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第50話
春陽が萌衣の部屋に来た理由
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「ふぅ…」
片付けも終盤を迎え、床に物がなくなるとこんなにもスッキリと
広く感じるのかと爽快感に浸される。
「おい、できたぞ」
ちょうどすき焼きの支度を終えた春陽が萌衣がいるリビングまで
やってきた。ダイニングテーブルにはグツグツと煮立ったすき焼きが
用意され、美味しそうな匂いがプンプンと漂ってきていた。
「おっ、キレイに片付いたじゃねーか」
「まあ…」
「よく頑張ったな」
萌衣に優しい視線を向けた春陽はその手を萌衣の頭へ乗せ、
2回ほど軽く撫でた。
「!?」ドッキ、、、、、
「さあ、食おうぜ」
「あ、うん…」
不意を突かれたように頭をポンポンされ、私の頬は思わず桜色に染まる。
俯き加減のまま歩き、視線に映る茶系色の靴下を見つめ、まともに
春陽社長の顔を見ることもできず、私はダイニングテーブルの前に
腰を掛ける。
その傍から煮込まれたお肉の香りがプンプン漂い、そろそろお腹の虫も
限界がきているようだ。
「うわあ、美味しそうですね」
お腹の虫が鳴る前に喜びの声を張り上げた私は器にすき焼きを取り分ける。
目の前にいる春陽社長のことを暫し忘れ一口パクリ。
口の中で柔らかいお肉がトロけていくようだ。
「ん―――おいひぃ」
笑顔が解放され、萌衣は幸せそうな顔で口に頬張っている。
「まあ、当然だろ。どんどん食えよ」
この食事が春陽社長と一緒に食べた最初で最後の
食事になるかもしれない……
ドラマみたいにハッピーエンドになってずっと続くとは限らないのに
私はこの時間がずっと続けばいいって思っている。
聞きたいことは山ほどある。
「社長…一つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「この部屋、前にも来たことありますか?」
私は思い切って春陽社長に聞いてみた。
「ここは…一年前まで息子が暮らしていた部屋だったんだ」
春陽が答える。
「え…息子さん!?」
「事故で死んだんだ」
「翔流君……」
私の口から名前がポロッと零れた。
「覚えてるのか……?」
「実は今朝、葵さんに会って…。葵さん聞くまで私 忘れてたんです。
ごめんなさい」
「お前が謝ることじゃない」
「私…色々あって… 」
「ああ、わかってる…」
「翔流君と遊んでいたことも名前も忘れてて…
翔流君は私のこと覚えててくれてのに…」
「俺の方こそ悪かったな…。何も言わずにユキとお前の前から
いなくなって…大人の都合だ。急に海外に行くことになって
しまってな…『さよなら』も言わず行ったこと翔流にも
悪いことをしたと思っている」
「もしかして、私を秘書にしたのも翔流君の初恋相手だったからですか?」
「ああ…それもあるが…」
春陽社長は何かを言いかけて口を閉ざした。
私はそれ以上の事は聞かなかった、、、、
だいたいのことは見当がついていたからだ。
春陽社長と私が恋愛に発展することはないーーー。
悔しい程に、まったく涙も出やしない。
あまりにも美味しすぎるすき焼きの味が悲しみよりも幸せの方が少しだけ
勝っているみたいだった。
色気より食い気が勝つなんて私はまだまだ子供だ、、、、
ちょっぴり辛くて、砂糖の甘みが勝つすき焼きの味に私は救われた―――ーーー。
片付けも終盤を迎え、床に物がなくなるとこんなにもスッキリと
広く感じるのかと爽快感に浸される。
「おい、できたぞ」
ちょうどすき焼きの支度を終えた春陽が萌衣がいるリビングまで
やってきた。ダイニングテーブルにはグツグツと煮立ったすき焼きが
用意され、美味しそうな匂いがプンプンと漂ってきていた。
「おっ、キレイに片付いたじゃねーか」
「まあ…」
「よく頑張ったな」
萌衣に優しい視線を向けた春陽はその手を萌衣の頭へ乗せ、
2回ほど軽く撫でた。
「!?」ドッキ、、、、、
「さあ、食おうぜ」
「あ、うん…」
不意を突かれたように頭をポンポンされ、私の頬は思わず桜色に染まる。
俯き加減のまま歩き、視線に映る茶系色の靴下を見つめ、まともに
春陽社長の顔を見ることもできず、私はダイニングテーブルの前に
腰を掛ける。
その傍から煮込まれたお肉の香りがプンプン漂い、そろそろお腹の虫も
限界がきているようだ。
「うわあ、美味しそうですね」
お腹の虫が鳴る前に喜びの声を張り上げた私は器にすき焼きを取り分ける。
目の前にいる春陽社長のことを暫し忘れ一口パクリ。
口の中で柔らかいお肉がトロけていくようだ。
「ん―――おいひぃ」
笑顔が解放され、萌衣は幸せそうな顔で口に頬張っている。
「まあ、当然だろ。どんどん食えよ」
この食事が春陽社長と一緒に食べた最初で最後の
食事になるかもしれない……
ドラマみたいにハッピーエンドになってずっと続くとは限らないのに
私はこの時間がずっと続けばいいって思っている。
聞きたいことは山ほどある。
「社長…一つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「この部屋、前にも来たことありますか?」
私は思い切って春陽社長に聞いてみた。
「ここは…一年前まで息子が暮らしていた部屋だったんだ」
春陽が答える。
「え…息子さん!?」
「事故で死んだんだ」
「翔流君……」
私の口から名前がポロッと零れた。
「覚えてるのか……?」
「実は今朝、葵さんに会って…。葵さん聞くまで私 忘れてたんです。
ごめんなさい」
「お前が謝ることじゃない」
「私…色々あって… 」
「ああ、わかってる…」
「翔流君と遊んでいたことも名前も忘れてて…
翔流君は私のこと覚えててくれてのに…」
「俺の方こそ悪かったな…。何も言わずにユキとお前の前から
いなくなって…大人の都合だ。急に海外に行くことになって
しまってな…『さよなら』も言わず行ったこと翔流にも
悪いことをしたと思っている」
「もしかして、私を秘書にしたのも翔流君の初恋相手だったからですか?」
「ああ…それもあるが…」
春陽社長は何かを言いかけて口を閉ざした。
私はそれ以上の事は聞かなかった、、、、
だいたいのことは見当がついていたからだ。
春陽社長と私が恋愛に発展することはないーーー。
悔しい程に、まったく涙も出やしない。
あまりにも美味しすぎるすき焼きの味が悲しみよりも幸せの方が少しだけ
勝っているみたいだった。
色気より食い気が勝つなんて私はまだまだ子供だ、、、、
ちょっぴり辛くて、砂糖の甘みが勝つすき焼きの味に私は救われた―――ーーー。
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