ニアの頬袋

なこ

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ラルフの邸

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見たこともない様な料理がテーブルの上に次々に並べられて行く様を、ニアは寝台の中に隠れて見ていた。

部屋中に美味しい匂いが漂っている。

ぐう、ぐう、とお腹は何度も鳴り始めた。

「ニア、隠れていないで出てこい。夕飯だ。」

ひょっこりと包まれていた毛布から顔を出すと、ニアはきょろきょろと辺りを見回す。

「もう誰もいない。二人だけだ。」

「…あの、そうじゃなくて、ぼくの服…」

「服なら執事が持っていったぞ。」

「なんで!」

「洗ってくれるんじゃないか?」

「そんな、他に着るものなんてないのに…」

ラルフはいつの間にかゆったりとした下衣をはき、裸の上半身にはガウンを羽織っている。

「裸のままでもいいぞ。」

「普通に無理です。」

「わたしは構わないが。」

「ぼくが、構います。」

「仕方ない。これでいいか?」

渡されたのは、ラルフのシャツだ。

「…お借りします。」

シャツを受け取ると、ニアは寝台の中で隠れるように着替え、ラルフの前に出てきた。

「大きすぎます……」

首元は鎖骨が見えるほどゆるく開き、袖は長すぎて腕がすっぽりと隠れている。

身ごろは膝上まであり、ニアのか細い膝下が 丸出しになっている。

「ニア………」

ラルフは目を見開いたままその姿を数秒眺めると、ごくりと唾を飲み込んだ。

「すいません。なんか、せっかく貸して頂いたのに、こんな風で…。」

「似合っている……」

「え?」

「すごい破壊力だ。ニア。」

「へ?」

「裸のニアもいいが、これはこれで悪くない。」

団長がまた訳の分からないことを言っている…。

「さあ、隣に。」

ラルフはニアの袖を捲ってやると、隣りに座らせた。

テーブルに並べられたその料理の数々に、ニアは喉を鳴らしている。

お腹はずっと鳴り続けたままだ。

「ニアにはこれを。」

「念の為、腹に優しいものを用意させた。食べられそうか?」

ラルフがニアの目の前にある蓋を開けると、ふわあっと湯気が立ち上がる。

真っ白なスープだ。

食欲をそそるいい匂いが、ニアの鼻腔を擽る。

「熱いから気をつけて食べるんだぞ。」

「い、いただきます!」

真っ白なスープに匙を入れて掬うと、ふうふうと数回冷ますようにして、ニアはそれを口に運んだ。
 
スープは鶏ベースで、刻んだ薬草の他にほろほろに煮込まれた鶏肉や、穀類が入っている。

とろとろの、はふはふの、優しい味だ。

「美味しい!!!」

「気に入ったか?」

「はいっ!とっても、美味しいです!」

「そうか、それは良かった。たくさん食べろ。」

「ありがとうございます!」

ふうふうとしては、何度も口に運び、その度にうっとりとした表情を浮かべるニアを眺めながら、ラルフも食事を始めた。

「体調が悪いときはそれを作ってもらうようにしているんだ。それなら、するすると腹に入るだろう。」

「はい!いくらでも食べられそうです!」

「そうか。いくらでもか。さすが、ニアだな。」

団長はまた声を出して笑っている。

ニアは仕事中にこんな風に笑う団長の姿は見たことがない。

たいてい、険しい顔をしている。

ニアを見つめる団長は、ついさっきまでの恐ろしさはなく、とても穏やかな顔をしている。

ニアがいくら食べても、団長は変な目で見ることはないし、むしろもっと食べろと言ってくれる。

「それは全部ニアが食べていいからな。」

ごくんと、飲み込むと、ニアは気になっていたことを尋ねた。

「あの、好きって、ぼくのこと…。恋人って…。本当ですか?」

ニアの食事とは別に、ラルフの目の前には、色鮮やかなジュレの前菜や、黄金色の透明なスープ、肉のローストなどが並んでいる。

「まだ疑っていたのか?好きだと言っただろう。もう恋人は確定だ。なんなら、結婚してもいいぞ。」

ジュレを口に運ぶラルフは流石に上級貴族で、その所作は美しく色気すら漂う。

モテる訳だ。

本来ニアなんかが隣に並んでいい相手ではない。

「結婚っ!!!団長、大丈夫ですか?ニアですよ?ちんちくりんですよ!」

ぐほっと、ラルフはむせた。

「気にしてたんだな。ノエルが言っていた、ちんちくりん。」

「気にすると言うか、ちんちくりんは、ちんちくりんですから。」

「ニア、理由が必要か?」

「だって、わかりません。ぼくは、ノエルみたいに綺麗じゃないし、田舎者だし、団長に好きだと言ってもらえるようなものなんて、何もない。それに、ぼくなんかじゃ、団長には釣り合わないから。」

ラルフは溜め息を吐くと、肉のローストを大きめに切り、ニアに差し出した。

「食べろ、ニア。旨いぞ。」

「……………。」

「さあ、口を開けろ。ほら。」

切り分けられた肉は、普段ニアが食べる固い肉などとは比べようもないほど、柔らかそうに肉汁を滴らせている。

ニアが口を開くと、ラルフは大きな一切れを全てその中に押し込んだ。

「む、ん、んん!おいひぃ!!!」

なんて言う、柔らかさ!

滴る肉汁!

絡まるソースの美味しさよ。

「旨いだろう?」

何度も頷きながら、ニアは口いっぱいに頬張って咀嚼する。

「理由はこれだ。」

ニアの頬はまあるく膨らんでいる。

「この頬袋に惚れたんだ。たくさん食べるニアと、ニアの食べる姿が好きだ。この理由なら、納得できるか?」

ラルフは、ニアの頬袋を二、三回、つんつんと指でつついた。







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