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第41話
一夜が明けて
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ラブホテルの一室。
カーテンを閉め切った静かな薄暗い部屋に男の脱ぎ捨てられた下着とスーツが
散乱している。
キングサイズのベットには中肉中背の男が裸でうつ伏せに横たわり、
まだ寝息を立てて眠っている。
目を覚ました春陽は上半身を起こし、その視線を隣に向ける。
男の顔を見て春陽は驚く。
田処の顔が春陽の視界に入り込んできた。
「はあ…」
春陽の口から溜息が漏れる。
〈このオッサン、ほんと見境ねーな。女も男も関係ねーのかよ。
まあ、俺も酔った勢いとはいえ、情けねーざまだ…〉
〈…ったく、最悪だ。ゲロ…吐きそう…〉
顔を抱えた後、春陽は少しずつ理性を取り戻しつつベットから下りていく。
そして、己の下着とスーツを身に着ける。
ガサガサする音に目を覚ました田処が上半身を起こす。
「藤城君、おはよ」
「あ、どうも…おはようございます」
顔の筋肉が固くなりピクピクさせながらも春陽は取りあえず挨拶を交わす。
こういう場合、どんな顔をすればいいのか春陽は理解不能だった。
〈目覚めた朝に美女が隣にいれば甘いキスをしてあげるんだが…。ここは契約書に
印鑑をもらって早くこの場を立ち去らなければ…〉
「田処社長…契約書に印鑑をお願いします」
春陽はベットに腰を掛け、田処の前に契約書を差し出す。
「おお、そうだったな。印鑑はえっと…」
田処がベットから出ようと腰を上げる。
「はい、どうぞ」
すぐに春陽は田処の前に印鑑を出す。
「随分、準備がいいな」
「俺も同じですから。もしかしたら田処社長も印鑑をスーツの内ポケットに入れて
すぐに出せれるようにしているんじゃないかと思いまして」
春陽は着替えた後に田処のスーツの内ポケットから印鑑を抜き取って
いたのだった。
「なるほどな」
「はい、ボールペンをどうぞ」
春陽がボールペンを差し出すと、田処がその手首を掴む。
「え…」
「藤城君、もう一回いいかね?」
いきなり田処がねだってきた。
「ダメですよ、田処社長(笑)契約書が先です」
春陽は愛想笑いで答える。
〈あんなこと二度とできるか〉
「ほな、この契約書を白紙にするよ」
「あ、ずりぃ」
思わず、春陽の口から本音がポロリと出てしまった。
「じゃ、キス一回に負けてあげるからさ。キスしてよ、藤城君、さあ」
「田処社長、まだ酔いが醒めてないんですか?」
それでも田処は唇を突き出して近づいてくる。
〈なぜ、俺がこのオッサンとまたキスをしなきゃいけないんだ〉
「もしかして、田処社長ってゲイですか?」
「ホントは彼女みたいな初々し子を食べてみたかったんだが、藤城君もいい身体
してるなって思ってさ…満更、藤城君みたいな男も悪くないなってさ…唇なんて
柔らかくて気持ちよかったし」
〈うぉ…マジかー…鳥肌立ってきてるし、、、正気かこのオッサン、、、
マジ、キモイし…〉
「田処社長、絶対に印鑑押して下さいね。それと、もうこれっきりですよ」
〈これも仕事の一貫だ。仕方ない、目をつぶろう…〉
「わかってるよ」
「じゃ、いきますよ」
「私はいつでもオッケイだよ」
〈なんじゃ、そりゃ…〉
春陽は少しずつ距離を詰めていく。
その後、春陽の腕が田処の頸椎へと回り、見つめ合う視線に笑いを
こらえながらも、2人の距離が近づいていき、生温かい唇同士が触れ合った。
数秒過ぎ、春陽はゆっくりと唇を離していく。
「藤城君、さすがだな。めちゃくちゃキスするのうまいね(笑)」
〈あんたに言われたくねーけどな、、、〉
「あの、言っときますけど俺は男より女を抱く方が好きですから」
「そりゃ当然だ(笑)。私も男よりは女がいい」
そう言いながら、田処は契約書に印鑑を押す。
〈よく言うわ、、、〉
「これで契約成立だな」
「田処社長、ありがとうございます」
「じゃ、設計士と相談の上、ホテル建設を来週から取りかからせてもらうよ」
「はい、宜しくお願いします」
春陽は契約書をカバンにしまうと早々とドアに向かう。
「藤城君、また会ってくれるかい?」
『もう、会いませんよ…』
春陽が小声でボソっと呟く。
その後、本来の自我を立て直し、「田処社長、お疲れさまでした」と、
愛想笑いを浮かべて社交辞令で応じたのだった。
そして、春陽はその場から離れ部屋を退出する。
春陽が部屋を出た後、『パタン…』と静かに扉が閉まる音がした。
カーテンを閉め切った静かな薄暗い部屋に男の脱ぎ捨てられた下着とスーツが
散乱している。
キングサイズのベットには中肉中背の男が裸でうつ伏せに横たわり、
まだ寝息を立てて眠っている。
目を覚ました春陽は上半身を起こし、その視線を隣に向ける。
男の顔を見て春陽は驚く。
田処の顔が春陽の視界に入り込んできた。
「はあ…」
春陽の口から溜息が漏れる。
〈このオッサン、ほんと見境ねーな。女も男も関係ねーのかよ。
まあ、俺も酔った勢いとはいえ、情けねーざまだ…〉
〈…ったく、最悪だ。ゲロ…吐きそう…〉
顔を抱えた後、春陽は少しずつ理性を取り戻しつつベットから下りていく。
そして、己の下着とスーツを身に着ける。
ガサガサする音に目を覚ました田処が上半身を起こす。
「藤城君、おはよ」
「あ、どうも…おはようございます」
顔の筋肉が固くなりピクピクさせながらも春陽は取りあえず挨拶を交わす。
こういう場合、どんな顔をすればいいのか春陽は理解不能だった。
〈目覚めた朝に美女が隣にいれば甘いキスをしてあげるんだが…。ここは契約書に
印鑑をもらって早くこの場を立ち去らなければ…〉
「田処社長…契約書に印鑑をお願いします」
春陽はベットに腰を掛け、田処の前に契約書を差し出す。
「おお、そうだったな。印鑑はえっと…」
田処がベットから出ようと腰を上げる。
「はい、どうぞ」
すぐに春陽は田処の前に印鑑を出す。
「随分、準備がいいな」
「俺も同じですから。もしかしたら田処社長も印鑑をスーツの内ポケットに入れて
すぐに出せれるようにしているんじゃないかと思いまして」
春陽は着替えた後に田処のスーツの内ポケットから印鑑を抜き取って
いたのだった。
「なるほどな」
「はい、ボールペンをどうぞ」
春陽がボールペンを差し出すと、田処がその手首を掴む。
「え…」
「藤城君、もう一回いいかね?」
いきなり田処がねだってきた。
「ダメですよ、田処社長(笑)契約書が先です」
春陽は愛想笑いで答える。
〈あんなこと二度とできるか〉
「ほな、この契約書を白紙にするよ」
「あ、ずりぃ」
思わず、春陽の口から本音がポロリと出てしまった。
「じゃ、キス一回に負けてあげるからさ。キスしてよ、藤城君、さあ」
「田処社長、まだ酔いが醒めてないんですか?」
それでも田処は唇を突き出して近づいてくる。
〈なぜ、俺がこのオッサンとまたキスをしなきゃいけないんだ〉
「もしかして、田処社長ってゲイですか?」
「ホントは彼女みたいな初々し子を食べてみたかったんだが、藤城君もいい身体
してるなって思ってさ…満更、藤城君みたいな男も悪くないなってさ…唇なんて
柔らかくて気持ちよかったし」
〈うぉ…マジかー…鳥肌立ってきてるし、、、正気かこのオッサン、、、
マジ、キモイし…〉
「田処社長、絶対に印鑑押して下さいね。それと、もうこれっきりですよ」
〈これも仕事の一貫だ。仕方ない、目をつぶろう…〉
「わかってるよ」
「じゃ、いきますよ」
「私はいつでもオッケイだよ」
〈なんじゃ、そりゃ…〉
春陽は少しずつ距離を詰めていく。
その後、春陽の腕が田処の頸椎へと回り、見つめ合う視線に笑いを
こらえながらも、2人の距離が近づいていき、生温かい唇同士が触れ合った。
数秒過ぎ、春陽はゆっくりと唇を離していく。
「藤城君、さすがだな。めちゃくちゃキスするのうまいね(笑)」
〈あんたに言われたくねーけどな、、、〉
「あの、言っときますけど俺は男より女を抱く方が好きですから」
「そりゃ当然だ(笑)。私も男よりは女がいい」
そう言いながら、田処は契約書に印鑑を押す。
〈よく言うわ、、、〉
「これで契約成立だな」
「田処社長、ありがとうございます」
「じゃ、設計士と相談の上、ホテル建設を来週から取りかからせてもらうよ」
「はい、宜しくお願いします」
春陽は契約書をカバンにしまうと早々とドアに向かう。
「藤城君、また会ってくれるかい?」
『もう、会いませんよ…』
春陽が小声でボソっと呟く。
その後、本来の自我を立て直し、「田処社長、お疲れさまでした」と、
愛想笑いを浮かべて社交辞令で応じたのだった。
そして、春陽はその場から離れ部屋を退出する。
春陽が部屋を出た後、『パタン…』と静かに扉が閉まる音がした。
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