秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

文字の大きさ
上 下
50 / 87
シュヴァイゼルの思惑

48

しおりを挟む
いつもとは異なるニイナの神妙な面持ちに、ナターシャは怪訝そうにそれを受け取った。

「これは、大分古いもののようだが…」

読んでみろと促すと、ナターシャのか細い指がそっと頁をめくり始める。怪訝そうにしていた表情は、頁を読み進める度に次第と青ざめていった。

「…何と言うことじゃ。このようなことが…。」

その様子をこれまた怪訝そうに見ていた他の妃たちは、眉を顰めて黙り込んでいる。勿論ルドルフもだ。

「ノアはね、ずっと隠し通してきたが、稀に現れる王子でありながら子を産める王族だ。」

「…なんとなくだがな、そうかもしれんと思っておった。」

食い入るように読み進めていた綴り本から視線を上げると、ナターシャは呟いた。

「ああ、そうよねえ。やっぱりねえ。」

「ノアの髪を整えていたのはいつも私だわ。私だってそれぐらい感じていたもん。」

「ほう、やはりそうか。」

「ワタシモ、シッテタヨ。」

「気がつかなかったある。皆んなすごいある。でも、なんか納得あるよ。」

「皆様も気がつかれていたのですね。」

「暗黙の了解ってとこかしら。」

「あらあら、まあまあ、ノアちゃんったらお母さんになれるのねえ。」

最後にそう言ってうふふふと笑う九妃の様子に、肩の力が抜けそうだ。

ナターシャはなんとなく気がついているだろうと考えてはいたが、他の妃らの反応は想定外だ。

ナターシャが後宮入りを認めた妃らは、見た目とは裏腹に皆肝が据わっている者たちばかりだ。

「喜ばしいことばかりではない。ナターシャ、皆にもそれを見せてやれ。」

順番に綴り本に目を通していく妃たちは、ナターシャ同様次々と顔が青ざめていった。

最後にルドルフが受け取り目を通すと、元々凶悪な顔を歪め、その顔はさらに凶悪なものになってしまった。

「ノアは子を宿せるばかりでなく、あの見た目だ。マホという者が現れ、周りがどれだけ騒がしいものになったか、其方達も感じているだろう。黒髪というだけで、あれ程の騒ぎようだ。」

ルドルフから私の元へと綴り本が返される。

ノアが生まれてからこの綴り本のことを思い出し、何度も読み返してきた。胸糞が悪くなる内容だが、目を背けることはできない。

ぱらぱらと頁を捲る。

にしないために、わたしはノアを秘匿することにしたのだ。

「なぜノアをあそこまで徹底し秘匿し続けてきたのか、其方達ももう理解できただろう?」

そう、理解した筈だ。

数少ないノアのような王族のうち、過去に二人の者が成年を前に亡くなっている。

表向きは不治の病によるものだ。

だがこの綴り本には、王族直系の者たちだけに語り継がれてきた忌まわしい過去が記されている。

二人の死因は、どちらも自死だ。

彼らは懸想を超え尋常ではない執着を抱く者達に拐かされ、そして無理矢理に身体を暴かれた。

発見されたときの描写は何度読んでも胸糞が悪くなる。

妃らには堪える内容だろう。

だがその先がもっと悲惨だ。

二人はまるで呪いにでもかけられたかのように、憎むべきその相手の身体を求めるようになってしまった。

心では拒否しているのに、身体が求める。その者らを処罰しようにも、当の本人がいざその場になるとそれを拒否してしまうため、処罰することさえすぐには叶わなかったと言う。

心と身体の行き違いは次第に彼らの精神を蝕み、そして最後は自ら命を絶ってしまった。

一人目の事件から警戒は強められていた筈であるのに、どんなに警備を強化してもふとした瞬間に魔の時は訪れるものだ。

幸いニイナ自身が望み、ニイナはひっそりと九妃の座におさまった。第一王子であればこうはいかなかっただろうが、ノアは第十王子だ。誰の関心をひくこともないままノアは生まれた。

わたしはこの子が成人するまで、この子を隠し通すことを決めた。

三人目にしないためにも誰が見ても素晴らしい伴侶を探し、そして穏やかに生涯を過ごさせてやりたい。

ノアを秘匿するにはうってつけの部屋があり、そのためには妃らの協力が不可欠だった。

ナターシャを中心に皆よく守ってくれた。正直、想像以上だ。

「皆んな、今までよくやってくれた。感謝してるよ。」

「あのように命じられれば、しょうがないであろう。其方は、命じる際に言っていたではないか。忘れたのか?」

「…何と言ったかな?」

「ノアのことが漏れれば、皆…」



「一様に処罰する。」



十人が声を揃えた。

ああ、そんなこと言ったかな。秘匿したノアのことが知れ渡れば、犯人探しなどせずに全員まとめて罰すると、確かそんな事を言ったかもしれない。

「まあ、誰も漏洩することなく、皆んな無事で良かったじゃないか。」

手を叩いて褒めてやっているのに、誰も嬉しそうじゃない。

ナターシャはまたフンとそっぽを向いてしまった。
















しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

はるはう
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。 8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。 序盤はBL要素薄め。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

処理中です...