98 / 202
十一章
88話 王女
しおりを挟む
ぺたんこ視点
「あの、2号さんもオトリにしてきちゃっていいんですか?」
心配しそうにネネは私に質問してくる。おっと失礼。心配そうではなく、とりあえず聞いておかないと! という感じで質問してきた。
「まぁアイツ戦闘能力と逃走力はあるし、なんとかなるでしょ」
私はネネの手を引っ張り、初めての街を己の野生に任せて走り抜ける。
「警備隊も今はあの2人を追いかけているだろうから、私たちもできるだけ早く潜伏するわよ!」
「…………あれ? エナさん。警備が薄い、今こそ攻めるべきではないんですか? そのためにあの2人を生贄にしたとか云々」
「私も最初はそうするつもりだったんだけどね。ここの街の人たちの会話を、盗み聞きした感じ、何やら王族の出張があるらしく? 警備をそっちに割くらしいのよ。だからその日を狙うことに変更するわ!」
実は私は、走りながら街の人たちの会話や看板などの情報網には確実に目を通していたのだ。
いつもは『脳筋』だとか『ゴリラ』とか『ぺたんこ』だとか、真実とは5億光年ほど離れたことを言われるが、私はいつでもパワープレイで乗り切る人間ではない。
そう。決してアホではないのだ!!
「…………あの、エナさん?」
「なぁに、ネネちゃん? まだアイツらのことが心配? 大丈夫よ! アイツらは私の拳を受けて生きている人間よ。そう易々と死ぬ雑魚ではないわ!」
「…………いえ。そこには関しては今は全く心配していませんよ。今、ボクが聞きたいのは…………なんで同じ道何回も回ってるのかって事です」
「……………………………………………………………………………………………………………………」
タオイチ視点
「お、王女って…………どういうことだ?」
「どういうことの意味が分かりません。ウェブで『どういうこと』について検索しますか?」
「Ziriか!! てかノリいいな、王女様!!」
「何言ってんだ1号。ンなことより、なんで王都の王女がこんなところにいるんだよ」
2号は不思議そうな目で、フォンセに目をやる。見つめられた彼女は少し間を置いてから、優しく語る。
「家出です」
「「家出??」」
とてもじゃないが、王女から出てくるような言葉ではなかった。
「はいそうです。お二人もご存知な通り、私の兄、現領主は非常に横暴な人間です。その他者を気にしない自分勝手な態度は、何も他の街だけではなく、私たち身内や領主家に仕える者たち、そして王都の民たちにもベクトルは向いているのです」
「だから、王女様は?」
2号は次の言葉を促させる。
「王女とは呼ばず、フォンセとお呼びください。それで私はその態度によって、心に傷を得ました。それは家に居られなくなるほどのものです。なので、1人静かにこの家で過ごしているのです」
彼女は悲しそうに出来事を語る。
「…………そんなことがあったのか。それにしてもフォンセは血族だからアレだけど、領家に仕える者たちは辞めたりしないのか? そこまでパワハラなら、俺はやめるね」
今度は俺がフォンセに質問する。
「それができないのですよ。仕える者たち、ひとりひとりの血族は代々私たちの血筋に仕えてきました。それを変えることは、おふたりがモテモテになるくらい不可能なものなのです」
ん? なんかシリアスな発言かと思いきや、喧嘩売られてませんか?
そんな俺の感情なんてつゆ知らず、フォンセは言葉を進める。
「またお兄様、兄に賛同する者たちもいます。特に兄の側近警備を担当する騎士団は、その最たる例です」
そんなことを語ったフォンセは、何やら今度は不機嫌になる。
「あークソ兄貴のことを思い出してたら、ストレスが溜まってきた。マジでウザいなアイツ。傲慢で軽慢で驕慢で高慢で上慢で侮慢で暴慢なゴミ野郎が。だから幼少期から友達の1人もいねぇんだよ!! あーぶん殴りテェ」
「「ッッッッ????!!!!」」
俺と2号は思わず顔を見合わせてしまった。
「「お嬢様ァァ??!!!」」
見てしまったよ裏王女様を。高貴なお方じゃないの?! なんかもう幻滅だよ!!
そんなことを思っていると、フォンセは小さくコホンと咳をした。
「…………さて、話を戻しますと」
「「ノーコメントですか???!!!」」
俺たちの大声を聞いても、首を傾げるだけのフォンセ。
女性…………怖いな。思えば、思えば関わってきた女性たちでまともな奴なんて、いなかった気がする…………。
「えと、ですね。話を戻させていただきますと、私もお兄様にはうんざりしているのですよ。だからと言ってはあれですが、私もおふたり、ひいてはそちらのパーティの手助けをさせていただきます!!」
視点は戻って、ぺっちゃん。
誰がぺっちゃんですか。ぶち殺すぞ。
同じ道をざっと10周ほどした後に、私たちは宿泊施設が集まるエリアに来ていた。
今日テロではなく、殴り込みじゃなくて、領主に謁見するわけではないので、体を休める場所として宿泊施設を探しにきていたのだ。
いくつかのホテルを周ったところ、木造建築の少し年季が入ったような建物と、レンガ造りのラグジュアリー溢れる高級物件。この2つの施設しか空室がないようだ。
前者は粗末である代わりに値段は私たち向け。後者は文字通り高級だ。
今私たちはどちらを選ぼうか葛藤しているところである。
「うーん、どっちがいいかね」
「そうですね。ボクたちの財力を考慮すると、どう考えても木造の方だと思いますが…………」
「まぁそうなんだけどさ」
そうなんだけどと逆接で終わってるのには、もちろん理由がある。
せっかく王都まで来たのに、ただのボロ建物で泊まるのわねぇ。なんていうか…………そう、悔しい! ゆっくり休みたいしぃ。でもお金がないのは既知の事実…………。
その時ある考えが、雷鳴の如く頭に鳴り響く。
「そうか!」
「? どうしたんですか?」
「実はね、疲労したときにように備えて、旅館代を人数分持ってきてたのよ」
「ほう。エナさんらしくないことを!」
何やら失礼な気がするが、ここはスルーして、
「もちろんパーティメンバー想いの私だから、全員分のお金を持ってきてるのよ」
「ほう。耳を疑う発言ですが」
「けどアイツらは今いないから、その分の費用は浮くわけ」
「なるほど。つまり?」
「つまり、4人分を2人で分けられるから、あの高級ホテルに泊まれるのよ!!!!」
「な、なんと?!!!」
ネネは最高の結論にビックリしているようだ。
「聞けばあのホテル、美味な料理や疲労回復の温泉に、ふかふかのベッド、そしてマッサージもあるらしいわ!!!」
「ッッッッ!!!!!!!!!!」
「さぁて、あの変態たちのことなんて忘れて、私たちは楽しみましょう!!!!」
タオルの変態視点
「ベックションッ!!!」
「どうした1号。タオルの変態がクシャミをすると絵的にマズい。まぁ、絵はないけどさ。読者の想像が可哀想だろ?」
「…………何言ってんだお前。そんなことより、なんか貶されてる感じを感じなかったか?」
「さぁ」
そんな会話をしていると、フォンセが俺たちに言ってくる。
「2日後に、私の弟が他の街に行く用事がありまして、その影響で警備隊が割かれるんですよ」
なので。と彼女は続ける。
「その日に攻め込むのが最も合理的だと思うのですが、どう考えますか?」
「まぁ、それが無難だろ」
「ですよね。なので2日後までに、おふたりもパーティメンバーと合流した方が良いかと思います」
確かにそうだな。会ったら、まずアイツを時計台に投げ飛ばそう。
俺が決心している間に、フォンセは語る。
「それでおふたりから聞いたパーティメンバーの特徴をもとに、索敵魔法を飛ばしてみたところ。そのメンバーの場所がわかりました」
その場所は。
「現在彼女たちは、高級ホテルのマッサージルームにいます」
「「よし殺そう」」
「あの、2号さんもオトリにしてきちゃっていいんですか?」
心配しそうにネネは私に質問してくる。おっと失礼。心配そうではなく、とりあえず聞いておかないと! という感じで質問してきた。
「まぁアイツ戦闘能力と逃走力はあるし、なんとかなるでしょ」
私はネネの手を引っ張り、初めての街を己の野生に任せて走り抜ける。
「警備隊も今はあの2人を追いかけているだろうから、私たちもできるだけ早く潜伏するわよ!」
「…………あれ? エナさん。警備が薄い、今こそ攻めるべきではないんですか? そのためにあの2人を生贄にしたとか云々」
「私も最初はそうするつもりだったんだけどね。ここの街の人たちの会話を、盗み聞きした感じ、何やら王族の出張があるらしく? 警備をそっちに割くらしいのよ。だからその日を狙うことに変更するわ!」
実は私は、走りながら街の人たちの会話や看板などの情報網には確実に目を通していたのだ。
いつもは『脳筋』だとか『ゴリラ』とか『ぺたんこ』だとか、真実とは5億光年ほど離れたことを言われるが、私はいつでもパワープレイで乗り切る人間ではない。
そう。決してアホではないのだ!!
「…………あの、エナさん?」
「なぁに、ネネちゃん? まだアイツらのことが心配? 大丈夫よ! アイツらは私の拳を受けて生きている人間よ。そう易々と死ぬ雑魚ではないわ!」
「…………いえ。そこには関しては今は全く心配していませんよ。今、ボクが聞きたいのは…………なんで同じ道何回も回ってるのかって事です」
「……………………………………………………………………………………………………………………」
タオイチ視点
「お、王女って…………どういうことだ?」
「どういうことの意味が分かりません。ウェブで『どういうこと』について検索しますか?」
「Ziriか!! てかノリいいな、王女様!!」
「何言ってんだ1号。ンなことより、なんで王都の王女がこんなところにいるんだよ」
2号は不思議そうな目で、フォンセに目をやる。見つめられた彼女は少し間を置いてから、優しく語る。
「家出です」
「「家出??」」
とてもじゃないが、王女から出てくるような言葉ではなかった。
「はいそうです。お二人もご存知な通り、私の兄、現領主は非常に横暴な人間です。その他者を気にしない自分勝手な態度は、何も他の街だけではなく、私たち身内や領主家に仕える者たち、そして王都の民たちにもベクトルは向いているのです」
「だから、王女様は?」
2号は次の言葉を促させる。
「王女とは呼ばず、フォンセとお呼びください。それで私はその態度によって、心に傷を得ました。それは家に居られなくなるほどのものです。なので、1人静かにこの家で過ごしているのです」
彼女は悲しそうに出来事を語る。
「…………そんなことがあったのか。それにしてもフォンセは血族だからアレだけど、領家に仕える者たちは辞めたりしないのか? そこまでパワハラなら、俺はやめるね」
今度は俺がフォンセに質問する。
「それができないのですよ。仕える者たち、ひとりひとりの血族は代々私たちの血筋に仕えてきました。それを変えることは、おふたりがモテモテになるくらい不可能なものなのです」
ん? なんかシリアスな発言かと思いきや、喧嘩売られてませんか?
そんな俺の感情なんてつゆ知らず、フォンセは言葉を進める。
「またお兄様、兄に賛同する者たちもいます。特に兄の側近警備を担当する騎士団は、その最たる例です」
そんなことを語ったフォンセは、何やら今度は不機嫌になる。
「あークソ兄貴のことを思い出してたら、ストレスが溜まってきた。マジでウザいなアイツ。傲慢で軽慢で驕慢で高慢で上慢で侮慢で暴慢なゴミ野郎が。だから幼少期から友達の1人もいねぇんだよ!! あーぶん殴りテェ」
「「ッッッッ????!!!!」」
俺と2号は思わず顔を見合わせてしまった。
「「お嬢様ァァ??!!!」」
見てしまったよ裏王女様を。高貴なお方じゃないの?! なんかもう幻滅だよ!!
そんなことを思っていると、フォンセは小さくコホンと咳をした。
「…………さて、話を戻しますと」
「「ノーコメントですか???!!!」」
俺たちの大声を聞いても、首を傾げるだけのフォンセ。
女性…………怖いな。思えば、思えば関わってきた女性たちでまともな奴なんて、いなかった気がする…………。
「えと、ですね。話を戻させていただきますと、私もお兄様にはうんざりしているのですよ。だからと言ってはあれですが、私もおふたり、ひいてはそちらのパーティの手助けをさせていただきます!!」
視点は戻って、ぺっちゃん。
誰がぺっちゃんですか。ぶち殺すぞ。
同じ道をざっと10周ほどした後に、私たちは宿泊施設が集まるエリアに来ていた。
今日テロではなく、殴り込みじゃなくて、領主に謁見するわけではないので、体を休める場所として宿泊施設を探しにきていたのだ。
いくつかのホテルを周ったところ、木造建築の少し年季が入ったような建物と、レンガ造りのラグジュアリー溢れる高級物件。この2つの施設しか空室がないようだ。
前者は粗末である代わりに値段は私たち向け。後者は文字通り高級だ。
今私たちはどちらを選ぼうか葛藤しているところである。
「うーん、どっちがいいかね」
「そうですね。ボクたちの財力を考慮すると、どう考えても木造の方だと思いますが…………」
「まぁそうなんだけどさ」
そうなんだけどと逆接で終わってるのには、もちろん理由がある。
せっかく王都まで来たのに、ただのボロ建物で泊まるのわねぇ。なんていうか…………そう、悔しい! ゆっくり休みたいしぃ。でもお金がないのは既知の事実…………。
その時ある考えが、雷鳴の如く頭に鳴り響く。
「そうか!」
「? どうしたんですか?」
「実はね、疲労したときにように備えて、旅館代を人数分持ってきてたのよ」
「ほう。エナさんらしくないことを!」
何やら失礼な気がするが、ここはスルーして、
「もちろんパーティメンバー想いの私だから、全員分のお金を持ってきてるのよ」
「ほう。耳を疑う発言ですが」
「けどアイツらは今いないから、その分の費用は浮くわけ」
「なるほど。つまり?」
「つまり、4人分を2人で分けられるから、あの高級ホテルに泊まれるのよ!!!!」
「な、なんと?!!!」
ネネは最高の結論にビックリしているようだ。
「聞けばあのホテル、美味な料理や疲労回復の温泉に、ふかふかのベッド、そしてマッサージもあるらしいわ!!!」
「ッッッッ!!!!!!!!!!」
「さぁて、あの変態たちのことなんて忘れて、私たちは楽しみましょう!!!!」
タオルの変態視点
「ベックションッ!!!」
「どうした1号。タオルの変態がクシャミをすると絵的にマズい。まぁ、絵はないけどさ。読者の想像が可哀想だろ?」
「…………何言ってんだお前。そんなことより、なんか貶されてる感じを感じなかったか?」
「さぁ」
そんな会話をしていると、フォンセが俺たちに言ってくる。
「2日後に、私の弟が他の街に行く用事がありまして、その影響で警備隊が割かれるんですよ」
なので。と彼女は続ける。
「その日に攻め込むのが最も合理的だと思うのですが、どう考えますか?」
「まぁ、それが無難だろ」
「ですよね。なので2日後までに、おふたりもパーティメンバーと合流した方が良いかと思います」
確かにそうだな。会ったら、まずアイツを時計台に投げ飛ばそう。
俺が決心している間に、フォンセは語る。
「それでおふたりから聞いたパーティメンバーの特徴をもとに、索敵魔法を飛ばしてみたところ。そのメンバーの場所がわかりました」
その場所は。
「現在彼女たちは、高級ホテルのマッサージルームにいます」
「「よし殺そう」」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
10
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる