秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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最終章

99

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まるっきり二人だけだと思うと、幾分緊張して、抱きしめられた身体が強張る。

「…二人きりでは心配ですか?」

俺の様子に気が付いたのか、そっと身体を離すと、ユリウスは隣から覗き込むようにして尋ねてくる。

「…違う、違うんだ。…その、そう言えば、誰かに付けられているんじゃなかったのか?またユリウスに何かあったら…」

「ああ、それでしたら…、ノア様に危害が及ぶようなことは決してございません。」

やはり誰かに付けられていたんだろう。いくらユリウスでも、今ここで大勢に襲われるようなことがあれば、ただでは済まされない。

「そのような顔をしなくても、大丈夫です。さあ、召し上がって下さい。」

「でも…」

ユリウスの長い指が、見慣れない果実の皮を剥くと、鮮やかな黄色い果肉を口元に差し出される。

「召し上がって下さい。…勿論この家の中にはいませんが、周囲から見張られているのは確かです。」

「やっぱり…。どうしたら…」

「王家の影の者たちです。黒紫鋼のこともありますし、王がノア様のことを廃嫡し、このまま放っておくとは思えません。」

「え?」

「ノア様に危害が加えられることのないよう、この先もずっと見張られるはずです。見えない護衛が付いていると思えば良いのです。…気になりますか?」

…そう言うことか。だからユリウスは平然としていられたんだな。

もう一度差し出された果肉を口にすると、少し酸味があるその味に、むくむくと食欲が湧いてくる。

目前に広がる海を眺めながら、俺たちは静かに二人だけの夕飯を愉しんだ。




昨晩と違って、今日は目が冴えている。

小さな家なのに、寝室は二つ用意してあり、それぞれの部屋からは海が望めた。

当然のように隣の寝室に向かおうとするユリウスに首を傾げる。

「共寝しないのか?」

俺たちは婚姻したのだから、そうするのが普通じゃないんだろうか。

「…いえ、わたしは隣に。」

困惑した様子で部屋を出ようとするユリウスを引き留め、隣で寝るように寝台をぽんぽんと叩いて促す。

「…婚姻したんだろう。俺のこと、伴侶だって、そう言っていたじゃないか。まさか、形だけとか、そういうことなのか?」

「そのように思われていたのですか?」

そう言って隣に座ると、先に寝転んでいた俺の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。

「だって、ユリウスは俺のこと慕っている訳じゃないだろう?ユリウスが慕っているのはノアールだけだから。」

ユリウスの手がぴたりと止まる。

「ずっとそのように?」

ぐしゃぐしゃにされた髪のまま頷く。

「それでもいいんだ。ノアールの代わりでも。ユリウスとずっと一緒にいられるなら。」

これは卑屈な想いから来た言葉じゃない。本当にそう思っている。

「…お慕いしてます。ノア様のことを。それでなければ、ここまですることはありませんでした。」

「無理しなくてもいいんだ。ノアールとユリウスが想い合っていたことは知ってるし、それでも俺は…」

「ノア様、本当に心からお慕いしてます。嘘偽りはございません。」

「でも…」

寝転ぶ隣にするりと身を入れると、ユリウスはそっと抱きしめてくれた。

「先程は萎縮されていたようですが、こうされて嫌ではありませんか?」

さっきは二人きりに緊張していただけだ。

ユリウスの懐かしい匂いに包まれ、今はむしろ身体が弛緩していく。

「…全然、嫌じゃない。」

「そうですか。無理矢理に婚姻を結んでしまわせたかと…。少し急ぎ過ぎたのではないかと、案じておりました。」

「そんなこと…」

「あの日、ノア様にお助けいただき、目が覚めたとき、この先心の赴くままに生きてみても良いのではないかと、そう思ったのです。」

耳元で低く響く、想い人の声に耳を傾ける。

「ノアール様のことは確かにお慕いしておりました。忘れることはできません。ですが、いつの間にか目の前にいるノア様のことを愛おしいと感じるようになっていたことも事実です。」

ゆっくりと、言葉を選びながらユリウスは話を続ける。

「ノア様によってまた生を与えられた時、これからは生きていて感じるこの想いに忠実に生きてみたいと、そう思ったのです。」

それから、会えずにいた三年の間に何をしていたのか、ユリウスは全てを話して聴かせてくれた。

俺を迎え入れるために、三年という月日をかけて、全てを整えてくれたのだ。

「…お迎えにあがったとき、ノア様の心が変わってしまっているかもしれないと、正直なところ不安でした。」

「変わる訳がないだろ。ずっと、ずっと待っていた。待ちくたびれたぐらいだ。」

「…本当に、お慕いしております。」

「俺も、ユリウスのこと…」

軽く口付けを落とされ、ユリウスの温もりに包まれながら、その日は二人静かに抱き合って眠りについた。

遠くから聴こえる波音は途絶えることがなく、いつしか二人の寝息と重なり合って、静かに響いていた。




















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