秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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剣術大会

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ずっと、いつかここを出てやると思っていた。

それなのに、開かれた扉を前にして、脚がすくんで動かない。

「ノア様、お出にならないのですか?あんなにここを出たがっておられたのに。」

牢のように頑なに閉ざされていた扉が、目の前であっさりと開かれている。

「なんでだ?なんで、今日?本当に、出てもいいいのか…」

「ええ、扉が重いので、早く出て頂けると助かります。それとも、ずっとここにおられますか?案外意気地がないのですね。」

ルドルフは扉を押さえたまま意地悪そうに笑っている。

「あん?んな訳ないだろ。出るよ。一応確認しただけだろ。」

そう言いながらも、脚は震えている。

「扉が重くて、もう押さえていられません。」

押さえられていた扉が閉じられそうになったので慌てて脚を踏み出す。

それと同時に、扉はばたんと音を立てて閉じられた。

たった一枚の扉を隔てただけなのに、まるで異世界にでも来てしまったかのように、そわそわとして落ち着かない。

前を行くルドルフの後を付いて行きながらも、何処を歩いているのか、ずっとふわふわとしたまま現実味がなかった。

臙脂色の絨毯が敷き詰められ、仄暗い回廊を進んで行くと、その先にはずらりと扉が並んでいる。

「こちらで、皆様がお待ちです。」

一つの扉の前でルドルフが立ち止まった。

ルドルフが声を掛けると、中からは入れと声がするが、ルドルフはその先へ進もうとしない。

「入らないのか?」

「わたしは入ることができません。ノア様お一人で。」

「一人で…」

「不安ですか?」

「お前はいちいち煩いな。入ればいいんだろ。」

にっこりと頷くルドルフに苛立ちを感じながら中へ入ると、そこには九人の妃たちが勢揃いしていた。

「…は?何?」

「よう来たな、ノア。時間がないのじゃ。何も言わずに、わらわたちの言うようにしろ。そうすれば、ユリウスの勇姿を観られるからな。」

一妃が言葉を発すると同時に、他の八人が一斉に動き始める。

「え?何、ちょ、、ちょっと、うわあ!」

着ていた服を脱がせられ、ひらひらとした異国の服へと着替えさせられる。

「おい、これって!」

多分、本当に時間がないようだ。いつもなら、あれやこれや話しかけてくる母様軍団が口を噤んで、作業に徹している。

ひらひらとした服は、五妃がいつも纏っている衣装とよく似ている。薄い布地を身体に巻き付けられ、身動きがとりにくい。

これは、これは…

「何で女物の服なんだよ!」

そう、女物だ。

「うわ、おいっ!」

着付けが終わると素早く椅子に座らされ、顔には白い粉や、紅が施されていく。

「ノア、ニアウ。ジョウデキダナ。」

五妃はいまだに片言だ。

「こんな感じかしら?」

「どうせ顔は見えんあるよ。」

「せっかくだから、目元にも色を入れましょう。」

「髪はどうするんだ?」

「ヌノ、マキツケル。」

「これ?」

「ソレ。」

「やだあ、可愛いい。」

「なんか、少し悔しい…」

頭の中は?でいっぱいなのに、話し掛けるタイミングが見つからない。

顔を隠すベールをつけられ、先が尖った歩きにくい靴を履かされると、やっと母様軍団の手が止まった。

「よう似合っておるぞ。なんとかぎりぎりで間に合った。」

ずっと様子を見守っていた一妃が立ち上がり、ベールを確認している。

「なんだよ、これ!なんでこんな格好しなきゃなんないんだよ!」

「いいか、ノア。シュヴァイゼルからの命令だ。黙って言うことを聞け。そして、今からはシュヴァイゼルがいいと言うまで、一言も声を発してはならん。ただ黙って、わらわ達の後ろに控えておればいい。」

「なんで!」

「一言でも発したり、お前の姿がばれるようなことがあれば、ユリウスは護衛から外される。それだけでは済まないかもしれん。」

「は?なんでユリウスが?」

「いいから、もう時間がない。行くぞ。ユリウスを観たくはないのか?」

「それは、観たい。観たいけど…」

「ならば、黙って言う通りにしろ。わかったな。」

いつもとは違う一妃の気迫に押され、思わず頷くと部屋の空気が一変した。

「時間じゃ。行くぞ。皆よいな。」

妃達の表情がすっと変わる。

「ノア、シー、ヨ。」

五妃の後ろにつくように言われ、言われた通り後ろにつくと、五妃が人差し指を立ててそう言う。

褐色の肌をした五妃は、確か東方の国から嫁いできたはずだ。

いつも不思議な菓子をくれるし、不思議な話しをたくさんしてくれる。

今のこの状況も不思議すぎて、全く頭が追いつかない。

もう何が何だかさっぱりだ。

せっかくあの部屋から出られたのに、これから何があるのか不安の方が大きい。

「ユリウス、ミレルヨ。」

ユリウス…本当に観られるのか?

ゆっくりと歩き始めた妃達に従い脚を踏み出すと、口の中に残っていた飴の欠片が溶けてなくなった。










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