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剣術大会
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口ほどじゃないって、こういうことを言うんだな…。
金髪が派手な立ち回りをする度に、きゃあきゃあとした歓声が湧き起こったが、ユリウスは淡々と受け切って、勝負は一瞬の内に決まった。
跪いたのは、金髪だ。
黄色い歓声の代わりに、ほう、と甘い溜め息が会場を包む。
会場を見回すと、その溜め息を吐くのは妙齢のご婦人方が多いようだ。
「ユリウスは相変わらずご婦人方に人気だの。それに比べて、あやつは…」
「歳を重ねる程ユリウスのような者の良さにみんな気がつくのよねえ。」
なるほど。ユリウスは結構人気があるようだ。そうだよ。かっこいいしな。うん。
ユリウスから差し伸べられた手を振り払うと、金髪は悔しそうにその場を後にしてしまった。
残されたユリウスは、何人かのご婦人方から声を掛けられている。
控え席に戻る前に、一度観客席に顔を向けたユリウスとまた目が合ったような気がした。
いつも一緒にいるんだから、少しぐらい気がついてくれてもいいのに。
『ユリウス』
いつもならそう呼べば、すぐに応えてくれるのに。
『ユリウス』
もう一度、声に出さずに呼びかけてみても、背を向けたままユリウスが振り返ってくれることはない。
なんだよ。俺だって声を掛けてやりたいのに。
「ツギハ、ケッショウダネ。」
五妃に言われてはっとする。
とうとう決勝まできた。
相手は……俺の手に鼻血を垂らしたあの騎士だ。
あの騎士も、強かったんだな。
白熱した試合が始まった。
どちらも間合いをはかって、変に踏み込んだりしない。
今まで顔色一つ変えなかったユリウスも、ここに来て堪えるように顔を顰める場面が増えてきた。
「ユリウスは、ここのところ一線を退いているそうじゃないか。」
「何をしてるのか知らないが、やはり今回は無理だろう。」
聞こえてくる話し声は、さっきもユリウスに否定的な話しをしていた奴らと同じ声だ。
さっきのように睨んでやることができない。
ユリウスが今しているのは、俺の護衛兼世話役だ。練習する暇なんて、ほとんどなかったと思う。
ルドルフから頼まれたりしなければ、きっと今でも第一線で活躍していたんだろう。
カン、ガンッと剣のぶつかり合う音が次第に大きくなっていく。
じわじわとユリウスが追い詰められているように見える。
いつの間にか、俺は立ち上がっていた。
前にいる妃たちは試合に魅入っていて、俺の様子に気がついていない。
祈るように試合を見守っていると、ふわっと吹く風が少しだけベールを捲った。
うわ、やられる!
ユリウスに向かって、相手の渾身の一撃が振り翳された。
『ユリウス!』
顔を顰めていたユリウスが、一瞬だけ目を見開いた。
そこからは、何が起こったのかよくわからない。
しんとした静寂の後、倒れ込んでいたのは鼻血の騎士で、はあはあと乱れた呼吸を整えながら立っていたのは、ユリウスの方だった。
ふ、ふふふふ、ふは、ふふふふ
寝台に寝そべって、いつもと同じ天井を眺めながら今日の出来事を思い出す。
ユリウスが、優勝した!
ユリウスじゃ無理だって言っていた奴らも、最後は認めざるを得なかった。
しんとした静寂の後の、わあああと言う歓声がまだ耳に残っている。
凄かった!本当に凄かった!
閉会式が終わるまで呆然としてしまったが、今になってまた、じわじわと興奮が冷めやらない。
本当は逃げ出すチャンスだったのかもしれない。それでも今日は大人しくこの部屋に戻ってきた。
ここで待っていれば、明日にもユリウスが来てくれるから。
早くユリウスに会いたいなあ。
ユリウスにもらった飴玉を舐めながら、頭の中で今日の試合を思い出しては、ニマニマとする。
夜には来てくれるはずだったのに、今晩は勝者を讃える祝いの会があるらしい。
優勝したユリウスが欠席する訳にはいかないそうだ。
夕飯の支度をしに来てくれたのはルドルフで、少しがっかりしてしまった。
「いつの間にか、だいぶユリウスに懐かれたのですね。少々妬けますが、安心しました。」
ルドルフはそう言って部屋を出て言ったが、そう言われれば、いつの間にかユリウスがここに来るのを待ち焦がれるようになっていた。
ルドルフより歳が近くて、剣もからくりも一緒にやってくれるからかな?
また扉を開く音が聞こえる。
湯浴みの時間か?
いつもより少し早いけど、さっぱりして早く休みたいから、ちょうどいいかな。
まだ顔に化粧が残っているようで気持ち悪いし、興奮し過ぎたせいか、なんだか身体がだるいような気もする。
「…ノア様?」
ん?その声は、ルドルフじゃない?
「…ユリウス?」
寝台からおりて部屋に入ると、そこにいたのは正装したユリウスだ。
「ノア様、遅くなって申し訳ございません。」
「ユリウス?」
「ええ、どうかなさいましたか、ノア様?」
「ユリウス…」
「ノア様?」
日中、背中を向けたまま振り返ることのなかったユリウスが、名前を呼べば応えてくれる。
なんだか、ほっとする。
「おめでとう!勝ったんだな!ユリウス、本当に凄かったから、俺…」
ユリウスに近寄ろうとするが、脚がふらふらとして思うように動かない。
「ノア様!」
視界までぼんやりとしてきた。
駆け寄って来るユリウスの表情は、今まで見たことがない、慌てた感じの表情だ。
そんな顔もするんだな…
ふわふわと宙を歩いているような、そんな気分の俺をユリウスが抱き止めてくれる。
「ノア様、熱が…」
「ふふ、凄かったな。実はな、俺、観てたんだ。気が付かなかっただろ?」
「……気がついて、おりました。まさかとは、思いましたが…」
「嘘だろ。あんな格好してたのに…」
「お似合いでしたよ。」
「…はあ?どこが?……んなことより、おめでと。」
「ありがとうございます。」
本当に、かっこよかったぞと、言おうとして、身体から力が抜けた。
おめでとうって言えたから、まあいいか。
「ノア様!」
何度も俺の名を呼ぶユリウスの声が、だんだんと遠くなっていって、そこからぷつりと意識が途絶えた。
金髪が派手な立ち回りをする度に、きゃあきゃあとした歓声が湧き起こったが、ユリウスは淡々と受け切って、勝負は一瞬の内に決まった。
跪いたのは、金髪だ。
黄色い歓声の代わりに、ほう、と甘い溜め息が会場を包む。
会場を見回すと、その溜め息を吐くのは妙齢のご婦人方が多いようだ。
「ユリウスは相変わらずご婦人方に人気だの。それに比べて、あやつは…」
「歳を重ねる程ユリウスのような者の良さにみんな気がつくのよねえ。」
なるほど。ユリウスは結構人気があるようだ。そうだよ。かっこいいしな。うん。
ユリウスから差し伸べられた手を振り払うと、金髪は悔しそうにその場を後にしてしまった。
残されたユリウスは、何人かのご婦人方から声を掛けられている。
控え席に戻る前に、一度観客席に顔を向けたユリウスとまた目が合ったような気がした。
いつも一緒にいるんだから、少しぐらい気がついてくれてもいいのに。
『ユリウス』
いつもならそう呼べば、すぐに応えてくれるのに。
『ユリウス』
もう一度、声に出さずに呼びかけてみても、背を向けたままユリウスが振り返ってくれることはない。
なんだよ。俺だって声を掛けてやりたいのに。
「ツギハ、ケッショウダネ。」
五妃に言われてはっとする。
とうとう決勝まできた。
相手は……俺の手に鼻血を垂らしたあの騎士だ。
あの騎士も、強かったんだな。
白熱した試合が始まった。
どちらも間合いをはかって、変に踏み込んだりしない。
今まで顔色一つ変えなかったユリウスも、ここに来て堪えるように顔を顰める場面が増えてきた。
「ユリウスは、ここのところ一線を退いているそうじゃないか。」
「何をしてるのか知らないが、やはり今回は無理だろう。」
聞こえてくる話し声は、さっきもユリウスに否定的な話しをしていた奴らと同じ声だ。
さっきのように睨んでやることができない。
ユリウスが今しているのは、俺の護衛兼世話役だ。練習する暇なんて、ほとんどなかったと思う。
ルドルフから頼まれたりしなければ、きっと今でも第一線で活躍していたんだろう。
カン、ガンッと剣のぶつかり合う音が次第に大きくなっていく。
じわじわとユリウスが追い詰められているように見える。
いつの間にか、俺は立ち上がっていた。
前にいる妃たちは試合に魅入っていて、俺の様子に気がついていない。
祈るように試合を見守っていると、ふわっと吹く風が少しだけベールを捲った。
うわ、やられる!
ユリウスに向かって、相手の渾身の一撃が振り翳された。
『ユリウス!』
顔を顰めていたユリウスが、一瞬だけ目を見開いた。
そこからは、何が起こったのかよくわからない。
しんとした静寂の後、倒れ込んでいたのは鼻血の騎士で、はあはあと乱れた呼吸を整えながら立っていたのは、ユリウスの方だった。
ふ、ふふふふ、ふは、ふふふふ
寝台に寝そべって、いつもと同じ天井を眺めながら今日の出来事を思い出す。
ユリウスが、優勝した!
ユリウスじゃ無理だって言っていた奴らも、最後は認めざるを得なかった。
しんとした静寂の後の、わあああと言う歓声がまだ耳に残っている。
凄かった!本当に凄かった!
閉会式が終わるまで呆然としてしまったが、今になってまた、じわじわと興奮が冷めやらない。
本当は逃げ出すチャンスだったのかもしれない。それでも今日は大人しくこの部屋に戻ってきた。
ここで待っていれば、明日にもユリウスが来てくれるから。
早くユリウスに会いたいなあ。
ユリウスにもらった飴玉を舐めながら、頭の中で今日の試合を思い出しては、ニマニマとする。
夜には来てくれるはずだったのに、今晩は勝者を讃える祝いの会があるらしい。
優勝したユリウスが欠席する訳にはいかないそうだ。
夕飯の支度をしに来てくれたのはルドルフで、少しがっかりしてしまった。
「いつの間にか、だいぶユリウスに懐かれたのですね。少々妬けますが、安心しました。」
ルドルフはそう言って部屋を出て言ったが、そう言われれば、いつの間にかユリウスがここに来るのを待ち焦がれるようになっていた。
ルドルフより歳が近くて、剣もからくりも一緒にやってくれるからかな?
また扉を開く音が聞こえる。
湯浴みの時間か?
いつもより少し早いけど、さっぱりして早く休みたいから、ちょうどいいかな。
まだ顔に化粧が残っているようで気持ち悪いし、興奮し過ぎたせいか、なんだか身体がだるいような気もする。
「…ノア様?」
ん?その声は、ルドルフじゃない?
「…ユリウス?」
寝台からおりて部屋に入ると、そこにいたのは正装したユリウスだ。
「ノア様、遅くなって申し訳ございません。」
「ユリウス?」
「ええ、どうかなさいましたか、ノア様?」
「ユリウス…」
「ノア様?」
日中、背中を向けたまま振り返ることのなかったユリウスが、名前を呼べば応えてくれる。
なんだか、ほっとする。
「おめでとう!勝ったんだな!ユリウス、本当に凄かったから、俺…」
ユリウスに近寄ろうとするが、脚がふらふらとして思うように動かない。
「ノア様!」
視界までぼんやりとしてきた。
駆け寄って来るユリウスの表情は、今まで見たことがない、慌てた感じの表情だ。
そんな顔もするんだな…
ふわふわと宙を歩いているような、そんな気分の俺をユリウスが抱き止めてくれる。
「ノア様、熱が…」
「ふふ、凄かったな。実はな、俺、観てたんだ。気が付かなかっただろ?」
「……気がついて、おりました。まさかとは、思いましたが…」
「嘘だろ。あんな格好してたのに…」
「お似合いでしたよ。」
「…はあ?どこが?……んなことより、おめでと。」
「ありがとうございます。」
本当に、かっこよかったぞと、言おうとして、身体から力が抜けた。
おめでとうって言えたから、まあいいか。
「ノア様!」
何度も俺の名を呼ぶユリウスの声が、だんだんと遠くなっていって、そこからぷつりと意識が途絶えた。
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