じてネネたちは歩みをゆっくりに変更する。

「遂に来ましたね」

「ああ、しかもこれ敵意以外にも感じるぞ」

「野生?」

「ああ、どうやら向こうさんは、人工妖魔以外に、妖獣でも大量に用意してるようだぜ」

 やっぱりそうこなくっちゃ。ネネはそう思い、笑みを浮かべて目深く被った帽子を上にあげる。



 妖魔島 中央

 こちらの人数はたったの8人。エナとミューの他には、人間と妖魔の精鋭たち6人しかいない。だがそれでいい。中央は相手の防御が最も硬いところである。それに少数精鋭で挑むのだ。何も良くはないと思うだろう。

 しかしエナは思う。

(むしろこの人数で良かったわ。これ以上人数が増えようものならば…………その人たちを巻き込まない保障はない———!!!!!)

 彼女は成長している。体の大きさはさほど変わっていないのに、お腹は鋼の肉体を保ち、穿つ拳の威力は見違えるほどのものだ。あえて成長していない部分をあげるならば、胸だけか。残念ではある。

 そんな彼女らも敵意と殺意を感じ取っていた。

「こりゃ膨大の数やわ。100、200…………いや、ちっちゃいのは500はあるわ」

 ネコの妖魔がそう感心しながら言う。

「別に500でも1000でも関係ないわよ」

 拳を握りしめてエナは宣言する。

「私が全てぶっ潰す!!!!」




 そして。

 暗黒軍と人妖共同戦線が鉢合わせた。



 さぁ、ここからは、妖魔島編第二部。


 鍛え上げたその心を、技を、体を、心技体を見せつけろ。



 妖魔島編第二部 藤色ふじいろ星月夜ほしづきよ編。


 ここに開幕。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

処理中です...