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十二章
98話 真相
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宝石に目が行ってしまったネネをその場に残して、俺とフォンセは第3層の奥の扉を開けた。
「コラ!! いい加減にしやがれゴミ領主!!!!!」
その部屋は宝庫のはずであった。しかしそこに収容されているのは、宝石だけではない。
「…………な、なんだここは?」
種類豊富の食べ物。色とりどりの衣。それに加えて雑貨品の山々。そして何より、その部屋の中心には、緑色のワープホールのようなものが浮遊し、前には領主が立っていた。
「!! なんだ貴様ら。まさか長クラスを振り切って来たのか…………」
「なんだじゃないですよ、お兄様、ウーノドゥーエトレ・クアットロチンクエセイ・セッテオットノーヴェディエチ!!!! ここは宝庫じゃないのですか?!! なぜこんなにも雑多なものが!!」
「チッ、よりによってお前に見られたか、アンドゥートロワ・キャットルサンクスィス・セプトユイットヌフディス。この野郎が」
やめてお前たち!! フルネームで呼び合わないで! てか、下の名前はどこ? なんで苗字違うの? 触れちゃダメ?!
「そ、それになんですか、その緑色のホールは…………」
「誰が素直に答えるか」
そう言って領主はこちらへと近寄ってくる。
「今は不幸にも弟のアインスツヴァイドライ・フィーアフュンフゼクス・ズィーベンアハトノインツェーの護衛で魔法長が居ないが、俺様も魔法は使える…………その覚悟はできてるんだよな?」
「ドイツ語!!! 今度はドイツ語!! だから何人楽しめんだよこのネタ!!!!!」
そんな俺のツッコミは空振りに終わり、フォンセと領主は対立し合う。
「もちろん分かった上でここまで来ました。彼の仲間に手伝ってもらってここまで来た以上…………引くわけにはいきません!!」
「宜しい。ならばこの秘密を見てしまったその罪を与えよう!」
フォンセと領主は詠唱を始めた。高速で長い詠唱だ。つまりそれだけの力を放てるというわけか。
フォンセの魔法陣は雷を思わせる黄色。領主のは、真っ赤な炎を思わせる赤色だ。
…………俺、すごい邪魔だな。と思った刹那。
「ライトニングインパクト!!!!」
「イマジナリーフレイム!!!!!」
フォンセから雷の竜。ともいえる超強力な技が放たれた。
遂に…………領家の魔法の撃ち合いが…………!
それに呼応するように、領主からはチャッカマンのような火が。放たれた。
「……………………………………………………は」
雷と炎が激突し合う。なんてことは毛頭としてなく、雷はロウソクの火を一気に飛ばして、領主にダメージを与える。
「グバダダダァァァァァァァァァァ!!!!!! 死ぬってこれは死ぬ!!」
雷を受けて悲鳴を上げながら転がり続ける領主。
「クソが!! 流石は我が妹…………。この俺様をここまで追い込むとは…………」
そんなことを言う領主だが、その体には一切傷がついていないように見える。敢えて言うなら、肩の部分がホクロの大きさくらい黒く焦げていることか。
「だが、あれだぞ我が妹よ。戦闘はいきなり決着つけるのではなく、弱技から段々と強いものにしていくのが定石だ。さもないと、読者に迫力が伝わらん。今みたいに奥義は使うな…………くぅ、痛い痛いぞ」
「……………………………………………………お兄様、それ、最弱技です」
「なぬ!!!!???? 今の奥義じゃないの?」
「えぇ。というか、お兄様の方が火属性の奥義使っていましたよね?」
「奥義なの?! 今の奥義なの?! え? 領主さっき、初っ端は奥義使うなとか説教しておきながら、自分は使ってるの?! どういうこと? しかも失敗してたよね?! 絶対してたよね? 奥義、チャッカマンじゃないよね?!」
俺がツッコミを何段も斬り入れると、フォンセが対応する。
「…………まぁそう言わずに、領主、お兄様は魔法めちゃくちゃ下手なんですよ」
「え?」
「しかも耐久力もないです。パンの耳で殴られてたんこぶ作るくらいには」
「弱すぎるだろ!!! しかもそれであんなにカッコよく魔法勝負しかけてるの?! シリアス感台無しだよ!!」
そんなやりとりをしていると、フォンセはわざとらしく咳をして、話を軌道に戻す。
「それで、お兄様。一体この物資とそこの緑色のホールはなんなのですか?」
「……………………『神への貢ぎもの』だ」
「はぁ? ここに来て何ご冗談を言われて」
「冗談でもなんでもない。闘いという命のやりとりをした相手に、嘘はつかん」
闘いっていうほどのもんじゃねぇだろ、チャッカマンめ。
「では、本当にその『神への貢ぎもの』なのですか?」
「そうだ。そこにある緑色のワームホールに月に一度大量の物資を入れて、神へと貢いでいる」
「な、ちょ、待ってくれよ領主。そんな説明で、はいはいそうですねと納得できるか?! それに変革の意図も一切理解できねぇよ」
「まだ説明の途中だ、パンイチのゴミ貧民が。黙るという行為を覚えろ」
なんか辛辣なんですけどぉ。
「…………結論、結果、いや最悪のケースといえば良いか。この貢ぎをしなければ、この国は終焉を迎える」
「「なっ」」
何を言っているのか理解できなかった。
「このことは国、いや領主だけの最高機密で、長クラスも、ましてや王女のお前すら知るべきものでないのだ。」
これは代々領主のみに受け継がれてきたことだが。そう言って、イタリア語の領主はゆっくりと語る。
「古来よりこの国の土地には1人の神様がいたそうだ。その神は土地に草木、水源、動物、空気といった生活に必要なものを人間に供給していたらしい。
だがある時。神は土地にそれらのものを供給するのをやめた。理由は簡単だ。皆に与えたはずなのに、それを奪い合い殺し合い、環境を汚染していく人間を見て、心底嫌気がさしたからだ。
そしてその土地はどんどんと廃れていった。
しかし人間も全員が悪人じゃない。廃れた街を治そうとする人たちが出てきて、徐々に元あった環境へと戻っていく。その姿を見て、神はある使命を人間に投げかけた。
それが『神への貢ぎもの』だ。詳しくいえば、神が人間に以前のように土地に豊富なものを与える代わりに、人間たちは皆でそれを分かち合い、皆それぞれが作ったものを神へと御恩として還元するというものだ。
最初の方はそこに住む者皆が協力をしてきた。誰もが仲間だった」
しかしそれは長くは続かなかった。
「暗黒軍の登場やモンスターの凶暴化によって、国に住む人たちは国よりもまず自分たちの街を守ることに専念するようになった。守るためにギルドを作り、それを強化するために物資を抱え込んだ。皆バラバラになってしまったのだ。
一方、国としては貢ぎを終わらせるわけにはいかないため、税として各地から物資の収集をした。これは貴様らも前から払っているだろう。
その税は慣習化されて、俺様の祖父も父もそれを継承してきた。もちろん俺様もこの話を聞いた時からそうするつもりだった」
だが現実は非情だ。
「これは誰から始めたのかは定かではないが、『神への貢ぎもの』として始めた税金を横領する領主が現れた。『今年は不作でした。なので貢ぎ少し減ります』などと言い訳をしては、自分の懐を温めたのだ。
その不正に気づいたのは、俺様の祖父。当然元々の貢ぎの量に急いで戻したが、今までのツケを払うのには時間が足らなかった。
父もなんとかツケを返そうと必死だったが、温厚な人間であるためか、増税には走れなかった。
そして、俺様が領主になった際、神からお告げがあったのだ。それは、これ以上貢ぎものを減らすもしくは、今までの分を返さないならば、土地への供給を無くすというものであった。
流石に震え上がったね。それと同時に時間もなかった」
だから暴君になったのだ。
「まずは他者想いのある優しい妹に、この事実を絶対に知られてはならないと思い、ここから遠ざける思いで、非情にもイジメをした。
そして自分の街の税金を少しでも取られたくないと、横領をする街の代表者たちをひれ伏せるため、土地などの変革をこちらの自由にやり、暴君であることを知らしめた。
変革も税の強制も、全ては前代達の尻拭いのためだったのだ」
そう言って、領主は俺たちに頭を垂れた。
「これが真相だ。そして納得して欲しい。暴君になり、変革などをしていることに。全ては、この国を救うためなんだ!!」
その言葉はあまりにも重かった。
「そしてこのことは黙っていてほしい」
と彼はいい立ち上がって、物資へと歩いていく。
「ひと月もしないうちに、貢ぎの時期が来る。そこまでに、ツケ分も払わないといけないんだ…………。だから、俺様は、私は変革を進めないといけない…………」
その後ろ姿は悲しさに溢れていた。
「コラ!! いい加減にしやがれゴミ領主!!!!!」
その部屋は宝庫のはずであった。しかしそこに収容されているのは、宝石だけではない。
「…………な、なんだここは?」
種類豊富の食べ物。色とりどりの衣。それに加えて雑貨品の山々。そして何より、その部屋の中心には、緑色のワープホールのようなものが浮遊し、前には領主が立っていた。
「!! なんだ貴様ら。まさか長クラスを振り切って来たのか…………」
「なんだじゃないですよ、お兄様、ウーノドゥーエトレ・クアットロチンクエセイ・セッテオットノーヴェディエチ!!!! ここは宝庫じゃないのですか?!! なぜこんなにも雑多なものが!!」
「チッ、よりによってお前に見られたか、アンドゥートロワ・キャットルサンクスィス・セプトユイットヌフディス。この野郎が」
やめてお前たち!! フルネームで呼び合わないで! てか、下の名前はどこ? なんで苗字違うの? 触れちゃダメ?!
「そ、それになんですか、その緑色のホールは…………」
「誰が素直に答えるか」
そう言って領主はこちらへと近寄ってくる。
「今は不幸にも弟のアインスツヴァイドライ・フィーアフュンフゼクス・ズィーベンアハトノインツェーの護衛で魔法長が居ないが、俺様も魔法は使える…………その覚悟はできてるんだよな?」
「ドイツ語!!! 今度はドイツ語!! だから何人楽しめんだよこのネタ!!!!!」
そんな俺のツッコミは空振りに終わり、フォンセと領主は対立し合う。
「もちろん分かった上でここまで来ました。彼の仲間に手伝ってもらってここまで来た以上…………引くわけにはいきません!!」
「宜しい。ならばこの秘密を見てしまったその罪を与えよう!」
フォンセと領主は詠唱を始めた。高速で長い詠唱だ。つまりそれだけの力を放てるというわけか。
フォンセの魔法陣は雷を思わせる黄色。領主のは、真っ赤な炎を思わせる赤色だ。
…………俺、すごい邪魔だな。と思った刹那。
「ライトニングインパクト!!!!」
「イマジナリーフレイム!!!!!」
フォンセから雷の竜。ともいえる超強力な技が放たれた。
遂に…………領家の魔法の撃ち合いが…………!
それに呼応するように、領主からはチャッカマンのような火が。放たれた。
「……………………………………………………は」
雷と炎が激突し合う。なんてことは毛頭としてなく、雷はロウソクの火を一気に飛ばして、領主にダメージを与える。
「グバダダダァァァァァァァァァァ!!!!!! 死ぬってこれは死ぬ!!」
雷を受けて悲鳴を上げながら転がり続ける領主。
「クソが!! 流石は我が妹…………。この俺様をここまで追い込むとは…………」
そんなことを言う領主だが、その体には一切傷がついていないように見える。敢えて言うなら、肩の部分がホクロの大きさくらい黒く焦げていることか。
「だが、あれだぞ我が妹よ。戦闘はいきなり決着つけるのではなく、弱技から段々と強いものにしていくのが定石だ。さもないと、読者に迫力が伝わらん。今みたいに奥義は使うな…………くぅ、痛い痛いぞ」
「……………………………………………………お兄様、それ、最弱技です」
「なぬ!!!!???? 今の奥義じゃないの?」
「えぇ。というか、お兄様の方が火属性の奥義使っていましたよね?」
「奥義なの?! 今の奥義なの?! え? 領主さっき、初っ端は奥義使うなとか説教しておきながら、自分は使ってるの?! どういうこと? しかも失敗してたよね?! 絶対してたよね? 奥義、チャッカマンじゃないよね?!」
俺がツッコミを何段も斬り入れると、フォンセが対応する。
「…………まぁそう言わずに、領主、お兄様は魔法めちゃくちゃ下手なんですよ」
「え?」
「しかも耐久力もないです。パンの耳で殴られてたんこぶ作るくらいには」
「弱すぎるだろ!!! しかもそれであんなにカッコよく魔法勝負しかけてるの?! シリアス感台無しだよ!!」
そんなやりとりをしていると、フォンセはわざとらしく咳をして、話を軌道に戻す。
「それで、お兄様。一体この物資とそこの緑色のホールはなんなのですか?」
「……………………『神への貢ぎもの』だ」
「はぁ? ここに来て何ご冗談を言われて」
「冗談でもなんでもない。闘いという命のやりとりをした相手に、嘘はつかん」
闘いっていうほどのもんじゃねぇだろ、チャッカマンめ。
「では、本当にその『神への貢ぎもの』なのですか?」
「そうだ。そこにある緑色のワームホールに月に一度大量の物資を入れて、神へと貢いでいる」
「な、ちょ、待ってくれよ領主。そんな説明で、はいはいそうですねと納得できるか?! それに変革の意図も一切理解できねぇよ」
「まだ説明の途中だ、パンイチのゴミ貧民が。黙るという行為を覚えろ」
なんか辛辣なんですけどぉ。
「…………結論、結果、いや最悪のケースといえば良いか。この貢ぎをしなければ、この国は終焉を迎える」
「「なっ」」
何を言っているのか理解できなかった。
「このことは国、いや領主だけの最高機密で、長クラスも、ましてや王女のお前すら知るべきものでないのだ。」
これは代々領主のみに受け継がれてきたことだが。そう言って、イタリア語の領主はゆっくりと語る。
「古来よりこの国の土地には1人の神様がいたそうだ。その神は土地に草木、水源、動物、空気といった生活に必要なものを人間に供給していたらしい。
だがある時。神は土地にそれらのものを供給するのをやめた。理由は簡単だ。皆に与えたはずなのに、それを奪い合い殺し合い、環境を汚染していく人間を見て、心底嫌気がさしたからだ。
そしてその土地はどんどんと廃れていった。
しかし人間も全員が悪人じゃない。廃れた街を治そうとする人たちが出てきて、徐々に元あった環境へと戻っていく。その姿を見て、神はある使命を人間に投げかけた。
それが『神への貢ぎもの』だ。詳しくいえば、神が人間に以前のように土地に豊富なものを与える代わりに、人間たちは皆でそれを分かち合い、皆それぞれが作ったものを神へと御恩として還元するというものだ。
最初の方はそこに住む者皆が協力をしてきた。誰もが仲間だった」
しかしそれは長くは続かなかった。
「暗黒軍の登場やモンスターの凶暴化によって、国に住む人たちは国よりもまず自分たちの街を守ることに専念するようになった。守るためにギルドを作り、それを強化するために物資を抱え込んだ。皆バラバラになってしまったのだ。
一方、国としては貢ぎを終わらせるわけにはいかないため、税として各地から物資の収集をした。これは貴様らも前から払っているだろう。
その税は慣習化されて、俺様の祖父も父もそれを継承してきた。もちろん俺様もこの話を聞いた時からそうするつもりだった」
だが現実は非情だ。
「これは誰から始めたのかは定かではないが、『神への貢ぎもの』として始めた税金を横領する領主が現れた。『今年は不作でした。なので貢ぎ少し減ります』などと言い訳をしては、自分の懐を温めたのだ。
その不正に気づいたのは、俺様の祖父。当然元々の貢ぎの量に急いで戻したが、今までのツケを払うのには時間が足らなかった。
父もなんとかツケを返そうと必死だったが、温厚な人間であるためか、増税には走れなかった。
そして、俺様が領主になった際、神からお告げがあったのだ。それは、これ以上貢ぎものを減らすもしくは、今までの分を返さないならば、土地への供給を無くすというものであった。
流石に震え上がったね。それと同時に時間もなかった」
だから暴君になったのだ。
「まずは他者想いのある優しい妹に、この事実を絶対に知られてはならないと思い、ここから遠ざける思いで、非情にもイジメをした。
そして自分の街の税金を少しでも取られたくないと、横領をする街の代表者たちをひれ伏せるため、土地などの変革をこちらの自由にやり、暴君であることを知らしめた。
変革も税の強制も、全ては前代達の尻拭いのためだったのだ」
そう言って、領主は俺たちに頭を垂れた。
「これが真相だ。そして納得して欲しい。暴君になり、変革などをしていることに。全ては、この国を救うためなんだ!!」
その言葉はあまりにも重かった。
「そしてこのことは黙っていてほしい」
と彼はいい立ち上がって、物資へと歩いていく。
「ひと月もしないうちに、貢ぎの時期が来る。そこまでに、ツケ分も払わないといけないんだ…………。だから、俺様は、私は変革を進めないといけない…………」
その後ろ姿は悲しさに溢れていた。
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