秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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新しい護衛

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ルドルフはたった一日で引き継ぎを終えてしまった。

明日からここに来るのは、ユリウス1人だ。

見慣れた天井を見ながら考えた。これは、チャンスかもしれない!

どうにかうまくユリウスを丸め込むことができれば、ちょっとぐらい外に連れ出してくれるんじゃないか?

初めはそうだな、贅沢は言わないから、街中をぶらぶら歩いてみるぐらいでいい。

何も欲しいなんて言わないぞ。

それぐらいなら、イケルのでは?

まずは閉じ込められた可哀想な王子を演じ、ユリウスの同情を誘う。

実際可哀想だろ、俺。

ちなみにルドルフには全く通じなかったが、ユリウスなら楽勝なんじゃ?

しかも、しかも、憧れの学園というところに潜り込んでみたり、友達を作って一緒に冒険の旅に出かけたり…

おお!それなら、海を見てみたい!

水がどこまでも広がっているなんて、本当にそんなことがあるのか?

ルドルフに会えなくなるのは、ちょっと淋しいが、この先の可能性を考えれば考えるほど興奮し、俺はなかなか寝つくことができなかった。




ノア様。ノア様。

抑揚のない低い声が何度も俺の名を呼んでいる。

うるさいなあ。今から海に行くんだ。

邪魔するなよ。

ノア様。ノア様。

「あああああ!うるさい!邪魔するな!」

目を開くと、すでにユリウスがいた。

「うお!」

思わず変な声が出る。

「申し訳ありません。お目覚めの時間です。」

「あ…もうそんな時間…」

「ええ、お食事をお持ちします。」

「ああ、そうか、俺…」

寝坊したのか。

ユリウスは頭のてっぺんからつま先まで、朝から一つの乱れもなく抜かりない。

きっちり、かっちりしている。

俺と言えば…。

寝台脇の鏡に映るのは、一房だけぴよんとはねた髪。口元には、かぴかぴになった涎跡。

寝不足で目は充血してるし、掛け布はお行儀良く寝ていたとは言えないぐらい乱れている。

もっと静々とユリウスを迎え入れるはずだったのに…。

ユリウスは寝台からずり落ちた掛け布を拾いあげ、剥き出しになった俺の生脚に掛け直すと無言で部屋を出て行った。

これは、初っ端から失敗したのでは?

可哀想な王子はどこへ行った?

…いや、まだ始まったばかりだ!

ここから挽回する!

いざ、冒険の旅!憧れの海!

慌てて起き上がると、用意されていた手桶でばしゃばしゃと顔を洗い、久しぶりにズボンを履き、ぴよんとした髪を手櫛でおさえ、万全の体制でユリウスを待つ。

ちゃんと椅子に座って、扉が開くのを待つ。

待つ。

…お腹すいた。今朝の朝食は何だろう?

一度に沢山は食べられないのに、食べてもすぐにお腹が空いてしまう。だから常に何か少しずつ口にしている。

寝ている間は食べられないから、朝は特にお腹が空いているんだ。

夜更かししてしまったせいか、今朝はいつもよりさらにひもじい。

がちゃりと音がしたので、扉の前まで行ってユリウスを待つ。

ぎいいと重い扉が開くと、片手に沢山の朝食を抱えたユリウスが入ってくる。

朝ごはん!

「…ノア様?」

「ユリウスぅ、もうお腹空いて、待ちくたびれたぞ…」

「申し訳ありません。今すぐ用意しますから。」

おぼつかない手つきでユリウスが朝ごはんを並べていくが、もう待ちきれない。

「ねえ、もう食べてもいい?」

「ええ、まだ慣れずお待たせして申し訳ありません。どうぞお召し上がりください。」

腹ペコだ。とりあえず一つパンを手に取り口にする。

ああ、満たされる…

ユリウスの性格なのか、整然ときっちりとテーブルセッティングが施された。ルドルフの大雑把とは違うな。

「ほら、ユリウスも食べるぞ。朝は腹が減るからな。」

セッティングが終わると、立ったままその場に控えようとするユリウスを座るように促す。

「わたしも、ですか…?」

「ん?ルドルフはいつも一緒に食べてたぞ。聞いていないのか?」

「いえ、お聞きしていましたが、冗談かと。」

お、このスクランブルエッグ、美味いな。やっぱり、少し甘めだよな。

「なんで冗談なんだ?いいから、ほら。二人分セッティングしたのもお前だろ?」

「…ですが。」

「この卵美味いぞ!やっぱり俺は甘めがいいな。」

まだ座ろうとしないユリウスに少し苛立ち、座れと命令する。

座ったと思ったのに、何も手につけない。

もう、早く食べろよ。

お前が食べないと俺も落ち着かないだろ。

またひとつパンを手に取り、大好きな苺ジャムをたくさん塗ってユリウスに差し出す。

「ほら、このジャム美味いんだ。ルドルフはジャムをつけると嫌がっていたけど、お前もつけない方が良かったか?」

「…いいえ。いただきます。」

やっとユリウスが口をつけてくれた。

ふう、朝からこれじゃ、先が思いやられるな。

そういえば、なんか大切なことを忘れているような気がするけど…なんだっけ?







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