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ニア意識する
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コテージでは、ソファーに降ろされたニアの濡れた脚をラルフが屈み込んで拭いている。
その手つきは優しく、クッションを抱えたニアは、されるがままにラルフのつむじを見下ろしていた。
事務官をしているニアは、騎士達に届く沢山の懸想文を知っている。
それらを振り分け、各々に届けるのもニアの仕事だ。
ラルフ宛のものは、群を抜いて多い。
騎士がモテるのは知っていたが、その理由を今こうして、まざまざと見せつけられている気がする。
助けられて、助けられた後もこんな風に優しくされたら、誰だって懸想してしまう。
ラルフのごつごつとした手がニアのか細い脚に触れるたび、ニアは自分でも分かるぐらいに頬が赤面し、抱えるクッションに顔を埋めた。
「どうした?よほど怖かったんだろうな。もうあの狼が襲ってくるようなことはないから、安心していいぞ。」
クッションから顔を上げると、団長が優しく笑っている。
どき。
なんだか、胸がどきどきする。
ニアは初めての胸のどきどきに、思わずまたクッションに顔を埋めた。
「わたしも腹が減ったなあ。ニア、食べるぞ。」
ニアの頭を軽く撫でると、ラルフはニアをベランダへと促す。
赤面した頬がばれないように、ニアはラルフの後ろからおそるおそる湖の方を確認した。
「大丈夫だ。もう来ないから。」
ラルフは笑っている。
主には、さっき言いつけたのだ。
これは、わたしのだから、手を出すなと。
不思議なことだが、ラルフの一族はあの狼と意思を疎通し合うことができる。
せっかく久しぶりに滾る相手を見つけたのに、すでにお前のものだとはな、と主はしぶしぶ森へと帰って行った。
ラルフがいる間は手出ししてこないだろう。ただ、ニアを一人にしたらいつ巣穴に連れ込まれるか分からない。
ニアが巣穴に連れ込まれる姿を想像し、ラルフは頭を抱えた。
「…本当に、もう来ないでしょうか?」
「来たとしても、わたしがいるから問題ないだろ。早く食べよう。」
団長の一睨みで狼は去って行った。
団長といれば、きっと大丈夫。
ニアがベランダに出ると、テーブルの上にはきれいに食事が並べられている。
「すごい…。」
「ずいぶんと張り切って作ってくれたようだな。」
うんうんとニアは頷く。
サンドイッチだけでも三種類。
トマトとチーズ。
ふわふわの黄色い卵。
厚切りベーコンにレタスときゅうり。
色鮮やかな野菜と海老のテリーヌ。
ニアが喉を鳴らすローストビーフ。
果物も食べやすいように、一口サイズにカッティングされている。
「お昼なのに、こんなに豪華でいいんでしょうか…。」
「朝昼兼用だからいいんだ。」
言われてみれば、朝ごはんを食べていない。
そう思うと、ニアのお腹は急にぐうぐうと、激しく鳴り出した。
ラルフにも聞こえたようだ。
「あ……」
「さあ、食べよう。ニア、これだけあるんだから、たくさん食べろよ。」
「はい…。いただきます!」
「召し上がれ。」
トマトの酸味とチーズのコク、ふわふわで少し甘い卵、贅沢に厚切りされたベーコンの脂と生野菜のシャキシャキ。
「…しあわせれふ。」
ニアは頬いっぱいに頬張って、思う存分食べた。
ラルフにその頬をつつかれ、口元についたソースを指で取られても、気にしない。
「…おいひい。」
「よかったなあ、ニア。多分シェフに気に入られたんだぞ。」
ラルフはニアの好きなローストビーフを大きなままくるくるとフォークに巻き取ると、ニアの前に差し出した。
「ほら、好きだろう。」
ニアはぱくりと、それを大きく開けた口に迎え入れた。
ほら、団長はたくさん食べる方が好きなんだ。
ノエルには小さく切ってあげていたけど。
………ん?
「どうした?旨くなかったか?」
「あ、いえ。とっても美味しいです。」
ニアは首を傾げる。
あれは、夢だ。
団長に意識しろと言われてから、ニアはなんだかおかしい。
「今日もニアの好きな、これがあるぞ。」
ラルフが器用に皮を剥いているのは、真っ赤に熟した赤い果実だ。
「あ…それ…」
艶めかしく開いたノエルの口に入れようとしていた……
それは、ぼくの…
ラルフの指からじゅくじゅくと汁が滴る白い果実を差し出されると、ニアは吸い込まれるようにその指にしゃぶりついた。
「…ん?ニア?」
待って、まだ、もっと、これはニアの……
口から抜かれようとするラルフの指を、ニアの口が追いかける。
「ニア…」
ラルフがもう一度深く指を差し込むと、ニアは目を閉じでその指にしゃぶりついた。
太くて長くて、少しごつごつとしたその指に。
「ニア、そんなに旨かったのか?」
暫くしゃぶりついていたニアは、はっと目を開いた。
目の前の団長は、ニヤリと笑っている。
「あ…………。ぼく……」
つい今しがたまでしていた行為に、ニアは赤面した。
ぼく、なんてこと…。
ノエルのあれは、夢なのに…。
その手つきは優しく、クッションを抱えたニアは、されるがままにラルフのつむじを見下ろしていた。
事務官をしているニアは、騎士達に届く沢山の懸想文を知っている。
それらを振り分け、各々に届けるのもニアの仕事だ。
ラルフ宛のものは、群を抜いて多い。
騎士がモテるのは知っていたが、その理由を今こうして、まざまざと見せつけられている気がする。
助けられて、助けられた後もこんな風に優しくされたら、誰だって懸想してしまう。
ラルフのごつごつとした手がニアのか細い脚に触れるたび、ニアは自分でも分かるぐらいに頬が赤面し、抱えるクッションに顔を埋めた。
「どうした?よほど怖かったんだろうな。もうあの狼が襲ってくるようなことはないから、安心していいぞ。」
クッションから顔を上げると、団長が優しく笑っている。
どき。
なんだか、胸がどきどきする。
ニアは初めての胸のどきどきに、思わずまたクッションに顔を埋めた。
「わたしも腹が減ったなあ。ニア、食べるぞ。」
ニアの頭を軽く撫でると、ラルフはニアをベランダへと促す。
赤面した頬がばれないように、ニアはラルフの後ろからおそるおそる湖の方を確認した。
「大丈夫だ。もう来ないから。」
ラルフは笑っている。
主には、さっき言いつけたのだ。
これは、わたしのだから、手を出すなと。
不思議なことだが、ラルフの一族はあの狼と意思を疎通し合うことができる。
せっかく久しぶりに滾る相手を見つけたのに、すでにお前のものだとはな、と主はしぶしぶ森へと帰って行った。
ラルフがいる間は手出ししてこないだろう。ただ、ニアを一人にしたらいつ巣穴に連れ込まれるか分からない。
ニアが巣穴に連れ込まれる姿を想像し、ラルフは頭を抱えた。
「…本当に、もう来ないでしょうか?」
「来たとしても、わたしがいるから問題ないだろ。早く食べよう。」
団長の一睨みで狼は去って行った。
団長といれば、きっと大丈夫。
ニアがベランダに出ると、テーブルの上にはきれいに食事が並べられている。
「すごい…。」
「ずいぶんと張り切って作ってくれたようだな。」
うんうんとニアは頷く。
サンドイッチだけでも三種類。
トマトとチーズ。
ふわふわの黄色い卵。
厚切りベーコンにレタスときゅうり。
色鮮やかな野菜と海老のテリーヌ。
ニアが喉を鳴らすローストビーフ。
果物も食べやすいように、一口サイズにカッティングされている。
「お昼なのに、こんなに豪華でいいんでしょうか…。」
「朝昼兼用だからいいんだ。」
言われてみれば、朝ごはんを食べていない。
そう思うと、ニアのお腹は急にぐうぐうと、激しく鳴り出した。
ラルフにも聞こえたようだ。
「あ……」
「さあ、食べよう。ニア、これだけあるんだから、たくさん食べろよ。」
「はい…。いただきます!」
「召し上がれ。」
トマトの酸味とチーズのコク、ふわふわで少し甘い卵、贅沢に厚切りされたベーコンの脂と生野菜のシャキシャキ。
「…しあわせれふ。」
ニアは頬いっぱいに頬張って、思う存分食べた。
ラルフにその頬をつつかれ、口元についたソースを指で取られても、気にしない。
「…おいひい。」
「よかったなあ、ニア。多分シェフに気に入られたんだぞ。」
ラルフはニアの好きなローストビーフを大きなままくるくるとフォークに巻き取ると、ニアの前に差し出した。
「ほら、好きだろう。」
ニアはぱくりと、それを大きく開けた口に迎え入れた。
ほら、団長はたくさん食べる方が好きなんだ。
ノエルには小さく切ってあげていたけど。
………ん?
「どうした?旨くなかったか?」
「あ、いえ。とっても美味しいです。」
ニアは首を傾げる。
あれは、夢だ。
団長に意識しろと言われてから、ニアはなんだかおかしい。
「今日もニアの好きな、これがあるぞ。」
ラルフが器用に皮を剥いているのは、真っ赤に熟した赤い果実だ。
「あ…それ…」
艶めかしく開いたノエルの口に入れようとしていた……
それは、ぼくの…
ラルフの指からじゅくじゅくと汁が滴る白い果実を差し出されると、ニアは吸い込まれるようにその指にしゃぶりついた。
「…ん?ニア?」
待って、まだ、もっと、これはニアの……
口から抜かれようとするラルフの指を、ニアの口が追いかける。
「ニア…」
ラルフがもう一度深く指を差し込むと、ニアは目を閉じでその指にしゃぶりついた。
太くて長くて、少しごつごつとしたその指に。
「ニア、そんなに旨かったのか?」
暫くしゃぶりついていたニアは、はっと目を開いた。
目の前の団長は、ニヤリと笑っている。
「あ…………。ぼく……」
つい今しがたまでしていた行為に、ニアは赤面した。
ぼく、なんてこと…。
ノエルのあれは、夢なのに…。
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