ニアの頬袋

なこ

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ラルフside

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早めに出勤し、事務室の様子を窺いに行くと人の気配を感じる。

やはりニアはすでに出勤しているようだ。

これは好都合だと中に入ろうとし、ラルフはエリックの声に踏みとどまった。

エリックの奴ももう来ているのか。

ニアとエリックの話し声が聞こえてくる。

二人だけで何を話しているんだ?

エリックには妻も子もいるが、ニアと二人だけで室内にいるのは気に食わない。

扉の前で中の様子を窺うようにしていると、突然扉が開きニアがラルフに衝突した。

「うぎゃっ」

衝突の衝撃の軽さがニアらしい。

「悪いニア、大丈夫か?」

さりげなくニアの肩に手をやり、その顔を覗き込む。

昨晩は夢の中でニアを犯してしまった。

小さな身体を組み敷いて、嫌がるニアを散々嬲り倒した。

『もう、これいじょうは、むりー』

泣きながらラルフから逃れようとするニアを押さえつけ、しつこいぐらいに抱いた。

朝目覚め、自分にこんな性癖があったのかと驚いたが、ニアの抱き心地の良さは溜まらななった。たかが、夢なのに。

ずっと普通だと思っていたが、ニアに対する自分は少し変なのかもしれない。

夢と言えど、ラルフにも多少の罪悪感はあったが、生身のニアに触れると罪悪感は一瞬で消えてしまった。

目の前の本物のニアは、一体どんな声で啼くのだろうか。

「…団長?」

ぶつかった相手がラルフだと気がつき、ニアは少し驚いている。
 
「ニア?」

「大丈夫です。少し、驚いただけですから…」

ラルフの視線から顔を背けるニアの耳が、少しだけほんのりと赤くなっている。

夢の続きならば、このままその耳に齧り付くところだが、ラルフはなんとか持ち堪えた。

上手く団長室に誘導し、強引に明日の朝からの約束も取り付けた。

ラルフは本当に片付けが苦手なので、ニアが来てくれることは助かる。

一石二鳥だな。  

ニアの淹れてくれた茶はうまい。

お世辞ではなく、ニアの作る昼食もうまい。

昼にはまたニアと一緒だ。

ラルフはとても機嫌が良かった。



機嫌は一瞬で急降下した。

一目ニアを見るつもりで事務室に顔を出したのがいけなかった。

ニアはいなかった。

代わりにいつものようにノエルが飛んでくる。

ただその様子はいつもとは少し違う。

「ニアならいませんよ、ラルフ様。」

その言葉を無視し、戻ろうとしたときに、さらにノエルは続けた。

「ねえ、ラルフ様、ぼくんですよ。」

「…何を。」

「ここで話してもいいんですか?皆んなに聞こえてしまいますよ。」

「…………。」

「ニアのこと。」

「…………。」

「今日こそお昼をご一緒しませんか?話し足りないかもしれないので、よければ夜も。」

ノエルは鮮やかな笑顔で微笑んだ。

と言われ、ラルフはいつものように適当にノエルをかわすことができなかった。

「お昼に食堂でお待ちしてますね。夜のお店はぼくが予約しておきますから。」

ニアは見当たらない。

もうすぐ昼だ。

ノエルが何を知っているのか聞き出す必要があるため、ラルフは仕方なく食堂に向かうことにした。

そうだろうとは思っていたが、ノエルは昼には何も話して来なかった。

ラルフと一緒にいるところを皆に見せるのがノエルの魂胆だろう。

ラルフがニアを囲い込もうとしているように、
ノエルもラルフを囲い込もうとしていることが、手に取るようによくわかる。

ノエルは見栄えがいい。華やかな美しさがあることは間違いないが、ラルフはすでに何人もの見栄えがいいものを相手してきた。

特段ノエルに向かう感情は何もない。

ノエルがラルフに向ける感情は理解している。

若い頃なら一度くらいノエルと一夜を過ごしたかもしれないが、いかんせんノエルのようなプライドの高いタイプは厄介だ。

夜はきっと誘ってくるのだろうな。

目の前のノエルは少食だ。

綺麗な所作で食べている。

頬いっぱいに、頬張るようなことはしない。

ニアは今ごろきっと裏庭で一人、ラルフがいなくても沢山食べているだろう。

誰にも見つからないで欲しい。

ラルフは、大きく溜め息を吐いた。





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