秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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母さんと母様

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「…ニイナ様が、その、渡り人であると…」

おお、そうだった!流石ルドルフだ。

「ああ、その話しをしてたんだね。で、どこまで話をしたんだったかな?」

「きらきらがなくなるって!後、俺がトクイな体質とか!あ、これは秘密だったのかな?まあ、いいか。ユリウス、俺はトクイな体質らしいぞ!」

「特異、ですか?それは初めてお聞きしましたが…。」

ごほんと、ルドルフが一つ咳払いをした。
やっぱり、秘密の話しだったんだろう。

「ノア、そのことについては、いずれ陛下が話してくれる。その時まで待ちなさい。もうすぐだと言われているだろう。それよりも、わたしがここに来た時の話しをしよう。」

話しが戻ると、ルドルフはまた真剣な表情に戻り、母さんに疑問を投げかけた。

「渡り人が現れた場合、必ず王宮に報告せねばなりません。滅多にないことなので、そういったことが起これば、世間は騒がしくなります。現に今、あの者が現れたため、王宮は混乱しております。ニイナ様はいつ、どのようにして、ここへ…。」

ユリウスはいつもの真顔で微動だにせず二人の話しを聞いている。俺がしがみついたままでいることは諦めたようだ。

「わたしはね、湯浴み中の陛下の上に落ちて来たんだ。」

そのときのことを思い出したのか、母さんはくつくつと笑い出した。

ルドルフは驚きの声をあげたけど、ユリウスはやっぱり一度瞬きをしただけだった。

「渡り人だとばれると自由に動き回ることが難しそうだし、こうしていると誰もわたしのことなんか気にも止めないから、楽でいいんだ。」

ほら、と言って、さっき外したかつらを被って、眼鏡をかけると、いつもの母さんが現れた。

「あの時の…」

小さくユリウスが呟く。あの時?

「剣術大会の後で疲れていただろうに、あの日はノアをありがとう。」

ユリウスが看病をしてくれたあの晩、朝に目覚めると母さんがいた。その時に会っていたのか。

「いえ、まさか妃様とは知らず…」

「いいんだよ。その方が気楽なんだ。皆んな宮廷医師の付き人ぐらいに思ってるだろうし。ルドルフもそうだろう?」

「まさか、あなた様がノア様の母君で第十妃だとは思いもよりませんでした。」

ルドルフだけでなく俺だって、この姿が本物だって騙されていた。すごいな、母さんは。渡り人か。聞きたい話しが山ほど溢れてくるじゃないか。

黙り込んでしまったルドルフとユリウスを気にする風もなく、母さんはぬるくなった紅茶をまたがぶかぶと飲み干した。

「ああもうこんな時間か。そろそろナターシャ様の元へ行ってみるよ。ノア、聞きたいことがもっと沢山あるだろうけど、また今度ね。」

母さんは結局いつもの姿に戻って、部屋を出ようと扉に向かった。

ユリウスがすくっと立ち上がったので、思わず腕をほどいてしまう。

あの重い扉を開いてあげるようだ。

「ありがとう、ユリウス。ノアを宜しく頼む。」

「お任せ下さい。」

扉を開いて見送りをしようとするユリウスの前で、母さんはふと足をとめた。なぜか、じっとユリウスのことを眺めている。

「…ニイナ様、何か?」

「いや、君は他国の出身なのかい?」

「いえ、わたしは生まれも育ちもこの国です。」

「…君からは、なぜか不思議な匂いがする。」

「…匂い、ですか?」

「ああ、不思議な…。また今度ゆっくり話そう。ノア、ルドルフも、またな。」

ルドルフも立ち上がって母さんを見送っていた。

俺がひらひらと母さんに手を振る横で、ルドルフが眉間に皺を寄せて二人の会話を聞いていたなんて、全く気がついていなかった。









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