31 / 94
第一章 異世界のアルコータス
決意
しおりを挟む
爆発を生き残ったモンスターの群れが、谷底に殺到する。
軽やかな銃声が連なり、弦が軋み、矢が空気を切って降り注いだ。
モンスターは大きく数を減らしながらも、防衛線に近づく。
やがて戦士の怒号と、モンスターの唸り声が交じり合う。
接近戦も始まった。
崖の上からも、谷底に向かって射撃が行われた。
マトイやマトイちゃん親衛隊、その他の銃士たち、ヒサメを始めとする弓の使い手たちが、できるだけ接近戦を防ごうと懸命になった。
俺とナムリッド、それにもう一人の魔道士は魔力の温存を命じられていた。
今はただ見守るばかりだ。
近くで誰かが叫んだ。
「来たぞ!」
モンスターの一軍が、ここを目指して崖の斜路を登ってくる。
先頭は巨大なサイのような四足獣だった。
そいつが角を一振りすると、バリケードにしていた車が弾き飛ばされる。
サイの後ろには、やはり大型の熊のような獣、そしてオークの群れが続いていた。
マトイたち射撃部隊が移動して、こちらに攻撃を集中する。
接近戦部隊は身構えた。
俺はここを力の使い所ととらえた。
『緊急魔法陣多重展開!』
俺の関節のほとんどで赤い輪が回り、一気に魔力が醸成される。
俺は魔法を放った。
「デクリーザー!」
目標は先頭のサイだ。
サイの巨体は瞬時に三十メートルは飛び上がった。
そこで俺は魔力を切る。
巨体は落下し、後ろに続いていた多くのモンスターを押し潰した。
阿鼻叫喚の断末魔が響き渡る。
サイのほうはよろよろと起き上がったが、一声鳴いてふたたび倒れた。
サイは自重による落下の衝撃で死んだ。
これは使える。
そう気づいた俺は、デクリーザーを連発した。
バリケードに使った車を目標とし、浮かべては叩き落す。
モンスターの群れの密度が高い分、向こうの被害は大きかった。
モンスターたちは車を避けるようになり、進撃の速度は大幅に落ちた。
どこかの自警団員が、そばを通り過ぎながら笑顔を向けてきた。
「おまえは魔人かよ!」
攻撃を生き抜き、接近戦に入るモンスターもいた。
だが待ち受けるのは団長にトゥリー、アデーレ、クラウパーという戦い慣れした戦士だ。
他の自警団員も勇猛ぶりを存分に発揮した。
いまのところ、榴弾砲部隊右翼は鉄壁だった。
「空から来るぞ!」と、誰かが叫んだ。
見上げると、空を飛んで急速に近づいてくる三つの巨大な影があった。
エイのような身体に髑髏の頭、屈強な二本の腕を持っている。
俺は他を放って、そのうちの一体に意識を集中した。
通常魔法陣を展開して魔法を放つ。
「インクリーザー!」
目標となった空飛ぶエイが、飛ぶ力を失ったように落下する。
多くのモンスターを押し潰したところへ榴弾が落ち、始末をつけた。
もう一匹には銃弾と矢が浴びせられたが、なかなか死なず、榴弾砲のトラックへ襲いかかろうとした。
そこはナムリッドの魔法が守った。
「ウインドミル!」
突風がモンスターを巻き込み、きりもみさせてトラックの後ろへ落下させた。
団長が駆けつけ、ギルティープレジャーで首を落とす。
さらに、動きが止まるまで銃弾と矢が叩きこまれた。
こちら側、右翼はこの襲撃をなんとかしのいだ。
しかし、左翼はうまくなかった。
最終的に空飛ぶエイを倒したものの、榴弾砲が三台、砲手とともに谷底に落とされた。
それから数時間、俺たちは戦い続けた。
モンスターの群れはきりがなかった。
犠牲者の数はまだ少なかったが、ちょっとした油断が命取りになる場合を多く見た。
俺たちは持ちこたえた。
だが、じりじりと削られていた。
太陽が正午を指すころ、突如として、モンスターの波が引き始めた。
追い打ちをかけつつも、勝どきの声が上がる。
モンスターの数はまだまだ多い。
俺は腑に落ちないながらも一息ついた。
そこへ指揮官であるベクターさんがやってきた。
「おぬし、立派じゃったの。こちら側は榴弾砲を一台も失っておらん」
俺は聞いてみた。
「ヤツら、なんで引いていったんですか……?」
ベクターさんは杖で太陽を指した。
「モンスターの活性がいちばん鈍る時間帯じゃ。夜には攻撃が再開されるじゃろう。見事なまでに統率されておる。いままでありえなかったことじゃ。統率者を発見し、叩けねば勝てん。じゃが、今は休め」
ベクターさんは状況を見回りに、下へ降りていった。
俺も崖下の様子を伺うと、義勇兵の多くが戦場に散らばったトリファクツ結晶を拾い集めていた。
それだけならいいが、持ちきれるだけ集めてしまうと、アルコータスの方角へ帰ってしまう者も少なからず出てきた。
まあ仕方ない。
俺たちだって、どこまで踏ん張れるかわかったものじゃなかった。
火が起こされ、食事が始まる。
俺たちは言葉少なに、クラッカーやドライフルーツを口に運んだ。
いちばん具合が悪そうなのは、イリアンだった。
青い顔をして、浅い息をついている。
マナ・ファクツの使いすぎだった。
ロシューは妹を気遣って言った。
「次の攻撃が始まったら、弾込めと砲手を交代する。だが、俺では何発撃てるか……」
団長も口を開く。
「次の攻撃が始まったら、谷底の動向に注意しながら戦え。軍が突破されたら囲まれる前に脱出するぞ」
トゥリーも諦めたような口調で言った。
「けっきょく数には敵わないかね。十倍じゃきかないほどだもんな」
ぐったりと休憩していると、再びベクターさんが現れた。
「各団長、集まるのじゃ」
その声は低かった。
ベクターさんもトークタグを装備しているに違いない。
突然、ざわめきが広がった。
「敵だ!」と声が上がる。
指差すほうへ目を向けると空中だった。
黒いローブを着て、スタッフを持った人間らしい姿が、直立姿勢で空を飛んでくる。
ベクターさんが言った。
「全軍、いま近づいて来る者を撃つな。来させてやれ」
ローブの男は攻撃を受けないとわかると、俺たちの目の前に着地した。
褐色の肌をした初老の男だった。
男はよく通る声で言った。
「われはマイアズマ・デポ管理人の一人、テガッツァ。ここの指揮者どのにお目通り願いたい」
ベクターさんが進み出る。
「わしが指揮官の一人じゃ」
テガッツァは不躾に言った。
「敵の最大の武器は?」
ベクターさんは怯まず答えた。
「統率じゃ」
「さよう。それはわれらにも興味深い問題だった。そこでわれらは研究の手を休めて観察し、そして知った。外の世界がどうなろうと大したことではないが、知ったからには教えてやろうと、ここまで参った」
「何をじゃ?」
テガッツァは空中に杖で円を描いた。
その中に、モンスターの軍勢の俯瞰が映し出される。
モンスターの軍勢の所々から光の線が走り、それがマイアズマ・デポ寄りのある一点に集中した。
「この光が集中する一点に、敵の指揮者がおる。強大な魔力でモンスターに秩序を与え、一手に掌握しておるのだ」
俺たちはテガッツァを囲んで、感嘆の声を漏らした。
いまこそ、敵の正体が判明したのだった。
ベクターさんが言う。
「じゃが、そこまで行く手段がない。おぬしがやってくれるのか?」
テガッツァは低く笑った。
「まさか。相手は少なくとも強大な魔道士。ことによると類まれなデーモンなるぞ。われは助力をいたすが、命までは捧げん。手段はそちらで考えていただこう」
「飛べる魔道士はみな死んでしまった」
戦いの中、飛べる魔道士に榴弾を持たせて、爆撃機のように攻撃させたのだった。
その攻撃は確かに効いた。
しかし、モンスターの中には対空手段を持つものがいた。
魔法的な力で剣を飛ばして、引き返させる前にみな殺してしまったのだった。
アルクラッド団長が唸った。
「血路を開いて押し通るには距離がありすぎる。無理だ」
トゥリーもあごを撫でながら言う。
「空を飛べて、爆発的な攻撃力を持つヤツが必要か……」
俺の胸が軽くうずいた。
他の自警団員たちも口々に相談し始めた。
俺には一つ妙案があったが、黙っている。
相手は強大な魔道士だ。
一人では命の危険が大きい。
俺はこんなところで死にたくなかった。
ここでそこそこ戦って撤退したほうが、割よく生き延びられる。
ベクターさんが嘆息した。
「ではやはり、地道に戦うしかないようじゃ。勝負を早く決することができれば、エッジワンの民も救えたじゃろうが……」
俺は驚いた。
エッジワンの住民は皆殺しにされたんじゃなかったのか!?
慌ててベクターさんに聞く。
「どういうことですか? エッジワンに生き残りがいるっていうんですか?」
「そうじゃ。戦える者はみな死んだじゃろう。じゃが、エッジワンには万が一の場合のシェルターがあったのじゃ。女、子供、年寄りはそこに避難しているはずじゃ。数千人が入れる規模じゃが、住民は油断しておったからロクな備蓄はないじゃろう。餓死するか、外に出てモンスターの餌食になるかしか、道はない」
「……」
俺は言葉を失った。
クソッ、聞くんじゃなかった!
ここに向かってくるあいだに避難民とほとんど出会わなかったのは、そういうことだったのか!
まだ数千人も生き残りがいて、餓死が迫ってるだなんて!
俺には数千人の命を救うために、試せるだけの力があった。
しかし、自分の命と引き換えだ。
悩んだ。
悩んだが、けっきょく、ここで自分の考えに素知らぬふりをしたら、今後麗しい女性陣たちとの楽しい時間は過ごせなくなるだろう。
もしかしたら、俺がこの世界に飛ばされたのも、この数千人を救うためだったのかもしれない。
俺は震えを抑えながら申し出た。
「俺が行くよ」
周囲に沈黙が降りた。
一度口にしてしまうと、度胸が湧いてきた。
「俺なら行ける。……いや、俺だけができる!」
軽やかな銃声が連なり、弦が軋み、矢が空気を切って降り注いだ。
モンスターは大きく数を減らしながらも、防衛線に近づく。
やがて戦士の怒号と、モンスターの唸り声が交じり合う。
接近戦も始まった。
崖の上からも、谷底に向かって射撃が行われた。
マトイやマトイちゃん親衛隊、その他の銃士たち、ヒサメを始めとする弓の使い手たちが、できるだけ接近戦を防ごうと懸命になった。
俺とナムリッド、それにもう一人の魔道士は魔力の温存を命じられていた。
今はただ見守るばかりだ。
近くで誰かが叫んだ。
「来たぞ!」
モンスターの一軍が、ここを目指して崖の斜路を登ってくる。
先頭は巨大なサイのような四足獣だった。
そいつが角を一振りすると、バリケードにしていた車が弾き飛ばされる。
サイの後ろには、やはり大型の熊のような獣、そしてオークの群れが続いていた。
マトイたち射撃部隊が移動して、こちらに攻撃を集中する。
接近戦部隊は身構えた。
俺はここを力の使い所ととらえた。
『緊急魔法陣多重展開!』
俺の関節のほとんどで赤い輪が回り、一気に魔力が醸成される。
俺は魔法を放った。
「デクリーザー!」
目標は先頭のサイだ。
サイの巨体は瞬時に三十メートルは飛び上がった。
そこで俺は魔力を切る。
巨体は落下し、後ろに続いていた多くのモンスターを押し潰した。
阿鼻叫喚の断末魔が響き渡る。
サイのほうはよろよろと起き上がったが、一声鳴いてふたたび倒れた。
サイは自重による落下の衝撃で死んだ。
これは使える。
そう気づいた俺は、デクリーザーを連発した。
バリケードに使った車を目標とし、浮かべては叩き落す。
モンスターの群れの密度が高い分、向こうの被害は大きかった。
モンスターたちは車を避けるようになり、進撃の速度は大幅に落ちた。
どこかの自警団員が、そばを通り過ぎながら笑顔を向けてきた。
「おまえは魔人かよ!」
攻撃を生き抜き、接近戦に入るモンスターもいた。
だが待ち受けるのは団長にトゥリー、アデーレ、クラウパーという戦い慣れした戦士だ。
他の自警団員も勇猛ぶりを存分に発揮した。
いまのところ、榴弾砲部隊右翼は鉄壁だった。
「空から来るぞ!」と、誰かが叫んだ。
見上げると、空を飛んで急速に近づいてくる三つの巨大な影があった。
エイのような身体に髑髏の頭、屈強な二本の腕を持っている。
俺は他を放って、そのうちの一体に意識を集中した。
通常魔法陣を展開して魔法を放つ。
「インクリーザー!」
目標となった空飛ぶエイが、飛ぶ力を失ったように落下する。
多くのモンスターを押し潰したところへ榴弾が落ち、始末をつけた。
もう一匹には銃弾と矢が浴びせられたが、なかなか死なず、榴弾砲のトラックへ襲いかかろうとした。
そこはナムリッドの魔法が守った。
「ウインドミル!」
突風がモンスターを巻き込み、きりもみさせてトラックの後ろへ落下させた。
団長が駆けつけ、ギルティープレジャーで首を落とす。
さらに、動きが止まるまで銃弾と矢が叩きこまれた。
こちら側、右翼はこの襲撃をなんとかしのいだ。
しかし、左翼はうまくなかった。
最終的に空飛ぶエイを倒したものの、榴弾砲が三台、砲手とともに谷底に落とされた。
それから数時間、俺たちは戦い続けた。
モンスターの群れはきりがなかった。
犠牲者の数はまだ少なかったが、ちょっとした油断が命取りになる場合を多く見た。
俺たちは持ちこたえた。
だが、じりじりと削られていた。
太陽が正午を指すころ、突如として、モンスターの波が引き始めた。
追い打ちをかけつつも、勝どきの声が上がる。
モンスターの数はまだまだ多い。
俺は腑に落ちないながらも一息ついた。
そこへ指揮官であるベクターさんがやってきた。
「おぬし、立派じゃったの。こちら側は榴弾砲を一台も失っておらん」
俺は聞いてみた。
「ヤツら、なんで引いていったんですか……?」
ベクターさんは杖で太陽を指した。
「モンスターの活性がいちばん鈍る時間帯じゃ。夜には攻撃が再開されるじゃろう。見事なまでに統率されておる。いままでありえなかったことじゃ。統率者を発見し、叩けねば勝てん。じゃが、今は休め」
ベクターさんは状況を見回りに、下へ降りていった。
俺も崖下の様子を伺うと、義勇兵の多くが戦場に散らばったトリファクツ結晶を拾い集めていた。
それだけならいいが、持ちきれるだけ集めてしまうと、アルコータスの方角へ帰ってしまう者も少なからず出てきた。
まあ仕方ない。
俺たちだって、どこまで踏ん張れるかわかったものじゃなかった。
火が起こされ、食事が始まる。
俺たちは言葉少なに、クラッカーやドライフルーツを口に運んだ。
いちばん具合が悪そうなのは、イリアンだった。
青い顔をして、浅い息をついている。
マナ・ファクツの使いすぎだった。
ロシューは妹を気遣って言った。
「次の攻撃が始まったら、弾込めと砲手を交代する。だが、俺では何発撃てるか……」
団長も口を開く。
「次の攻撃が始まったら、谷底の動向に注意しながら戦え。軍が突破されたら囲まれる前に脱出するぞ」
トゥリーも諦めたような口調で言った。
「けっきょく数には敵わないかね。十倍じゃきかないほどだもんな」
ぐったりと休憩していると、再びベクターさんが現れた。
「各団長、集まるのじゃ」
その声は低かった。
ベクターさんもトークタグを装備しているに違いない。
突然、ざわめきが広がった。
「敵だ!」と声が上がる。
指差すほうへ目を向けると空中だった。
黒いローブを着て、スタッフを持った人間らしい姿が、直立姿勢で空を飛んでくる。
ベクターさんが言った。
「全軍、いま近づいて来る者を撃つな。来させてやれ」
ローブの男は攻撃を受けないとわかると、俺たちの目の前に着地した。
褐色の肌をした初老の男だった。
男はよく通る声で言った。
「われはマイアズマ・デポ管理人の一人、テガッツァ。ここの指揮者どのにお目通り願いたい」
ベクターさんが進み出る。
「わしが指揮官の一人じゃ」
テガッツァは不躾に言った。
「敵の最大の武器は?」
ベクターさんは怯まず答えた。
「統率じゃ」
「さよう。それはわれらにも興味深い問題だった。そこでわれらは研究の手を休めて観察し、そして知った。外の世界がどうなろうと大したことではないが、知ったからには教えてやろうと、ここまで参った」
「何をじゃ?」
テガッツァは空中に杖で円を描いた。
その中に、モンスターの軍勢の俯瞰が映し出される。
モンスターの軍勢の所々から光の線が走り、それがマイアズマ・デポ寄りのある一点に集中した。
「この光が集中する一点に、敵の指揮者がおる。強大な魔力でモンスターに秩序を与え、一手に掌握しておるのだ」
俺たちはテガッツァを囲んで、感嘆の声を漏らした。
いまこそ、敵の正体が判明したのだった。
ベクターさんが言う。
「じゃが、そこまで行く手段がない。おぬしがやってくれるのか?」
テガッツァは低く笑った。
「まさか。相手は少なくとも強大な魔道士。ことによると類まれなデーモンなるぞ。われは助力をいたすが、命までは捧げん。手段はそちらで考えていただこう」
「飛べる魔道士はみな死んでしまった」
戦いの中、飛べる魔道士に榴弾を持たせて、爆撃機のように攻撃させたのだった。
その攻撃は確かに効いた。
しかし、モンスターの中には対空手段を持つものがいた。
魔法的な力で剣を飛ばして、引き返させる前にみな殺してしまったのだった。
アルクラッド団長が唸った。
「血路を開いて押し通るには距離がありすぎる。無理だ」
トゥリーもあごを撫でながら言う。
「空を飛べて、爆発的な攻撃力を持つヤツが必要か……」
俺の胸が軽くうずいた。
他の自警団員たちも口々に相談し始めた。
俺には一つ妙案があったが、黙っている。
相手は強大な魔道士だ。
一人では命の危険が大きい。
俺はこんなところで死にたくなかった。
ここでそこそこ戦って撤退したほうが、割よく生き延びられる。
ベクターさんが嘆息した。
「ではやはり、地道に戦うしかないようじゃ。勝負を早く決することができれば、エッジワンの民も救えたじゃろうが……」
俺は驚いた。
エッジワンの住民は皆殺しにされたんじゃなかったのか!?
慌ててベクターさんに聞く。
「どういうことですか? エッジワンに生き残りがいるっていうんですか?」
「そうじゃ。戦える者はみな死んだじゃろう。じゃが、エッジワンには万が一の場合のシェルターがあったのじゃ。女、子供、年寄りはそこに避難しているはずじゃ。数千人が入れる規模じゃが、住民は油断しておったからロクな備蓄はないじゃろう。餓死するか、外に出てモンスターの餌食になるかしか、道はない」
「……」
俺は言葉を失った。
クソッ、聞くんじゃなかった!
ここに向かってくるあいだに避難民とほとんど出会わなかったのは、そういうことだったのか!
まだ数千人も生き残りがいて、餓死が迫ってるだなんて!
俺には数千人の命を救うために、試せるだけの力があった。
しかし、自分の命と引き換えだ。
悩んだ。
悩んだが、けっきょく、ここで自分の考えに素知らぬふりをしたら、今後麗しい女性陣たちとの楽しい時間は過ごせなくなるだろう。
もしかしたら、俺がこの世界に飛ばされたのも、この数千人を救うためだったのかもしれない。
俺は震えを抑えながら申し出た。
「俺が行くよ」
周囲に沈黙が降りた。
一度口にしてしまうと、度胸が湧いてきた。
「俺なら行ける。……いや、俺だけができる!」
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
二人の転生伯爵令嬢の比較
紅禰
ファンタジー
中世の考えや方向性が強く残る世界に転生した二人の少女。
同じ家に双子として生まれ、全く同じ教育を受ける二人の違いは容姿や考え方、努力するかしないか。
そして、ゲームの世界だと思い込むか、中世らしき不思議な世界と捉えるか。
片手で足りる違いだけ、後は全く同じ環境で育つ二人が成長と共に周りにどう思われるのか、その比較をご覧ください。
処女作になりますので、おかしなところや拙いところがあるかと思いますが、よろしければご覧になってみてください。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
幼女からスタートした侯爵令嬢は騎士団参謀に溺愛される~神獣は私を選んだようです~
桜もふ
恋愛
家族を事故で亡くしたルルナ・エメルロ侯爵令嬢は男爵家である叔父家族に引き取られたが、何をするにも平手打ちやムチ打ち、物を投げつけられる暴力・暴言の【虐待】だ。衣服も与えて貰えず、食事は食べ残しの少ないスープと一欠片のパンだけだった。私の味方はお兄様の従魔であった女神様の眷属の【マロン】だけだが、そのマロンは私の従魔に。
そして5歳になり、スキル鑑定でゴミ以下のスキルだと判断された私は王宮の広間で大勢の貴族連中に笑われ罵倒の嵐の中、男爵家の叔父夫婦に【侯爵家】を乗っ取られ私は、縁切りされ平民へと堕とされた。
頭空っぽアホ第2王子には婚約破棄された挙句に、国王に【無一文】で国外追放を命じられ、放り出された後、頭を打った衝撃で前世(地球)の記憶が蘇り【賢者】【草集め】【特殊想像生成】のスキルを使い国境を目指すが、ある日たどり着いた街で、優しい人達に出会い。ギルマスの養女になり、私が3人組に誘拐された時に神獣のスオウに再開することに! そして、今日も周りのみんなから溺愛されながら、日銭を稼ぐ為に頑張ります!
エメルロ一族には重大な秘密があり……。
そして、隣国の騎士団参謀(元ローバル国の第1王子)との甘々な恋愛は至福のひとときなのです。ギルマス(パパ)に邪魔されながら楽しい日々を過ごします。
ブラック・スワン ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~
碧
ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる