14 / 18
雫と伊央
14
しおりを挟む「………どうですか。思い出しましたか?宰相閣下」
肩を激しく上下させながら、息も絶え絶えな宰相閣下の姿に同情する気は一切起きない。体を拘束され口を塞がれては魔法も使えない。未だに困惑して目を彷徨わせている宰相閣下に溜息が出る。彼は前回の事が蘇っても自分の何が悪かったのか全く理解していなかった。それどころか、後悔すらしていないときた。
「あの大公家に今回もしてやられましたね。いや、今回の貴方は喜々として大公家に尻尾を振って協力してましたね。その結果がコレだ。貴方の大事な国は内乱で滅亡寸前だ。ああ、国じゃない。王家と現政権が、でした」
あからさまな皮肉が効いたのか、宰相の目は怒りで血走っていた。そんな目で睨まれても怖くもなんともないし、むしろ滑稽だった。
その怒りは自分が馬鹿にされたというものだ。どこまでも自分が可愛いのだ。それに無自覚なのが余計に質が悪い。
前回で、ブリジット様を失った原因の一つがこの男の存在に有る。
真実を知った時は『被害者の父親』に早変わりだ。面の皮が厚いにも程がある。
当時、宰相という立場と共にまだ公爵でもあった。ブリジット様の実父であり公爵家当主でありながら娘を糾弾する側に立つとはどういう了見だろうか。
この男は被害者側ではなく加害者側だ。
ミゲル様は情に厚い。
悪く言うと情に脆い処があった。義父として涙ながらに謝罪すれば許されると本気で思っていたようだが、謝罪する時期はとっくに過ぎていた。しかもその事に気付かなかった。寧ろ、終わった頃に言われたせいで逆にミゲル様の怒りを買ってしまった。
そもそも、娘が冤罪を掛けられてそれを鵜呑みにした男だ。
ブリジット様を信じず、追い込んだ人間の一人だろうに。
理解に苦しむ。
結果的にそれらの行動が仇となったわけだ。
宰相の地位も公爵の地位も何もかも取り上げられた。
ブリジット様の件が起こる前から何かと「父親」として思うところはあったようだ。
それでもブリジット様の実父。
他の者達と同類にはできなかった。
ミゲル様は義父を屋敷の地下牢に幽閉した。
普通の幽閉では飽き足らなかったのだろう。
日の光が当たらない場所で生涯を閉じる事を望んだ。
親子として和解など以ての外だという考えは心の中をのぞくまでもなかった。
今回は、ブリジット様を王家にとられる事なく無事だ。
内乱が終結すれば、ミゲル様とブリジット様の双方がこの国の頂点に立たれる。
都合の悪いことは直ぐに忘れる男は、「父親」という名目を恥ずかしげもなく晒すだろう。若い二人を支えるとか何とかいって。
自分が裏切って踏みにじってきたという事すら忘れて――
「実の娘を裏切っておいて、義理の息子が許すと本気で思っているところは今も昔も変わらない。未来のある二人のために貴方は邪魔なんです」
この男は今度こそ報いを受けるべきだ。
肩を激しく上下させながら、息も絶え絶えな宰相閣下の姿に同情する気は一切起きない。体を拘束され口を塞がれては魔法も使えない。未だに困惑して目を彷徨わせている宰相閣下に溜息が出る。彼は前回の事が蘇っても自分の何が悪かったのか全く理解していなかった。それどころか、後悔すらしていないときた。
「あの大公家に今回もしてやられましたね。いや、今回の貴方は喜々として大公家に尻尾を振って協力してましたね。その結果がコレだ。貴方の大事な国は内乱で滅亡寸前だ。ああ、国じゃない。王家と現政権が、でした」
あからさまな皮肉が効いたのか、宰相の目は怒りで血走っていた。そんな目で睨まれても怖くもなんともないし、むしろ滑稽だった。
その怒りは自分が馬鹿にされたというものだ。どこまでも自分が可愛いのだ。それに無自覚なのが余計に質が悪い。
前回で、ブリジット様を失った原因の一つがこの男の存在に有る。
真実を知った時は『被害者の父親』に早変わりだ。面の皮が厚いにも程がある。
当時、宰相という立場と共にまだ公爵でもあった。ブリジット様の実父であり公爵家当主でありながら娘を糾弾する側に立つとはどういう了見だろうか。
この男は被害者側ではなく加害者側だ。
ミゲル様は情に厚い。
悪く言うと情に脆い処があった。義父として涙ながらに謝罪すれば許されると本気で思っていたようだが、謝罪する時期はとっくに過ぎていた。しかもその事に気付かなかった。寧ろ、終わった頃に言われたせいで逆にミゲル様の怒りを買ってしまった。
そもそも、娘が冤罪を掛けられてそれを鵜呑みにした男だ。
ブリジット様を信じず、追い込んだ人間の一人だろうに。
理解に苦しむ。
結果的にそれらの行動が仇となったわけだ。
宰相の地位も公爵の地位も何もかも取り上げられた。
ブリジット様の件が起こる前から何かと「父親」として思うところはあったようだ。
それでもブリジット様の実父。
他の者達と同類にはできなかった。
ミゲル様は義父を屋敷の地下牢に幽閉した。
普通の幽閉では飽き足らなかったのだろう。
日の光が当たらない場所で生涯を閉じる事を望んだ。
親子として和解など以ての外だという考えは心の中をのぞくまでもなかった。
今回は、ブリジット様を王家にとられる事なく無事だ。
内乱が終結すれば、ミゲル様とブリジット様の双方がこの国の頂点に立たれる。
都合の悪いことは直ぐに忘れる男は、「父親」という名目を恥ずかしげもなく晒すだろう。若い二人を支えるとか何とかいって。
自分が裏切って踏みにじってきたという事すら忘れて――
「実の娘を裏切っておいて、義理の息子が許すと本気で思っているところは今も昔も変わらない。未来のある二人のために貴方は邪魔なんです」
この男は今度こそ報いを受けるべきだ。
73
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)



【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる