この眼の名前は!

夏派

文字の大きさ
上 下
28 / 202
四章

25話 白鳥ォ!

しおりを挟む
「やっとできたわ!!」

 そんなエナの声が朝っぱらから家に響く。俺はそこの声で目を覚まし、リビングへと向かう。

 ビューティゴールド戦から早2日。パンツとタオルのいつもの格好だ。ちなみに顔は腫れている。

 なぜって? 言わすなよバカ、恥ずかしいだろ? 詳しくは、《エナ 喋るゴリラ 手紙》で検索だ。

 リビングに入ると、エナは、じゃじゃーんと言って俺にあるものを見してくる。

 じゃじゃじゃーん! じゃないのか。

「エナ、それは一体?」

「見て分からないのかしら? パンイチは、これだから変態は。ビューティゴールドの毛を使ってわざわざ作ってあげたのよ!! アンタらの防寒着を!!」

 そう言って俺に差し出してきたのは、金色の毛でできたパンツだった。

「…………………………エナさん?」

「何よ?」

「これ防寒着?」

「見て分からないのかしら、ちゃんと今履いてるのより暖かいはずよ」

「……えっと、その、防寒着って普通、上に着るコートとかじゃ」

「文句あるの? あるなら殺すわ。だってアンタらいつもパンイチじゃない! 今更上着って言われてもねぇ」

 エナのその挑発口調に俺は乗ってしまう。

 あと殺すって聞こえたけど、空耳だよね? ね?

「誰のせいだと思ってんだ!!」

 俺が強目に言うと、エナは後ろを指差して言う。

「別に履く履かないはアンタの自由だけど、文句あるならああなるわよ?」

 その指差す方を見ると、顔が何倍にも腫れた2号が気絶していた。

 コイツ、前回から気絶しかしてないな。

「……ごくぅ。履かせていただきます」

 俺はそう言って、金色に光るパンツに履き替えた。その格好で再びリビングに行く。入った瞬間……

「ぷっ、キャハハハハハハハハハ!! な、な、なによそれ! ぷーっ、ほっんと最高だわアンタ!! キャハハハハハハ」

「ぷぷぷぷ、い、1号さんその格好は、笑ってしまぷぷぷ」

 エナとネネに同時に笑われた。逆の立場なら俺も笑っているだろう。なんせ、パンツが黄金色で光っているのだからな。しかし、

「キャハハハハハハ! キャハハハハハハ!! キャハハハハハハ!!!」

 エナの野郎は涙を浮かべずっと笑っている。流石にその様子に俺はキレる。

「て、てめぇ! 笑いすぎだこのぺたんこ!!」

 そう言ってエナを叩こうと体を動かす。

 ダンッ! 動いたその時、俺の足の小指がテーブルの脚にぶつかった。

「いっ……」

 そのぶつかりのせいで、俺はバランスを崩すして、体が倒れる。涙を浮かべ笑っているエナを押し倒すような感じでだ。

 ドンっと俺はエナを押し倒してしまう。

「あ、えっと、そ、その、」

 自分でやっといてなんだが、頭が回らない。それが原因だった。

「近くで見るとお前……ホント」

 俺の言葉を聞いて、エナが怒りよりも恥ずかしそうな顔をする。顔が赤くなったのだ。

「ぺたんこだな」

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!! この変態三下がァァ!!!!!」

 殴ッッ!! 破ッッ!! 壊ッッ!! 殺ッッ!! 消ッッ!! 滅ッッ!! そんな鈍い音とともに、俺は家の屋根を突き破って、星となった。

           この眼の名前は! 完


 いや、完じゃねーよ!!! しかも星にもなってねーよ!! まぁでも今空中を飛んでるんだけどな。鳥の気持ちが分かる。

 俺は自身にツッコミを入れつつ、この世界に来て初めて空を飛ぶ。

 空を自由に飛べたら。と思うことは人生一度くらいあるだろう。楽しいそうとか気持ち良さそうとか思うかもしれない。しかし現実は違う。

「ぶぶぶぶぶぶぶぶぶっぶぶば」

 空気抵抗による圧力で俺の顔はブサイクになっていた。

 なにこれ? ホントきっつい。

 しばらく飛んでいると、その体が地面に向かっているのに気付いた。

 え? パラシュートなんてないから、これヤバくn

 激ッッ!! 重い音を立てながら、俺は森へと着地する。

 おそらく骨の4、5本は折れてるだろうが、今はギャグの時間だ。2秒で治る。

 そう考えて、体についた土を払い俺は立ち上がる。黄金のパンツが光っているのが、恥ずかしい。

 こんなの履くくらいなら、モザイク全裸の方がマシだな。

 そんな時、ガサッと近くの茂みが揺れた。モンスターかと思い気を引き締める。

 そこから出てきたモノと俺は目が合う。

「「へ、変態…………」」

 俺とそのモノは同時に指を指し合い呟いた。

 目の前には、白鳥の首から上が付いているパンツを履いた、パンイチの変態がいた。

「は、白鳥だと?」
「き、金色だと?」

 その男のルックスは、茶色い肌で耳がトンがっていた。筋肉質の体だ。

「白鳥の変態とは……いきなり2号を超えてきた」
「金色の変態とは……そのパンツどこで買った?」
「これか? ふっ、あいにくオーダーメイドでな」
「な、なんだと?! こんな恥ずかしいのを履く者がいるのか」
「てめーだけには言われたくねーよ!」

 俺がツッコミを入れると、目の前の変態は腕を組み話出す。腕を組むと、ビンッと白鳥が真上に立った。

「お前は俺が好きでこの白鳥をつけていると?」
「違うのか? 違ったら困る。いや肯定されても困るな」
「お前のようにオーダーメイドを頼むような変態では俺はないぞ」
「待て待て、オーダーメイドと言ったのはカッコつけたかったからだ。俺がこれを履いているのには、意味があるんだよ!」
「なければ困る。しかしお前もパンイチであることに壮絶な物語がありそうだ」
「お前もな」

 なぜか俺たちは惹かれあい、お互いの手を握る。



 T日後 エナの家

 ピカピカ光るパンツを履いて、俺は新聞を読む。昔エナが新聞記者を助けたとかなんとかで、新聞が無料でこの家には届く。

 あの怪力娘もたまにはやるな。

「えーと、なになに。『黒髪の無詠唱全属性対応の魔法使い、暗黒軍幹部を1人倒す』ほー、他には、『黒髪の二刀流、暗黒軍幹部を1人倒す』ほー」

 どうやら俺の知らないところでは、この世界に存在する、敵対組織の暗黒軍の7人の幹部のうち、2人撃破されているようだ。

 ……いやダメでしょ? このお話は表向きは異世界ファンタジーなんだから、主人公である俺がそいつらを倒さないと。あれ? もしかしてこれ異世界ファンタジーではない??

 そんなことを考えつつ、他のページをめくる。

「えっーと、『黒髪の敏腕経営者、今度は自身3社目となる会社設立に成功』ほー、『黒髪の凄腕料理人、ついに星5獲得』ほー、『黒髪の創造力をもつ博士、再び兵器製造に成功』ほー、なるほどなるほど」

 破ッッ!!! 

「なんだこれは!!! 俺以外の転生者はどんどん成功してんじゃねーか!!! ふざけるな!! なんで俺は! 黄金パンイチなんだ!!!!」

 新聞を破り、俺は奇声を発する。それを近くにいたネネがすごい顔で引いている。

「1号さん? 転生とか何言ってるんですか? これ、本編ですよ? それに黒髪の方が成功してますよね。1号さんも黒髪だから、成功できるんじゃ」

「チート能力がないんだよ!!!」

 俺の興奮した顔を間近で見たネネが、涙を浮かべ、エナさん! と言って走って行った。

 俺は椅子に腰を下ろし、水を飲む。

「ぬるっ!」

 もうストレスが限界に達していた。どんな些細なことにも怒ってしまう。だってそうだろ? 俺以外の転生者たちは成功してるんだぞ。なのに、俺は。

 怒りを抑えるために、中のほうにある小さな記事に目を移す。そこには、『ライトの街周辺に変態発生。注意を!』という記事が書かれていた。

 変態? 2号がなんかやらかしたか?こないだ会った白鳥パンツもなかなかな格好だったけど、アイツはいい奴だと俺の勘が言っている。

 そんな風に記事を読んでいると、リビングに2号が入ってきた。

「よぉ、お前……そのパンツでずっと過ごしているのか」

 2号が俺に言ってくる。彼は普通のパンツだ。

「まぁな、お前みたいに今も怪我が治らないくらいの攻撃は受けたくないし、そろそろキャラ付けのレベルもあげないとな」

 2号と団欒していると、2人がリビングに入ってきた。エナはネネの頭をさすっていた。

「ねぇ、パンイチ。ネネちゃんが泣いてるんだけど、アンタ襲ったってホント?」

「ホント? じゃねーよ! メディア並みに情報盛られてるぞ!! 確かに強く言ったかもしれんが」

「そう。襲っていたら死刑もんだけどね。まぁこの美人の私を襲わないあたり、そこら辺はちゃんとしてるようね」

「誰がお前を襲うか、ありえん」

「ふーん、じゃあこの間の押し倒したやつは?」

「誠に申し訳ありません」

 俺は土下座して謝る。その上にエナが足を置いてくるが、これはこの家ではよくある挨拶だ。いじめではない。この家にいじめはない。

 俺の頭に足を置いている、エナが破れた新聞を見て、顔にピキピキを入れているのが第六感で分かった。

「ねぇ、パンイチ……これは一体どういうことかしら?」

「………………………………」

 魔術カード発動!! 黙秘権! このカードを使用した時、どんなことも黙秘することができる!

「なんで黙ってるのかしら? 心の臓の音も黙らすわよ?」

 それ殺すってことですよね? という言葉を飲みこ

「それ殺すってことですよね?」

 はい、いつも通り吐きました。このネタ何回使うつもりだ作者。

「あら、喋れるじゃない。じゃあ、覚悟はできてるわよね?」

 エナから不気味なオーラが出てくる。はぁ、この世界に来て何百回目だろうか、エナに殴られるのは。

 と思った刹那、2号があることを口にする。

「あ、そういえば今日、賞金が出るヒツージの討伐コンテストがあるぞ」

 エナが殴る拳を俺に当たる。というギリギリで止め……

「ゴブッギュルバァ!!」

 俺は近くの壁に穴を空ける強さで飛ばされる。

 ……普通あの場面寸止めして良かったね。じゃないの?

 俺は穴が空いた壁から顔を抜き、先程のところへ戻る。ちなみに、壁の穴も屋根の穴も『ギャグの力』で直った。

「おい、ぺたんこふざけ」

「あら、ごめんなさい。変態。それよりもこのコンテストよ!! さぁアンタたち、冒険の時の格好に着替えて行くわよ!」

 なんか急にコンテストに行くことに決まった。ヒツージとか言っていたから、ヒツジなんだろう。それより、

「「着替えって言っても俺らパンイチじゃん」」

 俺と2号は久しぶりにハモった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:365

女神のチョンボで異世界に召喚されてしまった。どうしてくれるんだよ?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:1,605

カフェ・ユグドラシル

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:397

婚約破棄の場で攫われました!?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:1,183

コピー使いの異世界探検記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:135

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:435

処理中です...