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第一章 Not Club, Committee, Charity, But We are
第三話 アイドルVS声優①
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裏裏会に仮入部のような形で参加した次の日の放課後。内丸と2年生の白秋は、彼のクラスである1年A組に所属している依頼主、秋葉原美夜と対面していた。
赤く肩まで届かない程度の短髪が特徴的で、丈の短い赤いスカート、赤いネクタイと赤いジャケットと赤で染め上げられた彼女の容姿は、可愛らしいという言葉が似合っている。ちなみに指先のマニキュアもレッドだ。
別棟4階の地理準備室に座る彼女の正面に白秋、その横に内丸が座る。他のメンバーは私用でいない。
「わざわざ遠い教室までご足労ありがとう。本来ならばお茶でも出すべきなのだろうが、あいにく当団体一の腕前は欠席でね。市販のお茶でも飲んでくれ」
「いえいえ、こちらこそお忙しい中お時間頂戴してありがとうございます。白秋先輩、内丸君、よろしくお願いします」
丁寧な言葉使いで頭を下げてくる秋葉原に釣られて、内丸も頭を下げてしまう。
「いえいえこちらこそ。それよりも俺の名前覚えていたんだね、秋葉原さん。正直話したことはないし、まだ入学して2週間なのに……」
「ううん。当然当然。これから1年間、いや3年間同じになるかもしれないからね! それに職業柄人の名前を覚えるのは得意なんだよ!」
これが漫画であるならば、キラキラしたエフェクトが彼女の背後に描かれるんだろうなと直感的に思えるような、アイドルの笑顔であった。そのような可愛らしい笑顔に取り込まれそうになりながらも、内丸は昨日見た掲示板での情報との乖離に内心驚いていた。
昨日見た情報はまるでSNSの裏垢のような愚痴の数々だった。
『クラスにいる、新人声優があまりにもウザい。なんなんだよアイツは!! アニメキャラのアテレコだけじゃなくて、歌までできてしかも顔も可愛いとかなんなんだよ。歌と顔は私の領分だろうが。演技やダンスまでやり出したら……ふざっけんなよってなるわ。しかもしかも、私が囲おうとしていたオタクどもに手を出そうとして、自分の派閥に入れようとしやがるし。意味わかんねーよ!!』
(…………昨日見たあれは流石に悪夢かと思った。口が悪いし、そんなに芸能関係者ってバチバチなのかよ。こえー)
「ああよろしく秋葉原よ。それにしても君は掲示板と今じゃキャラクターが全くもって逆だな。対面だとこうも猫を被れるものなのか」
いきなり核心に迫るような言葉を伝える白秋の勇気に驚く。軍を指揮する人に怖いものはなさそうだ。
「いやだなーせんっぱい。猫になれなきゃこの業界じゃ生きられませんよ」
声のトーンが著しく下がる。
「あれはーただー掲示板に感情をぶつけてしまっただけでー普段はーこんな感じですよー」
今後は猫撫で声というのか、ぶりっ子のような口調へと一瞬で声変わりする。何が彼女の本当なのか分からなくなる。
「あ、あとこの変化はここだけの内緒でね。サンタクロースは誰にも着替えの瞬間は見せないものなの。だから内丸君も、ね??」
(笑顔が怖い!! アイドル怖いってー。もーやだこの学園)
「ふっ、まぁいいさ。どのみち相談の件を含め、ここで出てきた会話は口外しない決まりだ。それじゃ時間も有限だし、話に入ろうか」
秋葉原美夜。最初の案件にしては骨が折れそうだ。
「さて本題に入ろうか。秋葉原、君の内容は掲示板通りだとは思うが、今一度説明してくれ」
白秋が話題の転換を行うと、秋葉原は小さく頷く。
「なるべく感情的にならないように説明したいと思います。私のクラスに新人声優の雨野川沙月って子がいます。彼女は最近流行しているアニメの声優に抜擢されて、注目されるようになった人です。売りは天然キャラ。アニメのオンラインイベントに出演した時には、その天然さが目立っていたわ。ま、私に言わせればそれも猫なんでしょうけどね。しかも顔はアイドルに匹敵するほど整っているし、おまけに歌唱力も十分に持っている。メディア出演が増えればさらに注目されるでしょうね」
問題はここからです。と秋葉原は一呼吸置く。
「私も雨野川もクラスに固定のファンがいます。要はオタクってこと。芸能に身を置いている人たちは、この学園生活で、いかに自分のファンを持てるのかが重要です。それによって本業に影響することが多いですし、他より劣っていると思われたくないというプライドの問題もあります。夏には派閥が形成され始める関係上、固定ファンは必要。その基盤作りとしてまずはクラスの人からファンを多く誕生させる必要があるのに……」
うつむいた状態になる秋葉原。少しの沈黙が過ぎる。
「アイツと来たら! 平然と私のファンを自分の領域に引きづり込もうとするんですよ! アホどもを甘い声と容姿で誘惑して、自分の近衛兵にしている。そのせいで私の固定ファンは減少して、他クラスのアイドルなどから下に見られる事態。この状況が改善されなければ、派閥争いにすら参加できなくなる。雨野川沙月のせいで!!」
感情をむき出しにした状態でしゃべったからか、若干の息切れになる秋葉原は市販のお茶を口に入れる。
今までの話を静かに聞いていた白秋白嶺は顔を上げる。
「なるほどな。お話ありがとう。聞いてみた感想だがそれはきみの嫉妬じゃないか」
「ええそうよ」
いきなり痛いところをつくなーと内丸が感心したのも束の間、赤色のアイドルは即答で肯定した。
「側から見て、いいえ私から見てもこれはただの嫉妬。でもね、嫉妬は1番強い感情よ。嫉妬があるから今が便利な社会なのよ。それであなたたちへの依頼は簡単。この嫉妬をどうにか昇華させて欲しい」
「なっ?! いやそれはむr」
秋葉原の言葉を聞き、内丸が感情のままに否定しようとしたのを、人の上に立つ白大将は制止させる。彼女は片目を閉じながら、内丸を一瞥すると。
「ご依頼ありがとう、サンタ色の偶像さん。この依頼は我々、裏裏会が必ず解決させよう」
約束の言葉を伝え、彼女は握手を求めるように手を差し出す。それに呼応するように秋葉原は手を握り返す。
「ありがとうございます、白秋先輩。これからよろしくお願いしますね。……内丸君もお願いね」
気持ちのいい笑顔を振りまきながら、彼女は颯爽と地理準備室を出ていった。
「い、いいんですか、白秋先輩! こんな難解そうな依頼引き受けて!! 嫉妬の昇華だなんて、俺解決策思いつきませんって!!」
「君はいつから名探偵になったんだい。そんなすぐに解決策が出てくるものか。それにね、内丸。こういう問題は解決しなければ、必ず大きな厄介ごとに変化する。根の段階で抜いておくのさ」
焦る内丸をクールになだめた白秋は、目の前にあるパソコンをいじりながら呟く。
「次はプロスペクトの声優に会ってみるかね」
赤く肩まで届かない程度の短髪が特徴的で、丈の短い赤いスカート、赤いネクタイと赤いジャケットと赤で染め上げられた彼女の容姿は、可愛らしいという言葉が似合っている。ちなみに指先のマニキュアもレッドだ。
別棟4階の地理準備室に座る彼女の正面に白秋、その横に内丸が座る。他のメンバーは私用でいない。
「わざわざ遠い教室までご足労ありがとう。本来ならばお茶でも出すべきなのだろうが、あいにく当団体一の腕前は欠席でね。市販のお茶でも飲んでくれ」
「いえいえ、こちらこそお忙しい中お時間頂戴してありがとうございます。白秋先輩、内丸君、よろしくお願いします」
丁寧な言葉使いで頭を下げてくる秋葉原に釣られて、内丸も頭を下げてしまう。
「いえいえこちらこそ。それよりも俺の名前覚えていたんだね、秋葉原さん。正直話したことはないし、まだ入学して2週間なのに……」
「ううん。当然当然。これから1年間、いや3年間同じになるかもしれないからね! それに職業柄人の名前を覚えるのは得意なんだよ!」
これが漫画であるならば、キラキラしたエフェクトが彼女の背後に描かれるんだろうなと直感的に思えるような、アイドルの笑顔であった。そのような可愛らしい笑顔に取り込まれそうになりながらも、内丸は昨日見た掲示板での情報との乖離に内心驚いていた。
昨日見た情報はまるでSNSの裏垢のような愚痴の数々だった。
『クラスにいる、新人声優があまりにもウザい。なんなんだよアイツは!! アニメキャラのアテレコだけじゃなくて、歌までできてしかも顔も可愛いとかなんなんだよ。歌と顔は私の領分だろうが。演技やダンスまでやり出したら……ふざっけんなよってなるわ。しかもしかも、私が囲おうとしていたオタクどもに手を出そうとして、自分の派閥に入れようとしやがるし。意味わかんねーよ!!』
(…………昨日見たあれは流石に悪夢かと思った。口が悪いし、そんなに芸能関係者ってバチバチなのかよ。こえー)
「ああよろしく秋葉原よ。それにしても君は掲示板と今じゃキャラクターが全くもって逆だな。対面だとこうも猫を被れるものなのか」
いきなり核心に迫るような言葉を伝える白秋の勇気に驚く。軍を指揮する人に怖いものはなさそうだ。
「いやだなーせんっぱい。猫になれなきゃこの業界じゃ生きられませんよ」
声のトーンが著しく下がる。
「あれはーただー掲示板に感情をぶつけてしまっただけでー普段はーこんな感じですよー」
今後は猫撫で声というのか、ぶりっ子のような口調へと一瞬で声変わりする。何が彼女の本当なのか分からなくなる。
「あ、あとこの変化はここだけの内緒でね。サンタクロースは誰にも着替えの瞬間は見せないものなの。だから内丸君も、ね??」
(笑顔が怖い!! アイドル怖いってー。もーやだこの学園)
「ふっ、まぁいいさ。どのみち相談の件を含め、ここで出てきた会話は口外しない決まりだ。それじゃ時間も有限だし、話に入ろうか」
秋葉原美夜。最初の案件にしては骨が折れそうだ。
「さて本題に入ろうか。秋葉原、君の内容は掲示板通りだとは思うが、今一度説明してくれ」
白秋が話題の転換を行うと、秋葉原は小さく頷く。
「なるべく感情的にならないように説明したいと思います。私のクラスに新人声優の雨野川沙月って子がいます。彼女は最近流行しているアニメの声優に抜擢されて、注目されるようになった人です。売りは天然キャラ。アニメのオンラインイベントに出演した時には、その天然さが目立っていたわ。ま、私に言わせればそれも猫なんでしょうけどね。しかも顔はアイドルに匹敵するほど整っているし、おまけに歌唱力も十分に持っている。メディア出演が増えればさらに注目されるでしょうね」
問題はここからです。と秋葉原は一呼吸置く。
「私も雨野川もクラスに固定のファンがいます。要はオタクってこと。芸能に身を置いている人たちは、この学園生活で、いかに自分のファンを持てるのかが重要です。それによって本業に影響することが多いですし、他より劣っていると思われたくないというプライドの問題もあります。夏には派閥が形成され始める関係上、固定ファンは必要。その基盤作りとしてまずはクラスの人からファンを多く誕生させる必要があるのに……」
うつむいた状態になる秋葉原。少しの沈黙が過ぎる。
「アイツと来たら! 平然と私のファンを自分の領域に引きづり込もうとするんですよ! アホどもを甘い声と容姿で誘惑して、自分の近衛兵にしている。そのせいで私の固定ファンは減少して、他クラスのアイドルなどから下に見られる事態。この状況が改善されなければ、派閥争いにすら参加できなくなる。雨野川沙月のせいで!!」
感情をむき出しにした状態でしゃべったからか、若干の息切れになる秋葉原は市販のお茶を口に入れる。
今までの話を静かに聞いていた白秋白嶺は顔を上げる。
「なるほどな。お話ありがとう。聞いてみた感想だがそれはきみの嫉妬じゃないか」
「ええそうよ」
いきなり痛いところをつくなーと内丸が感心したのも束の間、赤色のアイドルは即答で肯定した。
「側から見て、いいえ私から見てもこれはただの嫉妬。でもね、嫉妬は1番強い感情よ。嫉妬があるから今が便利な社会なのよ。それであなたたちへの依頼は簡単。この嫉妬をどうにか昇華させて欲しい」
「なっ?! いやそれはむr」
秋葉原の言葉を聞き、内丸が感情のままに否定しようとしたのを、人の上に立つ白大将は制止させる。彼女は片目を閉じながら、内丸を一瞥すると。
「ご依頼ありがとう、サンタ色の偶像さん。この依頼は我々、裏裏会が必ず解決させよう」
約束の言葉を伝え、彼女は握手を求めるように手を差し出す。それに呼応するように秋葉原は手を握り返す。
「ありがとうございます、白秋先輩。これからよろしくお願いしますね。……内丸君もお願いね」
気持ちのいい笑顔を振りまきながら、彼女は颯爽と地理準備室を出ていった。
「い、いいんですか、白秋先輩! こんな難解そうな依頼引き受けて!! 嫉妬の昇華だなんて、俺解決策思いつきませんって!!」
「君はいつから名探偵になったんだい。そんなすぐに解決策が出てくるものか。それにね、内丸。こういう問題は解決しなければ、必ず大きな厄介ごとに変化する。根の段階で抜いておくのさ」
焦る内丸をクールになだめた白秋は、目の前にあるパソコンをいじりながら呟く。
「次はプロスペクトの声優に会ってみるかね」
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