この眼の名前は!

夏派

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九章

71話 バッレインタイン 女性サイド

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「…………アンタは、警察と私。どっちのお世話になりたい?」










 2月14日がやって来た。繰り返すわ、2月14日がやって来た。

 流れで始まった忍の里クエストも、途中で出て来た暗黒軍幹部も、ミナとの話も無事に完了して、2月になった。

 そして今、私とネネは仲の良い女性陣たちと、女性限定の公民館のようなところに来ていた。

 その目的は…………

「さぁって、早速作っていきますか…………」

「そうね、この日のために色んな準備してきたしね…………」

「この日が勝負よ…………」

 公民館にいる女性陣たちが叫ぶ。

「「「「バッレインタインが!!!!!!!!!!!!!」」」」






「まぁ作る前に、みんなは誰にあげるの?」

 茶髪ポニーテールのウザいことに巨乳のアヤが、言葉を発する。

「私は◯◯ー」「ウチは△△~」「私は——」「私もー!!」

 といった感じで、各人各々が喋るのを聞いて私は、

「…………そもそも…………なんで誰かにあげなきゃいけないのよ…………」

 ボソリと呟くと、なんだって?? と金髪ロングのまたウザいことに巨乳のナナが、私に絡んでくる。

「えー、何言ってんのよエナ。アンタこそ、誰かにチョコあげないと~!」

「ッ、なんでよ?!! そもそもチョコ作るお金もないし、あげる相手もいないし…………」


「またまた~! だって、エナ、あの2人と同棲してるじゃない!!」

「あ、アレは同棲とは言わないわよ!!」

「じゃあ、なんて言うのよ?」

 アヤの発言に少し考えて、

「…………そ、そうね。あれは…………飼育?」

「「「「プッパァッ!!!!!!!」」」」

 私の言葉を聞いて、周りにいた女性陣たちが吹き出した。

「ぷっ、エナ…………飼育ってぷぷ」

「あの2人が聞いたら、『飼育されるのはお前だろ、ゴリラ』とか言い出しそうねぷぷ」

「ホッッッンとに、アンタらのパーティは見てて面白いわ!!」

 目に涙なんて浮かべながら、彼女たちは笑ってくる。

 くそ、こやつら、人数使って笑いやがって…………!!!

 などと私が悔しがっていると、ナナが、

「まぁアレね。エナもあげる人は作ってる途中にしっかり決めておくことね」

「だ、だから、なんで私が誰かにあげる前提になってるのかな?!」

「まぁまぁ。それに恋愛脳のエナこそ、バッレインタインは頑張るべきだと思うけどなぁ。材料費くらい出してあげるからさ!!」

「は、はぁ…………」

「ほら、ネネちゃんも興味津々だし、やるだけやってみようぞ少女よ!!」

 どんなキャラだよアンタ。

 アヤの言葉を聞きつつ、ネネの方を見ると、彼女はアリ一匹見逃さないかのように、チョコレートの材料を凝視していた。

 …………あの子は、別の意味で興味津々ね。




「んで、なんで私の型はハートなのかしら?!?!!!!!!!!」

 公民館のキッチンに移動した私のテーブルの上には、材料とハートの型抜きが置いてあった。

 最初にコレを見たときは、全員共通でハートかと思ったが、他のテーブルには丸型や星形など雑多な型抜きが置いてあった。

「エナ!!」

 ナナが胸を揺らしながら私に伝えて来た。

「さ・っ・し・て・ね・🤍」

 なんじゃあの子娘。殺してしまいそうなくらいウザいぞ。

 しかしウダウダ言っても事態は好転しそうもないので、私は渋々この型で作り始める。

 まぁ、最悪。ネネちゃんにでも渡せばいいか。

 気分を一転させて、私はチョコレート作りに集中する。やはりせっかく作るなら、ちゃんとしたものを作りたいのだ。

 えーと? 最初は卵を割ってこのボウルに入れると…………余裕ね。

 と思い、卵を割った。

 弾ッッ!!!!! 

「へ?」

 なぜか分からないが、黄身と殻が宙に舞った。そして華麗に舞う黄身は弧を描き、茶髪の上に乗っかった。

「…………ヤッベ」

「…………エーーーーナーーーー?!? うふふふ、コレは何のドッキリかなぁ?」

 やけに笑顔なアヤに近寄られて私は、

「ご、ごめん…………。な、なにせ、モヤッシー以外の料理…………初めてだったから…………」

 困り顔で伝えると、アヤはため息をついて、

「まぁ、あらかた予想はしてたけどね! 分かった! エナ、私とナナが教えてあげる!!」

「あ、や…………」

 力強い一言とともに、私の料理が始まった。

 だが。

 弾ッッ!!! 壊ッッ!!! 割ッッ!!! 悲ッッ!!! 砕ッッ!!! 爆ッッ!!!!!!!!!!

「あーもー!!! 嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 私は黄身やチョコやパウダーなどで汚れた体のまま、その場に倒れ込んだ。

 公民館のキッチンは、まるで戦闘が起こったかのような酷い有り様である。

「ま、まさか…………ここまでのレベルとはね…………」

「完全に想像を超えて来たわ…………。これじゃあ戦争してるのと何も変わらないわ」

「いくらモヤッシーしか調理してこなかったと言えど…………」

「チョコレート作りで、爆発が起こるとは思いもしなかったわ」

 周囲の女性陣たちからの声が心に刺さって、痛い。

「まぁ、まぁ、でも…………エナも後少しまで来たから頑張ろうよ!!」

 ナナが私の肩に手を置いて優しく接してくれる。

「で、でも…………私…………センスが…………ないし…………」

「………………………………………………………………」

 ナナが私に返す言葉を模索してると、アヤが私に声をかけてきた。

「いいのかいエナ? アンタこのまま料理できなかったら…………1号くんに『やっぱりゴリラは料理出来んのか』とか言われるわよ」

「なっ」

 その言葉だけは絶対に、あのクソ野郎には言われたくないッッ!!!

「わ、わかったわ!! 私は…………料理頑張るわ!!!」

 そして再びチョコレート作りに奮闘した。



 Q分後

「や、やっと…………できた」

 私の手にあるのは、ハート型のチョコレート…………であるはずだ。

 は、ハート型だよね? これ。というかなんか茶色ってより、暗黒性帯びてる気が…………。

「おーエナ!! よくできるじゃん!」

「なんの皮肉かな?」

「いやいや…………あのエナがここまでやってのけたのは凄いよ!」

「そ、そうかな?」

「そうだよ! さっきまではなんていうか、Gみたいな感じだったけど、今は食べ物になったって感じかな!!」

「そ、それ、褒められてるのかしら?」

 私が例の2人と会話をしていると、自身の作ったチョコを食べながら、ネネが話しかけてきた。

「大丈夫ですよエナさん!」

「ネネちゃん?」

「男なんて基本、手作りだよと伝えれば、イチコロですから!」

「そ、そういうものかな?」

「ええ!! だから自信持ってくださいよ!!」

 …………だといいなぁ。せっかく作ったんだし…………。

「んにゃ、そういえばネネちゃんは誰にあげるの?」

 髪をなびかせながら、アヤがネネに問いかける。それに対して、彼女は即答する。

「ボクはエナさんが選ばなかった方にあげますよ!」

 なぜかウィンクしながら、私を見てくる。この結果、ネネに渡せば良いという選択肢は無くなった。

「ぷ、だってよエナ!! まぁもう決まってるとは思うけどね!!」

「は? 誰が決まってなんか…………」

「だってエナ、さっきからずっと1号くんのことばっか、考えてるじゃん」

 ナナの一言で唖然とする私を他所に、チョコレート作りは終わった。







 H分後 家

 家に帰った私は、チョコレートを置いて一息をついていた。

 そんな時、家のドアが開きリビングの扉も開いた。

 そちらに目をやると、覚悟を決めたような顔でタオイチがこちらに向かってきた。

 そして私に一言。

「エナ…………おっぱ◯、揉んでもいいか?」

 意味不明な言葉であったが、私は冷静に答える。

「…………アンタは、警察と私。どっちのお世話になりたい?」

 私が返答すると彼は、

「選択を間違えたか…………」

 などと呟く。

 選択って何よ選択って。噂に聞く、エ◯ゲーのことかしら。

「まぁとりあえず、アンタの変態発言はさて置いて。…………これ、一応作ったからあげるわ」

 私はテーブルに置いていたチョコレートを取り、それを変態に渡す。受け取った変態は笑顔になったが、

「…………なんで…………ハート型?」

 疑問をぶつけてきた。そして、

「ま、まさかお前。俺のことが…………」

「ち、違うわよ!! それしか型抜きが無かった云々」

 私が焦って必死に説明すると、何故かニヤけた彼はチョコを持って、

「ま、あっちで楽しく食べてくるよ! 毒とか盛ってねぇよな?」

 殴ッッッッ!!!!!!!!!!!!!!

 無言でタオイチの顔の横に、私は拳を繰り出した。

「じょ、冗談です…………」

 と言って、自身の寝室(物置)へと歩んでいく。

 あの失礼変態野郎が、私のチョコにどう反応するかが気になるわね…………。ついて行って盗み聞きしてやるわ!!

 私が階段を上ると、丁度彼の感想が壁越しにうっすら聞こえた。彼は刀変態とチョコの感想でも言い合ってるようだ。

「(ウメェ! ネネから貰ったこのチョコうめぇ!!)」

「(かてぇ、にげぇ、ボロボロだな。このチョコ。上手いか下手かと言われれば、間違いなく後者だな)」

 あのゴミ野郎ッッ!!! 人の苦労も知らないでッッ!!!

 はらわたが煮えくり返りそうになった。

「(そんな文句言うなら、食うなよ1号)」

 刀変態の言葉は最もだ。

 怒りに任せてタオイチをどう調理しようと模索していた時、彼の言葉が胸に響いた。

「(でも、まぁ。努力の味が感じられて、こころがあったまるぜ!!)」

「(!! ほぉ、それはつまり?)」

「(エナの愛情が感じられて、最高に美味しいってことだよ!!)」

 胸に響いたその言葉。

 何故だか、胸と頬が赤くなった。
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