秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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ノアとノアール

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「そして、建国に大きく貢献した騎士の名は、ユリウスだ。そうだよね、ユリウス。」

貢献した?

あの頃はただ、ノアール様をお守りするために剣を振るっていただけだ。

「これはただの偶然なのかな?君はどう思う?」

ニイナ様は黒い瞳を興味深げに潤ませて覗き込んでくる。

「さあ、どうでしょう…。」

「騎士家系の子には、剣豪として名を馳せたユリウスにあやかって、ユリウスと名付けられる子が多いと聞いたよ。君の親もそうだったのかな。」

あの頃からずっと、何度生まれ変わってもユリウスという名は変わらない。

ユリウスとは、ノアール様が付けてくださった名前だ。

「あらあ、それじゃあ二人は古からの縁で結ばれているのかしら。」

「ユリウスは伝説の剣豪だったのか。」

「ノアちゃんはもしかしたら王様だったのかしらねえ。」

「ユリウスはそのユリウスの子孫あるか?」

「そんなことより、ノアの様子が気になるわ。」

「ノアの様子とユリウスは何か関係があるのかしら…」

「ニイナ、勿体ぶらずに考えていることを話しなさい。」

のんびりとした妃と、真剣に考え込む妃とで反応が別れる。

「ずっと不思議だったんです。どうして私が此処に来たのか。あてがわれたように十人の妃がいて、十人の部屋があるのか。なぜ、ノアは…」

「…ああ、駄目じゃ。もう気がつかれてしまった。」

ナターシャ様がそう言うと、重い扉が開かれ不自然な笑みを浮かべた陛下がどかどかと部屋に入り込んできた。

「なあ皆んな、これは一体どういうことだい?」

ぐるりと部屋を見回すと、その視線はわたしの元でぴたりと止まる。

「ユリウス、どうしてお前がここにいるんだ。ノアとはもう会わないと、そう言ってきたのはお前だろう。」

不自然な笑みを浮かべたままの陛下からは、相当な怒りが感じられる。

別れの挨拶を最後に、ノア様にはもうお会いするつもりはなかった。

今日のことは想定外の出来事だ。

「…申し訳ございません。すぐに、退出いたします。」

「当然だ。今すぐ此処を去れ。」

立ち去ろうとするわたしと陛下の間に、妃らが立ち塞がる。

「お前たち、どう言うことだ?勝手にノアを此処へと連れ戻し、挙げ句の果てにユリウスまで呼び寄せるなど。
…ルドルフ、お前がついていながらこの有り様はなんだ?まさか、お前に裏切られるとはな。」

「あのままあそこにいても、体調が悪くなる一方じゃ。原因も分からないのなら、此処で安静にしている方がノアの為だと、何度も申したではないか!」

ナターシャ様が声を荒らげる姿は珍しい。それ程何度も陛下へ進言されていたのだろう。

「ルドルフへは妾が命じたのじゃ!ノアを此処へ連れてくるようにと。」

「ノア様は今やっと落ち着いてお眠りになった所だ。わたしとて迷ったさ。だが、この数日の間眠ることもままならない状況だったのに、今はやっと落ち着いてお眠りになられた。ナターシャ様の言う通り、此処へ連れ戻して良かったと思っている。」

「黙れ!」

陛下の一言で部屋の中はしんと静まり返る。

「ノアはやっと婚約を承諾したんだ。それをここへ連れ戻したせいで、また気持ちが変わるかもしれない。お前たちは何をしたのか、分かっているのか。」

「なぜそのように急ぐのじゃ!そのように急ぐ理由があるのか!」

「理由…。お前たちには、ノアの身体のことを話した筈だが?」

カタンと小さな物音に全員が振り向く。

「ノア!」

陛下が声をあげると、ノア様はお腹を抱えたまま、よろよろとわたしの元まで歩み寄った。

「ユリウス、ここに、いたのか…」

せっかく落ち着いて眠りについた所で、この騒ぎに目を覚ましてしまわれたのだろう。

足取りもおぼつかなく、苦しそうに寄りかかるノア様を突き放すことはできない。

陛下の前ではあるが、そっと支えるようにすると小さく笑みを浮かべてもたれかかってくる。

「父上が此処にいらしたと言うことは、お認めになってくれたと、そう思っていいのですよね。」

ノア様はまだノアール様のままなのだろうか。

いつものノア様の口調ではない。

陛下もその様子に訝しげに眉を顰めている。

「ユリウスは戻ってきました。父上はもう戻らないと仰っていましたが、ここでこうして支えてくれています。」

「ノア?一体何を…」

「ずっと世継ぎを作れと、そう仰っていたではありませんか。ですから教会に通って願い続けたのです。望み通り世継ぎができたと言うのに、何故反対なさるのですか?」

「………ノア、そなた自分が何を言っているのか、分かっているのか?」

「自分のことは自分が一番よく分かっています。理解しようとしなかったのは、父上ではありませんか。」

ノア様の細腕にぎゅっと力が込められる。わたしの知るノア様の力ではない。



「ここに宿しているのは、ユリウスとわたしの子です。いい加減お認め下さい。」



驚いただろう?

そう言って見上げてくる薄紫色の瞳は、ただ無邪気に透明で潤んでいた。






















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