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 Ⅷ 死期と式

 狂気

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「がはっ!」
「ジークロハネ様?!」
「……勝負あったな」

仰向けに倒れて真っ赤な胸を押さえるGに駆け寄ろうとするユリカ。

「そいつに触るな。
再生されたら止めを刺せないからな」
「そんな。
もう勝負は着いたでしょう?!
殺す必要なんてどこにも」

クレードは刃を花嫁に向けた。

「僕に口答えするんじゃないよ、ユリカ。
これは元々、君が招いた事なんだぜ」

壁際まで後退を余儀なくされたユリカを見て、ヴァルサーン七世が叫んだ。

「己の妻となる女性に剣を向けるとは、騎士にあるまじき振る舞い。
クレードよ、今すぐその手を……ゴホゴホッ」

急に血圧が上がったせいか、咳き込む国王。
クレードはユリカに向けていた剣を持ったまま近付くと、父親のその胸に突き刺した。

「な、何を」
「僕が人払いをした本当の理由はねぇ、父上」

ズブリズブリと刃が食い込み、枯れ木のような国王の体を貫く。

「弟くんがやったと見せかけ、あんたを殺して王位を戴くためさ」
「ぐああぁああ、クレード。
貴様ぁ……っ‼」

引き抜かれた刃と同時に白目を剥き、王は絶命した。

「国王様っ?!」
「ちち、うえ……」

床に這いつくばりながらその光景を見ていたGは、無力感に打ちひしがれた。

「何が父親だ、何が国王だ。
子供の頃から鬱陶しくて仕方がなかったんだよ、お前の事が。
あぁ、ようやく念願叶ってすっきりした。
お前だって本当はそう思ってるんだろう、弟くん?
クハハハハハハッ!」

狂人のように哄笑するクレードを見て、ユリカは悟った。
この男の中には他人を思いやり、愛する気持ちなど欠片も存在しないと言う事を。
こんな男に自分はのぼせ上がっていたのか。

「……クレード様」
「んん?
なんだい、ユリカ姫。
いいや、少し早いが王妃と呼ぶべきかな」

肩を震わせて見つめる瞳に涙が浮かぶ。

「……私。
私やっぱり、貴方の妻にはなれません」
「へぇ?
君は本当に前世から我が儘な人だねぇ」

コツコツと足音を響かせてユリカの前に立つと、クレードはその頬をひっぱたいた。

「二本足さん!」

血溜まりの中をよろよろと進み、Gが倒れたユリカに手を伸ばす。

「解っているよ、弟くん。
心配するフリをして、ユリカのスキルで回復しようって魂胆なんだろ」
「……違う、Gは二本足さんに」
「Cショック」

Gの体が衝撃波で吹き飛び、大聖堂の壁にぶつかった。

「僕の物に汚い手で触るな。
ん?……なんだ、これは」

ユリカの唇に挟まっていた紫の欠片を取り出そうとし、指を噛まれて咄嗟に手を引いた。

「そのまま飲み込んで下さい、二本足さん!
それで失っていた記憶が取り戻せる筈です」

ユリカの体が徐々に輝きを増してゆく。
それは彼女の魂が時空の壁を越え、前世への旅を始めた証だった。






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