ニアの頬袋

なこ

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事務室はカオス

27 傍観者視点

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誰かそろそろ、あのポカポカ止めろよ…

一応相手は総司令官なんだし…

「ニア、止めろ。」

お、団長!

「だって、せっかく秘密にしてたのに!」

いや、だから、秘密にするべきは、そこじゃないだろ。

「叩くなら、わたしを。ほら。」

は?

「止めるな、ラルフ。ニア様はわたしを叩きたいのだ。」

……。

「いえ、ニアはわたしの恋人です。他の人をポカるなんて、許せません。例えそれが父上であっても。」

…恋人!?

「なんだと、ラルフ…。お前に寄り付く悪い虫とは、まさか…」

…虫。誰だよ、虫って言ったの。

…ノエル、虫って言ったのはノエルだ!

俺たちは言ってない!

ニア様のこと、虫なんて思っちゃいないですよ!

「え?おじさんは団長のお父さん?」

ニア、じゃないニア様、気づくの遅すぎだろ!

むしろ、知らなかったのかよ!

ほら、総司令官が固まって震え出したじゃないか…

何が、どこが、逆鱗に触れたんだ?

怒るツボがありすぎて、わかんねえよ…

「それに、おじさん、総司令官だったの!?
ごめんなさい、そんなに偉い人だったなんて、知らなくて…」

ああ、ニア様、もうこれ以上余計なことは、言わないで…

「…ニア様。誠ですか?ラルフが、あの愚息が言っていることは…。」

「あ、昨日なったばかりなんですけど…」

昨日!?なりたて!?

「申し訳ありません。ぼくみたいな、ちんちくりんが恋人なんて、おじさ、総司令官もお許しできないですよね…」

ちんちくりん!?

誰だよ、そんなこと言ったやつ!

あ、ノエルのやつ、目が泳いでる…

お前か!

「父上、わたしはニアを本気で愛しています!ニアが王族の子ならば、身分的になんの問題もないではありませんか!」

「やだ、団長、愛してるとか、ちょっと、言い過ぎです…」

「本気なんだ、ニア。ニアもだろ?」

「そんな、あ、愛してるなんて、まだ早いのでは?」

なんだ、これ?

ニア様、赤くなってるし…

「ラルフ!!!」

ひっ、総司令官の顔が、やばい…

目が、目つきが、あの目つきだけで、殺される!!!

「よくやった!!!」

………。

「さすが、わしの息子だ!ニア様に目をつけるとは!お前がなかなか身を固めんから、周りが煩さくてかなわんかったが、そうか、ニア様か!ニア様のようなお方を待っていたんだな!」

………。

「父上、それではお許しを?」

「許すも何も、ニア様なら万々歳ではないか!」

「では、いつ式をあげましょう。」

「今すぐにでもと言いたい所だが、王子に許可を頂かねばなあ。」

ええと、確か、昨日恋人になったばかりだって、言ってたよね…。

式って、聞こえたような…。

「式?なんのことですか?」

ほら、やっぱりニア様も分かっていない…。

「ニアとわたしの結婚式だ。」
「ニア様と倅の結婚式ですぞ。」

「………え?結婚…?」

あ、ニア様、固まってしまった……

「あ、あの、お取り込み中大変申し訳ないのですが、総司令官、ラルフとニア様も、ここでは何ですから、宜しければ別室で…」

室長!!!

「おお、そうだな。みな仕事の邪魔をして悪かったのう。」

「わたしの部屋で話しましょう。ニアもおいで。」

「でも、ぼく、仕事しないと…。総司令官もお仕事で来たんじゃ?」

いや、いいから、仕事なんてしなくていいから!

お願いだから、総司令官と団長を連れ出して、ニア様!

「ニア、様、仕事は気にしなくていいので、総司令官のお相手を頼みます。」

「でも、室長…」

「ニア、ほら、行くぞ。」

「あっ、ちょっと、そんな、引き摺らないで!」

「ニア様、行きますぞ。」

大柄な男二人に挟まれ、まるで連れ去られるかのように、ニア様が引き摺られて行く。

ぱたりと、三人が部屋を出て、扉が閉められた。

事務室の中は、しんとしている。

「あの、ちょっと、頭の中を整理したいんですが…」

誰かが、声をあげた。

「どこから整理すればいいんだ…」

「ニア、様が第十王子のお子で、第十王子は父親でなく、母親で…」

「なんか、そこから混乱するんだけど…」

「訳がわかんないっ!」

ノエルが声を荒げた。

「ノエル、諦めろ。」

「お前、総司令官と団長の間に挟まれて、うまくやっていける自信あるか?」

「……。」

「な、だから諦めろ。お前、顔だけはいいんだから。」

「…ひどい。」

こんな時ニアがいたら、お茶でもどうぞなんて笑顔で言ってくれて、皆んなを落ち着かせてくれただろうな…。

ぱたぱたと走り回るニアがいない。

もうニアは、ニア様はここへは戻ってこないかもしれないと、誰しもがそう思い、少し淋しい気持ちになった。














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