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Ⅸ Gとユリカ
天界にて
しおりを挟む二度と開く筈のない瞼を開けた時。
ユリカは草原の中にいた。
木々に鳥が遊び、川のせせらぎが遠くから聞こえる。
怖々と歩くと足元の花が乱れ咲き、その周囲が花園へと変わった。
まるで大掛かりな手品を見ているようだ。
「目覚めましたか、ユリカ」
すうっと天空に光が射したかと思うと、ゆっくりと気品に満ちた女性が舞い降りた。
「誰?」
「私は転生神。
新たな生の旅路へと貴女を導く者」
「……転生、神?
それって小説とかでよくある異世界転生?!」
「神とは人間の想像を超越する存在。
それと共に人々の願望に寄り添う存在なのです。
貴女の望みのままにチートスキルを授ける事も可能ですよ」
転生神はにこりと微笑んだ。
「じゃ、じゃあ、あれとこれとそれと、とっておきにこんなのも……ごにょごにょ」
ユリカは思い付く限りのチートスキルを耳打ちした。
「よ、四十八種類もの特殊スキルを望むとは。
こんなにがめつい方は、長年転生神をやってますが初めてです」
にこにこと笑いながらも、女神のこめかみに青筋が浮かぶ。
「ではユリカ、赤い花の咲き乱れる道を真っ直ぐにお往きなさい。
じきに異世界への扉が見えてくるでしょう」
「なんだか怖いなぁ。
あれ、そういえば私、どうして死んじゃったんだっけ?」
転生神はユリカの質問には答えず、閉じていた掌をゆっくりと開いた。
「その黒いのって、まさか」
「ゴキブリです」
ひくひくと触角を動かし、ゴキブリはユリカに頭を下げた。
「気持ち悪い!
そんな害虫、早くどこかにやってよ‼」
「あら、なぜです?
ゴキブリも人間も神の前では等しく同じ、ひとつの尊い命だと言うのに」
「ゴキブリなんかと人間が同じ訳ないでしょ。
こいつら不潔だし、すぐ増えるし、地球上で最低の生き物よ!」
「……やはり、混ざってしまいましたか」
「混ざる?」
「お気になさらずに。
ではユリカよ、旅立ちなさい」
「はーい。
来世では絶対にイケメンの王子様と結ばれてやるんだから!」
ユリカの姿が完全に見えなくなると、転生神はGを少年の姿へと変えた。
「やはり。
忘れられると言うのは、辛いものですね」
Gは肩を落として呟いた。
「彼女に新たな生を与える代わりに、前世の記憶の大半を頂きました。
しかし、本当に良かったのですか?」
「はい。
と言うより、暮井戸が二本足さんの来世に必ず転生する存在だと聞かされては、こうするより他ありませんから」
「あの二人の因縁は相当に根深いもの。
因果律の業により、次の生でも彼女はあの男に殺される運命なのです」
「だからこそ、Gが異世界で二本足さんを守り、その運命を変えたいのです」
「ゴキブリが人間にそこまでの愛情を抱くなんて、神々の未来予測も及ばなかった稀有な事態です。
だからこそ私は小さな貴方に協力したいと思った。
でも、よくお聞きなさい。
ユリカさんと暮井戸の転生はあくまでもイレギュラー。
本来、異世界に導かれるのは貴方だけの予定でした。
よって同時に転生を果たす三人の中で、前世の記憶と性格、能力がどう混ざりあい、形成されるのかは私にも解りませんよ」
「同じ人間として生まれ変わる事が出来るのなら、Gはどんな事になっても二本足さんを守ります」
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