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母さんと母様

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「なあ、今さらだけど、ユリウスには婚約者とかいないのか?」

毎日のようにユリウスと顔を合わせているのに、そういった話しをしたことはなかった。

ルドルフだって、結婚してもうすぐ子どもが生まれるって聞いている。俺の兄に当たる王子達にも、すでに婚約者がいるらしい。

ルドルフよりは年下だけど、第一王子よりユリウスは年上だ。ユリウスにもそういう相手がいたっておかしくはない。

いや、もしかしてもう結婚してるとか?

ちくり。

…ん?

初めて感じる胸の痛みに、思わず顔が歪む。

なんだ、これ?

「おりません。」

ルドルフが即答する。

「…ほんとか?ルドルフが知らないだけじゃ。」

「ユリウスはノア様にお渡ししたと聞いておりますが。」

「何を?」

「いつも首に下げていらっしゃるではありませんか。」

「…え?これ?」

ユリウスからもらったアミュレットを首元から取り出すと、母様たちが感嘆の声をあげた。

「すでにそんな関係だったあるか?」

「…いつの間に?」

「あらあら、まあ!」  

想像していなかった反応に、俺の方が驚いてしまう。

「なに?これって、何か意味があるのか?」

「たいてい恋人や、愛する人に贈られるの。知らなかった?」

眼鏡をくいっと持ち上げながら、八妃が冷静に教えてくれる。

「…………はああああ!?」

ユリウスって、俺のこと……

「そう言う意味でお渡ししたのではありません。今年の優勝はノア様のおかげだからと、ユリウスは申しておりました。ちなみに、昨年の分はわたしが受け取って保管しております。」

「あ、そう言えば確かに前回はルドルフが受け取っていたあるね。あのときは、あれで禁断の関係かと、邪推してしまったある。」

「ユリウスらしいわね。」

「ノアちゃん、顔が赤いわよ。」

さっきまでは、ちくちくと痛かった胸が、今はどきどきとしている。

顔が熱い。

「大丈夫よ。わたしは、ノアを応援するわ。マホなんかに、負けないでね。」

「ふえっ?」

八妃が真剣な眼差しで、肩に手を乗せてくる。

「やっぱり、ノアもあるか。」

「気がついていないだけなのね。」

「ふふふ。ほらねえ。わたしもノアちゃんを応援するわ~。」

みんな一体何を言ってるんだろう?

ルドルフだけが、複雑な表情のまま立ち尽くしている。

「マホにユリウスを奪われたくないでしょう?」

八妃は俺の肩に手を乗せたまま、まだ真剣な眼差しを崩さない。

「…う、うん。」

「ユリウスが、マホの護衛、いいえ、マホと結ばれてしまっても、いいの?」

「は?駄目に決まってるだろ!」

「それなら、ノアも頑張りなさい。聖女だなんて、あんなきらきらしてるのも、今だけよ。黒髪は綺麗だけど、ニイナやノアに比べれば、なんてことないわ。」

「頑張るって、何、を?それと、ニイナって、母さんは黒髪じゃないけど…。」

その場がしんとする。

四人の母さまたちが、目を見開いたまま、固まって動かない。

「…ニイナ様が、黒髪?」

ルドルフの小さな呟きが、耳に入る。

「なんでノアもルドルフも知らないあるか!?」

「ノアも知らなかったの?」

「ノアちゃんとルドルフぐらいは知ってて当然だと思っていたのに。」

「ニイナから聞いていないの?」

たまに会う母さんは、黒髪なんかじゃない。

濃いめの癖のある赤茶の髪を、左右に無造作に編み込んで垂らしている。

黒縁の度が強そうな眼鏡をかけていて、少し変わった人だ。

子どもの俺が言うのもなんだけど…。

「ノアには話したつもりでいたけど、話していなかったかな?ごめんね。」

この声!

あらたに、中庭に入ってきた人物をみんな
が振り返る。

「ただいま戻りました。ノア、元気にしてたかい?」

母さんだ!



















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