この眼の名前は!

夏派

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十章

73話 大掃除

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「…………なぁ2号」

「…………疲れてんだ、話しかけるなアホ」

「…………なぁ2号」

「話しかけるなって伝えたよな?」

「2号」

「耳が悪いのか頭が悪いのか、はっきりしてくれ」

「…………なんで俺たちは、こんなことしてんだ?」





 C時間前

 俺は優雅に睡眠をとっていた。いつも通り、椅子に座って眠るというものだが、慣れてくるとこの形でないと眠れない。

 寝ている時は素晴らしい。パンイチの変態を目に入れずに済む(起きたら目の前に入るが)。怪力娘の厄介にもならずに済む(起きてる間は常に厄介になるが)。クソ貧乳に罵倒されることもない(起きていれば罵倒されるが)。

 だから睡眠は好きだ。

 だが。

「グッボォッッ!!!!!!!!!!!」

 不意に声を上げたのは、腹部に重い一撃を喰らったからだ。俺はそのまま採れたての魚のように跳ね上がる。

「な、何しやがんだ! ぺたんこ!!!!!」

 俺に拳を繰り出してきたのは、真っ赤なショートヘアで、耳に赤い宝石のあるイヤリングを付けているエナである。

「あ、起きた」

「起きたじゃねッッ!!!! おま、人様を急に殴っておいて、第一声それか?!!」

「耳元でうっさいわねぇ。ご近所迷惑わよ?」

「……………………どの口が言うか、この小娘」

「まぁちっちゃい事は気にしないでさぁ」

「お前はちっちゃいお胸を気にしてるようですが?」

 蹴ッッ!!!!!!!

 彼女の蹴りが俺の鼻先寸止めのところで止ま……らずに俺に直撃する。

「ヌッハァッッ!!!!!」

 俺は鼻から血を出しつつ、椅子から転がり落ちる。

 べ、別に鼻血が出てるのは、エナのパンチラに興奮したわけじゃないんだからね?!

 俺は血を拭いつつ立ち上がり、イヤリングを泳がすエナを睨む。

「お前…………どういうつもりだ?」

 彼女は無言で俺に紙を見せてきた。

「おいおい、まだ番外編じゃねぇだ…………あ」

 その紙には、『ライト大掃除』とどデカい題名があり、下の方に詳細が書かれていた。

 『遅刻罰金』とかいう怖い文字も書いてあった。

「やっべ」

 俺は飛ぶように家を飛び出した。





 Z分後 ギルド前

 ライト大掃除とは月に一度催される、街中を掃除するイベントだ。参加者は指定されたパーティがやることになっている。

 これの意図は、普段から暴力性がある冒険者たちも掃除をするんですよと周囲にアピールして、真面目真摯なところを見てもらうことなのだ。

 そして今回は俺たちのパーティが、その担当なのである。他にもいくつかのパーティが集合している。

 また遅刻は厳禁だ。真面目をアピールするための企画なのに、遅刻なんてしていたら矛盾してしまうからなのだ。

 汗水垂らしながら、俺はギルドのお姉さんの話を聞く。

 ふー疲れた。罰金なんて嫌だし、払える金もねぇからなぁ。タオイチのおかげで、身支度の準備という概念がないから、楽でいい。

 そんな風に思考に浸っていると、

「——って感じでお願いします! では皆さん頑張ってください!!!」

 お姉さんの言葉が聞こえてきて、それぞれが指定されたエリアへと歩き出して行く。

 俺もエナからホウキを渡されて歩き出す。

「つーか、真面目アピールのためになんでこんなことしなきゃいけねぇんだよ」

 指定されたエリアまで歩く途中で、2号が文句を口に出す。

「ほんとそれ納得するわぁ。この時間があったらクエスト行けるぞ」

 俺が賛同すると、

「アンタらの格好は環境型セクハラなんだから、真面目さアピールしなきゃダメでしょ」

「おふたりは、生きてるだけで恥ずかしい存在なので、真摯に紳士を振舞うべきですよ」

 とかとか、ぺたんこコンビが口を出してくる。

「ぺたんこよぉ、俺らの格好が環境型セクハラとか言うならさ、お前らの格好は服装ハラスメントだろ」

「「はぁ??」」

「だって、服なんて布に体を拘束される拷問具だぞ?! セクハラとかよりヤバイだろ!!」

「そうだそうだ!!!!!」

 俺と2号が抗議を入れる。するとエナはゴミを見る目で見てくる。

「…………アンタらの感性…………バグってるわね」

「バグとはなんだバグとは」

 そんなくだらない会話をしつつ、指定された場所で俺はホウキを使って掃除を始める。




 ホウキを使って掃除を始め、早何分か。短い柄のせいで腰が痛くなってきた。

 はぁーかったりぃ。早くおわんねぇかなコレ。

 などと思っていると、背後から走ッッ!! 音が聞こえ、

「へんたい、かくごぉぉっっ!!!!!」

「へ?」

 振り返ると、剣を構えるように木の棒を両手で構えながら、こちらに走ってくる少年の姿が。

 そして。

「とぉ!!!!!」

 その少年は俺目掛けて、その棒を振り下ろしてきた。回避行動すらせずに俺はそれを頭で受ける。

「いでぇ!!!!!」

 額が熱くなったので触ってみると、触った手に赤い液体が付いていた。

「ふふふふふふふふふふ」

「くそ! やっぱりおれのちからじゃ、たおせないか?!」

「テメ、クソガキがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 俺が叫びながら飛び上がると、クソガキは俺を見て、

「うっわぁぁ!!!!! へんたいがおこったぁ!!!!!!」

「だっっれが、変態だ!!! このクソガキがよぉ!!!!」

「さっきからうるせぇぞ、1号」

 と2号がちりとりを持って俺のところに歩いてくる。

「…………なんだ? そこのガキは」

「あ、あ、」

「知らん。急に飛び出してきt」

「へんたいが、ふたりにふえたァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」

「「誰がだ?!!!! クソガキッッッッ!!!!!!!!!!!」」

 俺と2号が、目の前のクソガキをキレた状態で睨みつけると、彼は肩をブルブル震わせしまいには、

「うっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!!!」

 2つある目から涙を流し始め、泣き始めた。

「ァア!! 人様を変態呼びして睨まれれば、泣き出すのかクソガキィ?!!!!」

 2号がチンピラのように顔をガキンチョの顔に近づける。

「ほっっんとだぜ?!! どんなキョーイク受けてきたのか、気になるねぇ?!!!!!」

 俺も2号と同じような行動をする。すると、彼はより一層声を荒げて泣き出す。

 …………チッ、ガキは泣きゃいいと思ってやがる…………。

 そう思っていた刹那。トントンと肩を叩かれた。

 そちらの方に不機嫌な顔をしながら向くと、

「ヘへへ」

 俺があげたイヤリングを光らせて、純粋な笑顔なエナがいた。

「ねぇタオイチ」

 声は氷河期のように冷たかった。

「これはどういうこと、カナ?????」

「ち、チンピラ役の…………練しゅォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ?!!!!!!!!!!!!!!!!」

 口を縛らなかった風船のように、俺は空へと吹き飛ばされる。

 …………こりゃロケットの方が表現合ってるな…………。





 俺と2号は硬い地面の上で正座をしていた。その前には、エナにネネ。更にはギルドのお姉さんと、クソガキにその母親が佇んでいた。

「…………それで? アンタらの言い分は理解したけど…………だからって、泣かせるのは最低よね?」

 腕を組み俺たちを見下げるぺたんこ。

「「…………仰る通りでございます」」

「あ、あの!!! でもうちの息子も…………その、冒険者さんを殴ってしまったみたいなので…………」

 母親が優しく声を掛けてきた。その言葉を聞いて俺たちは、

「「ですよね?!!! お宅のガキンチョが100悪いですy」」

「「「…………………………………………………………………………………………………………」」」

 エナネネに受付のお姉さんが、無の表情で俺たちを見つめてくる。

「「いえ…………俺たちが全部悪いです…………ハイ」」

 とりあえず頭を地面に付ける。

「ほら、ゆーくんもごめんなさいしなさい」

 母親がガキンチョの頭に手を置いて、謝罪を促す。だが、

「えーやだよ」

「な、なんで?」

「だってえほんにかいてあったもん。ぱんついっちょうは、へんたいなかんぶだって」

 …………それって…………最初に戦った暗黒軍幹部の白鳥変態のことではないか? え? アイツと見間違えられたの?!

「ゆ、ゆーくん。その変態さんは倒されたから、このお兄さんたちじゃないよ!」

「え? そうなの? へんたいだからそうかとおもった」

 その言葉を聞いて、何故だか悲しくなる。

 すると今まで聞いていた受付のお姉さんが手を叩き、

「じゃ、じゃあ、この件も万事解決ということで!!」

 なんも解決してねぇ。



 その後も嫌な気持ちを引きながら、俺たちは家に帰った。いつもの通りの帰宅なはずだった。

 だが。

 ひとつ確かな違うことがある。それは、

「あうーーーーーー。だずげでぐだざい」

 家の目の前に、パンイチの黒髪が涙流して倒れていたことだ。

 だからそれを見て俺は言う。

「絶対に嫌だ」
 
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