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五章
30話 服
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ここはギルド。そこにあるテーブルには2人の勇ましい男たちが座っていた。
「……いよいよ明日だ」
「……ついに明日か」
その男達は同時に言う。
「「キカ様の祭典は!!!」」
周りにいた人たちが俺とヒロトを見てくる。しかしそんな視線はもはやどうでも良い。
ヒロトが口を開く。
「さて、明日はキカ様の生誕祭だからな。俺たちも一層気合いを入れる必要がある」
「当たり前だな。俺はまだファン歴は浅いし、ライブなんて一度も……いや正確には一瞬だけ行ったことがあるが、生誕を祝いたい気持ちは本物だ」
「ふっ、その言葉が安心したぜ。コウライ様にチケットを譲って貰ってから今日まで俺たちは死ぬほど頑張ってきたからな」
「そうだな。前回やらかしたバイト先の請求もただ働きで返したからな。しかもアレも調達した……」
「……そろそろ来るぞ」
ヒロトが時計を見てそう言うと、扉が開き2人の男が入ってきた。
1人はシリ。久しぶりに登場したモブキャラだ。もう1人は犯罪者フル。歳下ネネに発情したど変態だ。
「おう、お前ら来ていたのか、早いな」
シリがそう言ってくるので俺も挨拶を返す。
「お前何話ぶりだ? もう読者、お前のこと忘れてるよ」
「オイそれは酷いぞ!」
シリのつまんないツッコミを無視し、俺は犯罪者に声をかける。
「よぉ犯罪者。意外とオリから出てくるのが早かったな」
「まぁな。実際には手を出してないからな。ネネちゃんはあいにく、少し歳が高い」
犯罪者の発言にはツッコミを返さない。こんな変質者の発言には突っ込むべきなのだろうが、今日の俺とヒロトは冷静だ。
ヒロトが手をテーブルについて話しだす。
「今日、皆に集まってもらったのは他でもない。明日の作戦のために来てもらった」
まるで冷徹な司令官のように語るヒロト。
「まぁ俺たちには関係ないけどな。とりあえず言われたものを持ってきたぞ」
フルはそう言い、持ってきた袋からある物を取り出す。シリも同時に同じ行動をする。
ゴザゴサと袋の音がし、取り出された物がテーブルの上に置かれる。
置かれた物を手に取ると、冷静に振る舞っていた俺たちは爆発した。
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」
フルにシリ、ギルドにいる全員が雄叫びをあげる俺たちを見る。もちろんそんな目線なんて気にしない。
「ふ、服だ!!!」
「ぬ、布だ!!!」
そう俺とヒロトが2人から受け取ったのは、服だ。
「そ、そんな、叫ぶほどかよ? ただのやっすい服だぞ。千ゴルドもしないぞ」
「バッキャロウ!!!」
俺は本気の目でそう言ったシリを睨む。恐らく相手がネネなら泣いてエナにチクリ、俺が殺されるくらいだ。
「ど、どうしたんだ急に」
「お前ら服を着てる、布の有り難みを知らん三下達には分からんだろうな!! 俺たちが! 俺たちが……ウゥッ」
ヒロトはそう言うと、目から涙を流し始める。
うわっ、なんで泣いてるの? そんな顔をフルがする。俺はそれを見て言う。
「ヒロトの言う通りだぁ!! 俺たちが一体何ヶ月!! 晴れも雨も関係なく!! パンイチで過ごしてきたと思ってる!? ……あ、やべ、回想してたら涙が……」
俺は慌てて目頭を抑えるが遅い。涙は頬を流れ、ポツンポツンと地面に垂れる。
するとその様子を見ていたギルドの奴らが、いつものように俺たちに聞こえるか否かの声で喋る。
「おいおいアイツらガチ泣きしてるぞ」
「ホントに怖いわね。アレだからパンイチは」
「この街の恥部とはよく言ったもんだ」
「一緒に住んでるエナ達はホント尊敬だわ」
俺たちは一通り泣き終わると、引いた顔をするシリとフルのアホバカコンビを一瞥し、
「「我々、キカ様同盟は今日ここに服を着ることを宣言します!!」」
敬礼をしてそう言い、伝説的幻の人類最大発明を着ることに移行する。
まず俺はタオルを脱ぐ。そして服の表と裏を確認する。次に前後を確認した。少し手を入れると、それを上に持っていき、顔を入れる。そのまま左右の2つの穴から手を出す。そしてセントラルサンシャインから、自分の顔を出す。最後の仕上げとして、服の下部を引っ張り、背中が完全に隠れるようにする。
これで何ヶ月振りの服を着たことになる。
服を着た俺とヒロトは目を合わせて、
「「ふっ」」
そう言う。そして、
「「なんだこれは!!!!」」
俺とヒロトは服を破らんばかりの力で脱ぎ、地面に叩きつける。
その場にいた全員が唖然とする。
「…………………………え?」
「なんなんだ!! 服を着たら皮膚が擦れる!!!」
「ちくちくするぞこの服!!! 皮膚が痛い!!!」
「…………………………は?」
「ガザガサが痛い!!」
「服とはこんな酷い物なのか!!」
「お、お前ら……な、何を言ってるんだ?」
フルが恐る恐る俺たちに質問をしてくる。俺たちは同時に答える。
「「服が……着れない」」
W秒後
服を脱ぎ捨て、いつものパンイチの格好になった俺たちは再び椅子に座る。
「しかし困ったな。服を着ることができないだなんて」
ヒロトはそう話始める。俺は頷き、
「あんなガザガサと肌が擦れる状態じゃ、ライブは行けないな。最高のコンディションでないと、キカ様に失礼だ」
「全くだ」
俺とヒロトの会話を聞き、フルが俺たちに尋ねてくる。
「……服が着れないとは、お前たち異常だぞ」
「異常とはなんだ、異常とは。俺たちからすれば、むしろ服を着ているお前たちの方がよっぽど異常だぞ」
俺の言葉にシリが突っ込んでくる。
「俺たちが異常なわけないだろ!! 周り見てみろよ! 皆服着てるぞ!」
「アホか。皆が! 大多数が! というがな、ソイツら全員が正しいとは限らんぞ」
2号の切り返しに、シリはため息をつく。
「はぁー、お前らもうダメだ」
「フン、勝手に言っておけ。それよりも問題は、俺たちが服を着れないというところにある」
「もうこのままの格好でも良いんじゃないか」
俺の言葉にヒロトは反抗する。
「しかしこれじゃ失礼だろ。それにまた警備員に止められるオチが見える」
「アホかお前。失礼? 違うな。お前もさっき気づいただろ? 服を着てるのが『そもそも』おかしいんだ。それをキカ様に伝えてみろ」
俺の言葉にヒロトはハッと気づく。
「ま、まさか……」
「ああ、そのまさかだ。服がおかしいと気づいたキカ様はどうする?」
「ぱ、ぱ、パンイチになる……だと?!」
その様子を想像してか、ヒロトは鼻から赤い血を垂れ流す。
「「パンイチになるわけないだろ!!」」
フルシリコンビがそんな戯言を言ってくるが無視だ。
「き、キカ様の女神の恵みを見ることができるのか……」
「そうなるな。パンイチが正義ということを伝えるのは超重要な事柄だ」
俺とヒロトは顔を見合わせる。頷き合って立ち上がり手を取る。
「「絶対に成功させるぞ!!」」
「誰かこのバカたちを止めて!!」
フルがそう叫んだ。
Z分後
エナの家に帰った俺とヒロトは、テーブル上にライブ会場の見取り図を広げていた。
「うーん、やっぱり最初の障害は警備員だな。刀を使えば黙らせることもできるが、キカ様の手前、危険な事はしたくない」
「同感だ。野蛮な人間の言うことは聞きたくないだろうしな」
うーんと俺たちは少し悩む。
野蛮なことはできない。しかし警備員を突破することは絶対条件だ。警備員達が逃げ出すくらいのことが起きれば……そうか!
「分かったぞ、ヒロト!! 俺の眼を使えば良いんだ!」
俺は左眼をピースで強調しながらそう言う。
「なるほど!! その眼で警備員を見て、奴らの気を引く作戦を立てるんだな! 流石フウタ!!」
「ああ、これなら行けるぜ!」
警備員突破作戦は決まった。
「あとは、いかにステージの上に行ってキカ様に会うかだな」
ヒロトの言葉に俺は答える。
「そこはお前の師走だろ」
「まぁそうなるな。これで作戦も完璧だ!」
「よし!! あとはイメトレだな」
俺とヒロトが作戦を決めて盛り上がっていると、エナがリビングに入って来た。
「あ、ここにいたのね。アンタたち、明日クエストに行くわよ」
キカ生誕祭まで、後S時間。
「……いよいよ明日だ」
「……ついに明日か」
その男達は同時に言う。
「「キカ様の祭典は!!!」」
周りにいた人たちが俺とヒロトを見てくる。しかしそんな視線はもはやどうでも良い。
ヒロトが口を開く。
「さて、明日はキカ様の生誕祭だからな。俺たちも一層気合いを入れる必要がある」
「当たり前だな。俺はまだファン歴は浅いし、ライブなんて一度も……いや正確には一瞬だけ行ったことがあるが、生誕を祝いたい気持ちは本物だ」
「ふっ、その言葉が安心したぜ。コウライ様にチケットを譲って貰ってから今日まで俺たちは死ぬほど頑張ってきたからな」
「そうだな。前回やらかしたバイト先の請求もただ働きで返したからな。しかもアレも調達した……」
「……そろそろ来るぞ」
ヒロトが時計を見てそう言うと、扉が開き2人の男が入ってきた。
1人はシリ。久しぶりに登場したモブキャラだ。もう1人は犯罪者フル。歳下ネネに発情したど変態だ。
「おう、お前ら来ていたのか、早いな」
シリがそう言ってくるので俺も挨拶を返す。
「お前何話ぶりだ? もう読者、お前のこと忘れてるよ」
「オイそれは酷いぞ!」
シリのつまんないツッコミを無視し、俺は犯罪者に声をかける。
「よぉ犯罪者。意外とオリから出てくるのが早かったな」
「まぁな。実際には手を出してないからな。ネネちゃんはあいにく、少し歳が高い」
犯罪者の発言にはツッコミを返さない。こんな変質者の発言には突っ込むべきなのだろうが、今日の俺とヒロトは冷静だ。
ヒロトが手をテーブルについて話しだす。
「今日、皆に集まってもらったのは他でもない。明日の作戦のために来てもらった」
まるで冷徹な司令官のように語るヒロト。
「まぁ俺たちには関係ないけどな。とりあえず言われたものを持ってきたぞ」
フルはそう言い、持ってきた袋からある物を取り出す。シリも同時に同じ行動をする。
ゴザゴサと袋の音がし、取り出された物がテーブルの上に置かれる。
置かれた物を手に取ると、冷静に振る舞っていた俺たちは爆発した。
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」
フルにシリ、ギルドにいる全員が雄叫びをあげる俺たちを見る。もちろんそんな目線なんて気にしない。
「ふ、服だ!!!」
「ぬ、布だ!!!」
そう俺とヒロトが2人から受け取ったのは、服だ。
「そ、そんな、叫ぶほどかよ? ただのやっすい服だぞ。千ゴルドもしないぞ」
「バッキャロウ!!!」
俺は本気の目でそう言ったシリを睨む。恐らく相手がネネなら泣いてエナにチクリ、俺が殺されるくらいだ。
「ど、どうしたんだ急に」
「お前ら服を着てる、布の有り難みを知らん三下達には分からんだろうな!! 俺たちが! 俺たちが……ウゥッ」
ヒロトはそう言うと、目から涙を流し始める。
うわっ、なんで泣いてるの? そんな顔をフルがする。俺はそれを見て言う。
「ヒロトの言う通りだぁ!! 俺たちが一体何ヶ月!! 晴れも雨も関係なく!! パンイチで過ごしてきたと思ってる!? ……あ、やべ、回想してたら涙が……」
俺は慌てて目頭を抑えるが遅い。涙は頬を流れ、ポツンポツンと地面に垂れる。
するとその様子を見ていたギルドの奴らが、いつものように俺たちに聞こえるか否かの声で喋る。
「おいおいアイツらガチ泣きしてるぞ」
「ホントに怖いわね。アレだからパンイチは」
「この街の恥部とはよく言ったもんだ」
「一緒に住んでるエナ達はホント尊敬だわ」
俺たちは一通り泣き終わると、引いた顔をするシリとフルのアホバカコンビを一瞥し、
「「我々、キカ様同盟は今日ここに服を着ることを宣言します!!」」
敬礼をしてそう言い、伝説的幻の人類最大発明を着ることに移行する。
まず俺はタオルを脱ぐ。そして服の表と裏を確認する。次に前後を確認した。少し手を入れると、それを上に持っていき、顔を入れる。そのまま左右の2つの穴から手を出す。そしてセントラルサンシャインから、自分の顔を出す。最後の仕上げとして、服の下部を引っ張り、背中が完全に隠れるようにする。
これで何ヶ月振りの服を着たことになる。
服を着た俺とヒロトは目を合わせて、
「「ふっ」」
そう言う。そして、
「「なんだこれは!!!!」」
俺とヒロトは服を破らんばかりの力で脱ぎ、地面に叩きつける。
その場にいた全員が唖然とする。
「…………………………え?」
「なんなんだ!! 服を着たら皮膚が擦れる!!!」
「ちくちくするぞこの服!!! 皮膚が痛い!!!」
「…………………………は?」
「ガザガサが痛い!!」
「服とはこんな酷い物なのか!!」
「お、お前ら……な、何を言ってるんだ?」
フルが恐る恐る俺たちに質問をしてくる。俺たちは同時に答える。
「「服が……着れない」」
W秒後
服を脱ぎ捨て、いつものパンイチの格好になった俺たちは再び椅子に座る。
「しかし困ったな。服を着ることができないだなんて」
ヒロトはそう話始める。俺は頷き、
「あんなガザガサと肌が擦れる状態じゃ、ライブは行けないな。最高のコンディションでないと、キカ様に失礼だ」
「全くだ」
俺とヒロトの会話を聞き、フルが俺たちに尋ねてくる。
「……服が着れないとは、お前たち異常だぞ」
「異常とはなんだ、異常とは。俺たちからすれば、むしろ服を着ているお前たちの方がよっぽど異常だぞ」
俺の言葉にシリが突っ込んでくる。
「俺たちが異常なわけないだろ!! 周り見てみろよ! 皆服着てるぞ!」
「アホか。皆が! 大多数が! というがな、ソイツら全員が正しいとは限らんぞ」
2号の切り返しに、シリはため息をつく。
「はぁー、お前らもうダメだ」
「フン、勝手に言っておけ。それよりも問題は、俺たちが服を着れないというところにある」
「もうこのままの格好でも良いんじゃないか」
俺の言葉にヒロトは反抗する。
「しかしこれじゃ失礼だろ。それにまた警備員に止められるオチが見える」
「アホかお前。失礼? 違うな。お前もさっき気づいただろ? 服を着てるのが『そもそも』おかしいんだ。それをキカ様に伝えてみろ」
俺の言葉にヒロトはハッと気づく。
「ま、まさか……」
「ああ、そのまさかだ。服がおかしいと気づいたキカ様はどうする?」
「ぱ、ぱ、パンイチになる……だと?!」
その様子を想像してか、ヒロトは鼻から赤い血を垂れ流す。
「「パンイチになるわけないだろ!!」」
フルシリコンビがそんな戯言を言ってくるが無視だ。
「き、キカ様の女神の恵みを見ることができるのか……」
「そうなるな。パンイチが正義ということを伝えるのは超重要な事柄だ」
俺とヒロトは顔を見合わせる。頷き合って立ち上がり手を取る。
「「絶対に成功させるぞ!!」」
「誰かこのバカたちを止めて!!」
フルがそう叫んだ。
Z分後
エナの家に帰った俺とヒロトは、テーブル上にライブ会場の見取り図を広げていた。
「うーん、やっぱり最初の障害は警備員だな。刀を使えば黙らせることもできるが、キカ様の手前、危険な事はしたくない」
「同感だ。野蛮な人間の言うことは聞きたくないだろうしな」
うーんと俺たちは少し悩む。
野蛮なことはできない。しかし警備員を突破することは絶対条件だ。警備員達が逃げ出すくらいのことが起きれば……そうか!
「分かったぞ、ヒロト!! 俺の眼を使えば良いんだ!」
俺は左眼をピースで強調しながらそう言う。
「なるほど!! その眼で警備員を見て、奴らの気を引く作戦を立てるんだな! 流石フウタ!!」
「ああ、これなら行けるぜ!」
警備員突破作戦は決まった。
「あとは、いかにステージの上に行ってキカ様に会うかだな」
ヒロトの言葉に俺は答える。
「そこはお前の師走だろ」
「まぁそうなるな。これで作戦も完璧だ!」
「よし!! あとはイメトレだな」
俺とヒロトが作戦を決めて盛り上がっていると、エナがリビングに入って来た。
「あ、ここにいたのね。アンタたち、明日クエストに行くわよ」
キカ生誕祭まで、後S時間。
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