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第7章
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リオ、と呼ばれたその人は、ユアンの脇を駆け抜けるように扉へ向かって走り出した。
その後を、数枚の花びらが、舞っている。
ユアンの視線は、その姿を追いかける。
え、カイゼル、さま…………?
カイゼルがリオを抱き留めている。
なぜ……?
リオの背中越しに見えるカイゼルは、縋り付くその手を振り解こうともしない。
リオに向かって、何かをずっと話しかけている。
まるで、宥めるように。
あの時と同じ。
ユアンの脳裏に、あの日の出来事が蘇る。
遠い過去のことだと思っていたそれは、店の中で咲き誇る花々のように、鮮やかに、一瞬で蘇る。
ユアンのことなどまるでそこに存在しないかのように、2人抱き合う「運命の番」たちの姿が。
ラグアルはユアンのことなど目に入っていなかった。
たった数日前まで、あんなに想い合っていたはずの2人なのに。
「…ユアン、様?どうしたの?ユアンさま?」
隣りにいるマリの言葉はユアンに届かない。
……違う。あれは、ラグアル様じゃない。
カイゼル様だ。
カイゼル様、ぼくを見て。
ぼくは、ここにいるのに。
どうして、ぼくを見てくれないの?
ねえ、どうして…?
どうして…?
その時、カイゼルの腕に強くしがみつくリオの姿に、ユアンの中の何かが、はじけた。
……いやだ。もう、嫌だ。
やめて
やめて
また、ぼくからとろうとしないで。
そこは、ぼくの場所。ぼくだけの場所なのに!
やめて。やめて。これ以上は、
「いやっ、いやだ!とらないで!とらないでっ!」
リオが店から連れ出され、皆何があったのか訳の分からないうちに、突然ユアンが叫び出した。
「いやっ、やめてっ!とらないでっ!」
必死に扉の向こうへ叫び続けるその姿に、カイゼルは驚きを隠せない。
「ユアン、お前まで、一体どうしたと言うんだ。」
ユアンの元へと駆け寄るが、ユアンは錯乱した様子のまま、叫び続ける。
「いや、いや、とらないで、いやっ!」
「ユアン、どうした?一体何をとられたくないんだ?」
「ぼくの、ぼくのなのにっ!」
「ユアンっ!」
はっ、とユアンの瞳がカイゼルのそれをとらえると、ユアンはカイゼルに抱きつき、そのまま、激しく泣きじゃくった。
「行かないで。どこにも、行かないで!」
「どうしたんだ。ここにいるだろう。」
「置いていかないで!1人にしないで!」
「ユアン…」
「いや。いや。とらないで!」
「ユアン、すまなかった。わたしの配慮が足りなかった。」
ユアンはカイゼルに抱きついたまま、首を横に振って、泣きじゃくる。
カイゼルはユアンを抱き上げると、その首元に腕を回して縋りつくユアンを大事そうに抱えた。
「ユアン、どこにも行かん。だから、そんなに、泣くな。」
「……」
「ユアン…」
カイゼルだけはもう誰にも奪われたくない、奪わせない。
絶対に離しはしないと、ユアンはカイゼルへと強く抱きつき、決して離れようとしなかった。
「騒がせてすまない。後から詫びを送る。マリ、行くぞ。」
ユアンを抱きかかえたまま、カイゼルは店を後にした。
馬車に戻っても、ユアンはカイゼルから離れようとしない。
カイゼルの膝の上で、ぐずぐずと泣き続けている。
ユアンの耳元でカイゼルが囁く。
「ユアン、もう泣くな。そんなに、泣かないでくれ……。」
ユアンは、あの男を奪われたくなかったのだな。
こんなになるほど、あの男を、とられたくなかったのだな。
腕の中で泣き続けるユアンの姿に、カイゼルには、なんとも言えないやるせない気持ちが込み上げていた。
その後を、数枚の花びらが、舞っている。
ユアンの視線は、その姿を追いかける。
え、カイゼル、さま…………?
カイゼルがリオを抱き留めている。
なぜ……?
リオの背中越しに見えるカイゼルは、縋り付くその手を振り解こうともしない。
リオに向かって、何かをずっと話しかけている。
まるで、宥めるように。
あの時と同じ。
ユアンの脳裏に、あの日の出来事が蘇る。
遠い過去のことだと思っていたそれは、店の中で咲き誇る花々のように、鮮やかに、一瞬で蘇る。
ユアンのことなどまるでそこに存在しないかのように、2人抱き合う「運命の番」たちの姿が。
ラグアルはユアンのことなど目に入っていなかった。
たった数日前まで、あんなに想い合っていたはずの2人なのに。
「…ユアン、様?どうしたの?ユアンさま?」
隣りにいるマリの言葉はユアンに届かない。
……違う。あれは、ラグアル様じゃない。
カイゼル様だ。
カイゼル様、ぼくを見て。
ぼくは、ここにいるのに。
どうして、ぼくを見てくれないの?
ねえ、どうして…?
どうして…?
その時、カイゼルの腕に強くしがみつくリオの姿に、ユアンの中の何かが、はじけた。
……いやだ。もう、嫌だ。
やめて
やめて
また、ぼくからとろうとしないで。
そこは、ぼくの場所。ぼくだけの場所なのに!
やめて。やめて。これ以上は、
「いやっ、いやだ!とらないで!とらないでっ!」
リオが店から連れ出され、皆何があったのか訳の分からないうちに、突然ユアンが叫び出した。
「いやっ、やめてっ!とらないでっ!」
必死に扉の向こうへ叫び続けるその姿に、カイゼルは驚きを隠せない。
「ユアン、お前まで、一体どうしたと言うんだ。」
ユアンの元へと駆け寄るが、ユアンは錯乱した様子のまま、叫び続ける。
「いや、いや、とらないで、いやっ!」
「ユアン、どうした?一体何をとられたくないんだ?」
「ぼくの、ぼくのなのにっ!」
「ユアンっ!」
はっ、とユアンの瞳がカイゼルのそれをとらえると、ユアンはカイゼルに抱きつき、そのまま、激しく泣きじゃくった。
「行かないで。どこにも、行かないで!」
「どうしたんだ。ここにいるだろう。」
「置いていかないで!1人にしないで!」
「ユアン…」
「いや。いや。とらないで!」
「ユアン、すまなかった。わたしの配慮が足りなかった。」
ユアンはカイゼルに抱きついたまま、首を横に振って、泣きじゃくる。
カイゼルはユアンを抱き上げると、その首元に腕を回して縋りつくユアンを大事そうに抱えた。
「ユアン、どこにも行かん。だから、そんなに、泣くな。」
「……」
「ユアン…」
カイゼルだけはもう誰にも奪われたくない、奪わせない。
絶対に離しはしないと、ユアンはカイゼルへと強く抱きつき、決して離れようとしなかった。
「騒がせてすまない。後から詫びを送る。マリ、行くぞ。」
ユアンを抱きかかえたまま、カイゼルは店を後にした。
馬車に戻っても、ユアンはカイゼルから離れようとしない。
カイゼルの膝の上で、ぐずぐずと泣き続けている。
ユアンの耳元でカイゼルが囁く。
「ユアン、もう泣くな。そんなに、泣かないでくれ……。」
ユアンは、あの男を奪われたくなかったのだな。
こんなになるほど、あの男を、とられたくなかったのだな。
腕の中で泣き続けるユアンの姿に、カイゼルには、なんとも言えないやるせない気持ちが込み上げていた。
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