秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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穏やかな時間 ユリウス

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目の前で幸せそうにサンドウィッチを頬張るノア様は、もうすぐ15歳になられる。

玉子サンドはノア様の好物だ。甘めがお好きらしい。

相変わらず小柄で華奢ではあるが、毎日鍛錬を欠かさずに行っているせいか、身体付きはしなやかだ。

「…食べないのか?ほら、ユリウスの分だぞ。」

差し出される玉子サンドを受け取ると、にっこりと微笑んで、また口いっぱいに頬張っている。

「またそのように…。一度に口に含みすぎです。ほら、付いていますよ。」

ナプキンで口元を拭うことは、もう日課のようなものだ。

「ふふ。こうして食べる方が美味いんだぞ。」

いたずらそうに笑う顔は、出会った頃のまま、あどけなく幼い。

「マナー的には…」

「大丈夫だって。分かってるから。母様たちにみっちりしこまれてるし。でもさ、マナーを気にするような場に行くこともないじゃないか。」

「…そうですが…。」

まだその時ではないのか、ノア様はいまだこの部屋に閉じ込められたまま、外に出ることを許されていない。

先日行われた剣術大会への参加は辞退した。わたしが辞退したと知ると、観たいとも行きたいとも言わず、今年は第一王子が優勝したと聞いても、ノア様は特に興味を示すことはなかった。

シュヴァリエ様は、マホと言うあの少年にアミュレットをお渡ししたらしい。

マホの出現によって混乱していた当初、ニイナ様がノア様の母君で且つ渡り人だと知らされる直前に、陛下の一言でわたしはマホとそれを囲む王子たちから解放された。

ずっと静観していた王が、『ある程度の自由は許すが、看過できない自由は許さない。それが嫌なら王宮から出ていけ』とマホに言い放ったのだ。

加えて、任務があるわたしを王の許可を得ずに呼び出す彼らに釘を刺した。

誰も逆らうことなどできず、あの日からまたノア様と二人だけの静かな日常に戻ることができた。

今日は雨だ。お腹が満たされ、窓辺でぼんやりと外を眺めているノア様は、どこか虚だ。

長めの上衣だけで、生足をぶらぶらさせながら頬杖をつく。黒髪は肩より少しだけ長く、艶やかに時折さらさらと頬を撫でる。まるで一枚の絵画を目にしているような錯覚に陥る。

ゆっくりと長い年月をかけ、蛹が美しい蝶へと変化している。見守ることができるわたしは、きっと今貴重な時間を過ごしている。

美しく羽ばたく蝶は、芳しい鱗粉を撒き散らしながら、この先数多の者たちを魅了することだろう。

あと数年で、その時がやってくる。その時が来れば、ノア様もわたしも、もうここにはいない。蛹を守るのがわたしの役目で、羽ばたく蝶を守る役目はわたしではない。



「…なあ、兄さんは婚約破棄したのか?」



ぼんやりしていたのかと思えば、またそのように突飛しもないことを考えていたのだろうか。

「いいえ、違います。解消です。破棄ではございません。」

「そうなのか?学園の卒業式で、破棄だーーー!って言ったんじゃないのか?」

「そもそも、シュヴァリエ様はとっくに学園を卒業なさっています。」

「なあんだ。違うのか。でもな、どっちにしろ、ひどい話しだろ。…マホのせいじゃないか。相手の子は、その、大丈夫なのか?」

一体何の心配をしているのだろう。

「ええ、お相手の方はすんなりと受け入れたようです。今は第四王子の婚約者になりました。」

「え!!!いいのか?無理矢理とかじゃないのか?」

「それが、元々あまりうまくいっていなかったようで、第四王子とはしっくりきているようです。ナターシャ様もほっとされている様子でした。」

「ふうん。やっぱり物語みたいな展開にはなかなかならないんだな。まあ、母さんが書いた物語だったんだよな、そもそも。」

ノア様に勧められるまま読んだ本は、わたしには疑問だらけで、正直よく理解できなかった。妃方や市井では人気らしい。

「で、マホはその後、どうしてるんだ?兄さんはマホとどうなりたいんだ?」

ノア様の素朴な疑問は、王宮内の誰しもが感じている的を射た疑問だった。













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