ニアの頬袋

なこ

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ニアside

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ああ、もうお昼だ。

目覚めたニアはどんよりとした気持ちで、起き上がる。

吐き気やら何やらは、だいぶ収まった。

置かれた桶を見て、とりあえず片付けてしまおうと立ち上がる。

団長室の方からは何やら言い争うような声が聞こえてくる。

「ねえ!聞いているんですか!」

そっと扉に耳をあてて、団長室の様子を窺おうとしたとき、思いの外大きな声が響いた。

ノエル?

これは見つかったら大変な事になりそうだ。

嫌な予感がして、ニアは息を潜めた。

「ラルフ様!」

「今は仕事中だ。出て行け。」

「もうお昼じゃないですか!」

「ここは団長室だ。用のない者の相手はしない。」

「そんな、あんなのどこがいいんですかっ!」

ちんちくりん?

「ニアなんて、所詮田舎もので、小さいだけで、何の取り柄もないじゃないですか!」

ニア?

「お前には関係ない。いいから早く出て行け。」

団長の冷たく有無を言わさない言葉にノエルが部屋を出て行く音が聞こえる。

ちんちくりん?ニア?

「…ニア、体調はどうだ?」

急に扉が開いて、ニアはびくっとする。

「あ、すいません。なんだか盗み聞きみたいなことをしてしまったようで…」

「ノエルが大声を出すからしょうがない。で、聞いていたんだな?」

「え、あの、はい。その、すいません。」

「それなら仕方ない。ノエルの言う通りだ。」

「ぼくが、ちんちくりん…?」

「そこじゃない。」

「…?」

「まだ、くまが残っている。」

団長がニアのくまに指を這わせる。

「なっ…」

「わたしとノエルのことを気にして眠れなかったのかと喜んだのだが、まさか食当たりとはな…。」

「………。」

団長の指はニアのくまから頬へと移り、手の甲で撫であげる。

「ニアらしいと言えば、それまでだが。」

「あ、の。なんの、ことか…。それと、この手……」

団長に撫で上げられ、ニアはぞくりとする。

それはニアにとって初めての感覚で、その感覚から逃れるように思わず後退りする。

「もう少し時間をかけようと思っていたが、これもいいきっかけだ。

ニア、わたしと付き合おう。」

「……へっ?」

「嫌か?」

「つきあう、つきあうとは?…ツキアウ?」

ツキアウ?

ニアの思考は追いつかない。

「わたしが、嫌いか?」

俯く団長の顔は、どこか苦し気だ。

「いえ、そんな嫌いな訳…」

「そうか!では、付き合ってくれるのだな。ありがとう、ニア。」

「いや、そんな…」

苦しげな表情から、満面の笑みになった団長がニアを抱きしめる。

「ぐえ。」

あまりの強さに、変な声が出てしまう。

「今からニアは、わたしの恋人だ。」

「コイビト?」

「わたしの愛しい、恋人だ。」

「コイビト……」

ぎゅうぎゅうと大柄な団長に抱きしめられ、小さなニアは窒息しそうだ。

「だ、だんちよ、く、くるし…」

「ああ、すまない。やっと、ニアの全てを手に入れられると思うと。」

この人は一体何を言っているんだ?

「今日と明日は休みをとらせた。ニアは有給が溜まっていたようだから、エリックも構わないそうだ。」

「はあ。」

「わたしも午後と、明日は休みをとった。さあ、行こう。」

「行くって、どこへ?」

「どこって、わたしの家だ。」

「???」

ニアの思考は固まった。

団長が何を言っているのか、もはや全く理解できない。

「なぜ…?」

「なぜだって?恋人だからだろう。」

「コイビトとは、そう言うものですか?」

「そうだ。」

「あの、とりあえず、先に桶を片付けてしまいたくて…」

団長がさっと桶を片付けると、ニアはそのまま引きづられる様に連れ去られた。

ツキアウ、コイビト、ツキアウ、コイビト…

やっぱり団長の言う事はよくわからない。

ニアにわかるのは、ニアがちんちくりんと言われたことだけだった。

















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