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蹉跌1993

コンビ初陣①

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「俺が先にトークするから、フォーローを頼む!」
「うん。じゃ次の家は私ね!」小さく頷き合う。
 微かに震える指先で、晃司がチャイムを押す。

【ピンポーン】
『は~い!』
「こんにちは!ミネルビ学院の武田と申します。子供さんの教育、発達の事で少しだけお時間いただけたら、、」

『今、忙しいわぁ』

「お忙しい時にすいません!子供さんの発育、将来に繋がるお話です。数分だけでもお伝えできたらで結構です!決して損にはならないお話しです。」
『本当に少し?、、』
「少しだけで結構です。営業ではありませんので!」
『はぁ…』、、カチャ。
「ちょっと!営業だよ!嘘ついたらダメよ!すぐバレるのに!」晃司の背を、後ろから梨花が小突く。
「るっせえ!やり方なんだよ!、、もう出てくるぞ!」
「でも、そのやり方でずっと0件なんでしょ!私は今月2件取ってるよ!」
 、、晃司は大きく息を吸い込んだ。

【ガチャ】
 白いリネンのシャツにロングスカート、サンダルを突っ掛けた女が出てきた。
「あ、奥さんありがとうございます!」
「子供の教育の事ね? 」
「はい!子供さんの将来の為に何をしたら良いだろう?というお話です!」
「一応、営業です、、」後ろにいる梨花が呟く。
 振り返って梨花を睨みつつ『シャラップ!』腹話術の様に口をパクパクさせた。
「子供さんの才能を伸ばす、社会的に成功する事ってご興味ありませんか?」、、もう梨花を無視して喋ろう。

「そりゃ興味あるわよ!うちの子が秀でてくれたらって夢見るけど、、ね。やっぱり子供に夢を求めちゃうわよねぇ。テレビを見てたら、幼児期から教育を受けて育った子たちが、ベンチャービジネスとか、スポーツで、とか活躍してるじゃない? 社会でちゃんとやっていけたら良し。で、本当はいいんだけどねぇ。」
 よし来た!、トークに力が入る。
「奥さん!子供さんが社会に出て、組織内で成功するのに絶対に必要な能力があります。それは何かご存知ですか?」
「コネとか、人とうまくやる事とか?」
「鋭いです!私もおっしゃる通りだと思います!コミュニケーション能力の事ですよね!組織では幾ら賢くても、知能があってもコミュニケーション能力が低くては評価されません。むしろ組織内で敬遠されているのではないでしょうか?ミネルビの子供英会話教室は、喋る事に偏らず、読む、書く、聞くをバランス良く行い、他文化と触れるので、子供のコミュニケーション能力を高めるのにピッタリなんです!」

「まぁ、そう言うことね。分かるけど、いくら英会話が良くっても、うちは習い事を3つやらせているしね。水泳、塾、習字。もう増やせないわ。」
「4つ、5つ習い事をされているお子さんも多いですよ!」
「時間が無いの。子供も、私も。」

「、、そうですか、時間が無いのは仕方ないですよね。。」梨花に振り返り、目で助けを求める。

「ちょっと!」晃司を押しのけて梨花が前に出てきた。
「子ども英会話教室が無料で出来ちゃうチャンスなんですよ!やっちゃった方が絶対良いです!お得ですよ!」
「じ、時間がないのよぉ。」梨花と晃司を交互に見る。
「プロの教室ですよ!体験1回はしちゃう方が良いですよ!絶対!、、勿体無いなぁ!」梨花は素で話している様だ。

「奥さん無理しないでくださいね!確かに先生が来て子供さんの反応が見れるチャンスですが、、、」晃司が前に出ようとする。
「体験してみないとわからないジャン!」梨花が、譲らない。
「奥さんお忙しい時に失礼しました、、」梨花の袖を引っ張る。
 瞬間、白いリネンシャツが揺れた。
「やってみるだけでも良いの?」
「奥さん、無理、、」「もう!体験するって言うてはるやん!」梨花が晃司に被せた。
「体験やるわ!」痺れを切らした様に、奥さんが門の扉を開けた。
 
「講師の日時調整しますので、奥様、お子様のご予定お聞かせください。この、、」契約書と調整用紙に記載する晃司の手が、僅かに震えている。

 10分も話していないのに、1ヶ月ぶりの新規。
 2人とも訳がわからないまま、何かに動かされている様な、不思議な気がしていた。
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