19 / 63
再会
しおりを挟む
研究所所属のエージェント。
それが俺の肩書となった。
他人への説明に困る職業なので、必要がある場合は団体職員とでも言おう。
仕事としては、一日目からみっちりした訓練があった。
訓練というか、セツを師とした稽古だ。
セツは強い。
居合と空手、それとクラブマガに精通しているそうだ。
怪力の持ち主で動きも素早く、万筋服なしの俺じゃまったく太刀打ちできない。
いいように転がされて、怒りで万筋服が出てしまったこともある。
そのときもセツは稽古を中断せず続けた。
大したタマだ。
俺は万筋服を着てても攻撃を当てられなかった。
利点としては、向こうが当ててきても痛くないので余裕が生まれるぐらいだった。
正直いって、四十を超えた身体には荷が重い。
訓練だけでクタクタになってしまう。
そのかわりパトロールは楽なので助かる。
イサムに乗って定められたルートをドライブする。
運転はイサム任せの自動操縦。
俺もゴールド免許なので運転は下手じゃないが、楽なほうがいい。
いちおう周囲に目を配っているが、ほとんどイサムとのおしゃべりだ。
パトロールルートには、車が入っていけない場所もある。
そんなところには徒歩でいかなければならない。
しかしイサムを駐車して違反キップを切られる恐れもなければ、
いちいち戻ってくる必要もない。
イサムが自ら動いて出口に先回りしてくれる。
時間が余ればそこらへんを勝手にうろついてる手はずだ。
無人の車が走っていたら大騒ぎになるだろうが、
その点、こいつは本当によくできていた。
窓ガラスに俺のホログラムを映しておいて、
外からは俺が運転しているように見える仕組みだった。
俺が入っていかなきゃならないような事件は、そうそう発生するわけもなく。
人工知能とおしゃべりしながらドライブし、たまに少しばかりウォーキングする。
それがパトロールの実態だった。
両手離しで運転席に座りながら俺は言った。
「俺がヒーローになれる事件なんてそうそう起きるわけもねーし。三十万もくれるからキツイ稽古も受けてパトロールもするけどよ、やっぱ働きたくねーな。宝くじでも当たればなー」
「おっさん少しは数学の勉強すれば。俺が教えてやろうか。宝くじの当たる確率わかる?」
「運てのはそういう確率を超えたもんだよ。四十過ぎてれば何度か死にそうなったこともあるけど、俺はまだ生きてる。運が死なせない」
「現代日本人が四十歳までに死ぬ確率って、もともと低いんだよ、おっさん。二パーセントだぞ。九十八パーセント死なないの」
「そんなに低いのか、俺の知り合いそこそこ死んでるけどな」
「それが二パーセントなんだよ、五十人にひとりなんだから」
「そんなもんかな」
「四十過ぎたら死亡率があがるよ。運動してきなおっさん、ウォーキングパートだぜ」
イサムが停車してドアを開けた。
「あー、セツのせいで筋肉痛がする。じゃ、ちょっと歩いてくるわ」
俺は住宅地に入っていく。
ここから駅前までがウォーキングパートだ。
三百メートルくらいか。
いくら注意して歩いたところで、いまどき下着ドロさえいやしない。
空き巣や特殊詐欺の受け子がいたりするかもしれないが、俺には見分けがつかない。
現場にぶち当たらなけりゃ無理だ。
閑静な住宅地をぶらぶら歩いていく。
下手をすると俺のほうがあやしい人物に思われるだろう。
早く駅に着きたい。寒いし。
突然声をかけられた。
「よう、おっさん。奇遇だな、調子はどうよ?」
ホストっぽい若い男だった。
一瞬誰だかわからなかったが、すぐ思い出した。
俺が自殺に失敗したあと自棄になって子猫を助けたとき、その場に居合わせた若社長だ。
「いいもの見せてくれた」とか言って、飯代に一万くれた。
その恩は忘れていない。
名刺に書かれていた名前は諸戸亮吾(もろと・りょうご)だったか。
諸戸はガムを噛みながら、右手にトランシーバーを持っている。
諸戸が言った。
「今日はまともなカッコしてるな。仕事にありついたかい?」
それが俺の肩書となった。
他人への説明に困る職業なので、必要がある場合は団体職員とでも言おう。
仕事としては、一日目からみっちりした訓練があった。
訓練というか、セツを師とした稽古だ。
セツは強い。
居合と空手、それとクラブマガに精通しているそうだ。
怪力の持ち主で動きも素早く、万筋服なしの俺じゃまったく太刀打ちできない。
いいように転がされて、怒りで万筋服が出てしまったこともある。
そのときもセツは稽古を中断せず続けた。
大したタマだ。
俺は万筋服を着てても攻撃を当てられなかった。
利点としては、向こうが当ててきても痛くないので余裕が生まれるぐらいだった。
正直いって、四十を超えた身体には荷が重い。
訓練だけでクタクタになってしまう。
そのかわりパトロールは楽なので助かる。
イサムに乗って定められたルートをドライブする。
運転はイサム任せの自動操縦。
俺もゴールド免許なので運転は下手じゃないが、楽なほうがいい。
いちおう周囲に目を配っているが、ほとんどイサムとのおしゃべりだ。
パトロールルートには、車が入っていけない場所もある。
そんなところには徒歩でいかなければならない。
しかしイサムを駐車して違反キップを切られる恐れもなければ、
いちいち戻ってくる必要もない。
イサムが自ら動いて出口に先回りしてくれる。
時間が余ればそこらへんを勝手にうろついてる手はずだ。
無人の車が走っていたら大騒ぎになるだろうが、
その点、こいつは本当によくできていた。
窓ガラスに俺のホログラムを映しておいて、
外からは俺が運転しているように見える仕組みだった。
俺が入っていかなきゃならないような事件は、そうそう発生するわけもなく。
人工知能とおしゃべりしながらドライブし、たまに少しばかりウォーキングする。
それがパトロールの実態だった。
両手離しで運転席に座りながら俺は言った。
「俺がヒーローになれる事件なんてそうそう起きるわけもねーし。三十万もくれるからキツイ稽古も受けてパトロールもするけどよ、やっぱ働きたくねーな。宝くじでも当たればなー」
「おっさん少しは数学の勉強すれば。俺が教えてやろうか。宝くじの当たる確率わかる?」
「運てのはそういう確率を超えたもんだよ。四十過ぎてれば何度か死にそうなったこともあるけど、俺はまだ生きてる。運が死なせない」
「現代日本人が四十歳までに死ぬ確率って、もともと低いんだよ、おっさん。二パーセントだぞ。九十八パーセント死なないの」
「そんなに低いのか、俺の知り合いそこそこ死んでるけどな」
「それが二パーセントなんだよ、五十人にひとりなんだから」
「そんなもんかな」
「四十過ぎたら死亡率があがるよ。運動してきなおっさん、ウォーキングパートだぜ」
イサムが停車してドアを開けた。
「あー、セツのせいで筋肉痛がする。じゃ、ちょっと歩いてくるわ」
俺は住宅地に入っていく。
ここから駅前までがウォーキングパートだ。
三百メートルくらいか。
いくら注意して歩いたところで、いまどき下着ドロさえいやしない。
空き巣や特殊詐欺の受け子がいたりするかもしれないが、俺には見分けがつかない。
現場にぶち当たらなけりゃ無理だ。
閑静な住宅地をぶらぶら歩いていく。
下手をすると俺のほうがあやしい人物に思われるだろう。
早く駅に着きたい。寒いし。
突然声をかけられた。
「よう、おっさん。奇遇だな、調子はどうよ?」
ホストっぽい若い男だった。
一瞬誰だかわからなかったが、すぐ思い出した。
俺が自殺に失敗したあと自棄になって子猫を助けたとき、その場に居合わせた若社長だ。
「いいもの見せてくれた」とか言って、飯代に一万くれた。
その恩は忘れていない。
名刺に書かれていた名前は諸戸亮吾(もろと・りょうご)だったか。
諸戸はガムを噛みながら、右手にトランシーバーを持っている。
諸戸が言った。
「今日はまともなカッコしてるな。仕事にありついたかい?」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる