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秘匿された王子
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わたしを見つめる瞳は淡い薄紫色、そして初めて目にする漆黒の黒髪、それは見る者全てを虜にしてしまうような美しさだった。
十になったと聞いていたその身体つきは華奢で、同年齢の他の子と比べればだいぶ小柄かもしれない。
だが醸し出す雰囲気は十の子どもの持つ雰囲気なんかではない。
この姿で、しかも子を成せるなど世に知られたら…
ノア様がふいっと顔を背け軽く身を捩ると、真っ白な御足からは張り付いていた数個の部品がぽとぽとと床に落ちて転がった。
わたしの食い入るような視線が恐ろしかったのかもしれない。
ようやくわたしも我に返った。
そして、理解した。
シュヴァイゼルがここまでしてノア様を秘匿する理由を。
あの美しさは人を惑わす。さらにシュヴァイゼルの怪しく光る薄紫色の瞳を受け継いだ王子は他にいない。
希少な黒髪。
この国唯一の子を成せる男子。
子を成せる相手は一人のみ。
しかも、第十とは言えこの国の王子だ。
この存在が知られれば、大変な騒ぎどころではない。
この国のみならず、周辺諸国まで巻き込んでのノア様争奪戦が起こるだろう。
手段を選ばずに拐かされる恐れだってある。
シュヴァイゼルがわたしに護衛を命じたのは、わたしが決してノア様に惑わされることがないと知った上でのこと。
わたしたち一族もある意味特殊な存在だ。
一度結婚してしまえば、生涯ほかの者に目移りすることはない。
わたし以外いない。
シュヴァイゼルが言ったことは本当だったのだ。
「ノア、これからはこのルドルフが護衛についてくれるよ。いいね。」
護衛の件は既に決定事項だ。
抱きかかえたノア様に何度も頬擦りしながら、シュヴァイゼルが告げる。
この溺愛ぶりは凄まじい。
他の王子を抱き上げ、しかも何度も頬擦りする姿など見たことがない。
「ふうん。鬼の護衛か…悪くないな。母さんに教えてあげないと…」
ノア様は繰り返される頬擦りを鬱陶しそうに手で払いながら何か呟いている。
「ノア様、これから護衛を務めるルドルフと申します。」
「うん。よろしく。護衛がついたから、外に出られるんだよね?」
期待に満ちた目をしているが、それはまだきっと先の話しだ。
まだ公にすることはできないだろう。
「駄目だよ、ノア。そんなにここが嫌なら、父さんの部屋に移動するかい?」
父さん?
シュヴァイゼルが自分のことを、父さん?
「え、やだ。それならまだここにいた方がいい。」
第一王子ですら、ここまで砕けた話し方はしない。できないだろう。許されているのは、きっとノア様だけだ。
あのシュヴァイゼルがしゅんとしている。
「母さんが言ってた。どんなに父さんに言われても、絶対部屋までついて行くなって。」
まだお会いしたことはないが、第九側妃はしっかりとしたお方のようだ。
項垂れたシュヴァイゼルの腕から飛び降りると、ノア様はわたしに右手を差し出した。
「ノアだよ。よろしくな。」
見た目とは裏腹で、実際は純粋な幼い少年そのもの。
だからこそ。
「いついかなる時も必ずお守りします。」
小さな右手をとり、額をあてて誓う。
ノア様は、大袈裟だなと少し恥ずかしそうにしていたが、この方に害なす全ての物から本気でお守りしようと、あの日わたしは心に誓った。
ノア様が、たった一人のお相手を見つけられるその時まで。
あれから、三年。
騎士団を取り纏める総司令官が急逝された。まさかの事態に、急遽後継を指名されたのはわたしだ。
ノア様はいまだ後宮奥に秘匿されたまま。
美しさは増すばかりなのに、心は真っさらな少年のまま。この二面性がより一層あの方の魅力を引き立てている。
総司令官を務めながらノア様にお仕えすることは無理だ。
シュヴァイゼルとノア様が納得できる相手、いやわたしが安心して引継ぎできる護衛を探さなければならない。
あの魅力に惑わされず、何をしでかすかわからないあの方を冷静に見守れる騎士…。
口も身持ちも堅い騎士をシュヴァイゼルの了承の元、ノア様に引き合わせるが上手くいかない。
よりにもよって、生脚で出迎えるなど、わたしは頭を抱えた。
まだ十三の子どもに、みな一瞬で虜にされていく。
妻と子がいる騎士でさえ。
残る騎士は1人のみ。
できればユリウスはわたしの右腕として残しておきたかった。
一目見ただけでは、きっと凡庸そうな男にしか見えないだろう。
だが、違う。
冷静沈着な騎士の中の騎士。
数多いる騎士達ですら一目置く恐ろしい男だ。
万が一、ユリウスでさえ駄目ならば、もうシュヴァイゼルの元で囲われるしかないかもしれない。
それだけは、どうしても避けたかった。
十になったと聞いていたその身体つきは華奢で、同年齢の他の子と比べればだいぶ小柄かもしれない。
だが醸し出す雰囲気は十の子どもの持つ雰囲気なんかではない。
この姿で、しかも子を成せるなど世に知られたら…
ノア様がふいっと顔を背け軽く身を捩ると、真っ白な御足からは張り付いていた数個の部品がぽとぽとと床に落ちて転がった。
わたしの食い入るような視線が恐ろしかったのかもしれない。
ようやくわたしも我に返った。
そして、理解した。
シュヴァイゼルがここまでしてノア様を秘匿する理由を。
あの美しさは人を惑わす。さらにシュヴァイゼルの怪しく光る薄紫色の瞳を受け継いだ王子は他にいない。
希少な黒髪。
この国唯一の子を成せる男子。
子を成せる相手は一人のみ。
しかも、第十とは言えこの国の王子だ。
この存在が知られれば、大変な騒ぎどころではない。
この国のみならず、周辺諸国まで巻き込んでのノア様争奪戦が起こるだろう。
手段を選ばずに拐かされる恐れだってある。
シュヴァイゼルがわたしに護衛を命じたのは、わたしが決してノア様に惑わされることがないと知った上でのこと。
わたしたち一族もある意味特殊な存在だ。
一度結婚してしまえば、生涯ほかの者に目移りすることはない。
わたし以外いない。
シュヴァイゼルが言ったことは本当だったのだ。
「ノア、これからはこのルドルフが護衛についてくれるよ。いいね。」
護衛の件は既に決定事項だ。
抱きかかえたノア様に何度も頬擦りしながら、シュヴァイゼルが告げる。
この溺愛ぶりは凄まじい。
他の王子を抱き上げ、しかも何度も頬擦りする姿など見たことがない。
「ふうん。鬼の護衛か…悪くないな。母さんに教えてあげないと…」
ノア様は繰り返される頬擦りを鬱陶しそうに手で払いながら何か呟いている。
「ノア様、これから護衛を務めるルドルフと申します。」
「うん。よろしく。護衛がついたから、外に出られるんだよね?」
期待に満ちた目をしているが、それはまだきっと先の話しだ。
まだ公にすることはできないだろう。
「駄目だよ、ノア。そんなにここが嫌なら、父さんの部屋に移動するかい?」
父さん?
シュヴァイゼルが自分のことを、父さん?
「え、やだ。それならまだここにいた方がいい。」
第一王子ですら、ここまで砕けた話し方はしない。できないだろう。許されているのは、きっとノア様だけだ。
あのシュヴァイゼルがしゅんとしている。
「母さんが言ってた。どんなに父さんに言われても、絶対部屋までついて行くなって。」
まだお会いしたことはないが、第九側妃はしっかりとしたお方のようだ。
項垂れたシュヴァイゼルの腕から飛び降りると、ノア様はわたしに右手を差し出した。
「ノアだよ。よろしくな。」
見た目とは裏腹で、実際は純粋な幼い少年そのもの。
だからこそ。
「いついかなる時も必ずお守りします。」
小さな右手をとり、額をあてて誓う。
ノア様は、大袈裟だなと少し恥ずかしそうにしていたが、この方に害なす全ての物から本気でお守りしようと、あの日わたしは心に誓った。
ノア様が、たった一人のお相手を見つけられるその時まで。
あれから、三年。
騎士団を取り纏める総司令官が急逝された。まさかの事態に、急遽後継を指名されたのはわたしだ。
ノア様はいまだ後宮奥に秘匿されたまま。
美しさは増すばかりなのに、心は真っさらな少年のまま。この二面性がより一層あの方の魅力を引き立てている。
総司令官を務めながらノア様にお仕えすることは無理だ。
シュヴァイゼルとノア様が納得できる相手、いやわたしが安心して引継ぎできる護衛を探さなければならない。
あの魅力に惑わされず、何をしでかすかわからないあの方を冷静に見守れる騎士…。
口も身持ちも堅い騎士をシュヴァイゼルの了承の元、ノア様に引き合わせるが上手くいかない。
よりにもよって、生脚で出迎えるなど、わたしは頭を抱えた。
まだ十三の子どもに、みな一瞬で虜にされていく。
妻と子がいる騎士でさえ。
残る騎士は1人のみ。
できればユリウスはわたしの右腕として残しておきたかった。
一目見ただけでは、きっと凡庸そうな男にしか見えないだろう。
だが、違う。
冷静沈着な騎士の中の騎士。
数多いる騎士達ですら一目置く恐ろしい男だ。
万が一、ユリウスでさえ駄目ならば、もうシュヴァイゼルの元で囲われるしかないかもしれない。
それだけは、どうしても避けたかった。
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