25 / 102
Ⅱ 愛しき人
兄と弟
しおりを挟む「……クレード」
重傷のユリカを抱えてやって来たGの表情は、普段の穏やかなものとは異なり険しかった。
「やぁ、弟くん。
こんな所で遊んでいたんだね」
「何をしに来た」
「助けてやったのにそんなに睨むなよ。
少し様子を見に来ただけさ。
それよりも、心優しい兄から出来損ないの弟への質問だ。
お前は僕のユリカを殺す気か?」
クレードの瞳に一瞬、狂気の色が滲む。
「……セツハさん。
二本足さんをお願いします」
Gはセツハにユリカの手当を頼んだ。
不死竜の一撃によって彼女の傷口は黒く変色し、皮膚が醜く爛れていた。
その範囲は今もなお、徐々に広がり続けている。
冷淡な王子に言われるまでもなく、己の不甲斐なさをGは憎んでいた。
掴みかかろうとするGの体をいなして地面に転がすと、クレードはその顔面を踏みつけた。
「聞こえなかったのかい、弟くん。
なぜ街を犠牲にしてでもユリカを護らなかったのかと、僕は訊いているんだ」
「おやめ下さい、クレード様!
Gは悪くありません。
ユリカ嬢が負傷したのは、私の領主としての力不足が原因です」
ファランはクレードに嘆願した。
虫けらを見るような目でファランを見ると、クレードはGからゆっくりと足を離した。
「ファラン=ロズラファエル。
たかが地方の一領主の分際で、次期国王であるこの僕に異を唱えるつもりか?
これは君が父親そっくりの無能である事など、はじめから踏まえた上での話なんだよ」
「……く」
ファランは唇を固く結んで顔を俯かせた。
そうする以外、亡父を愚弄された怒りを抑え込む術を知らなかったからだ。
「御三方」
石段の上に横たわるユリカの様子を見守っていたセツハが、三人を呼び寄せた。
「不死竜は生きております」
セツハは静かな口調でそう告げた。
その白い胸元に刻まれた赤い烙印は、彼女の身分が奴隷階級である事を顕していた。
「クハハッ、これは傑作だ。
無能な主に仕えるのは無能な異国奴隷か。
あの骨格標本ならさっき、君達の目の前で僕が退治してやった筈だけどね。
その安っぽい眼鏡の度数、本当に合ってるのかい」
眼鏡のフレームに触れようとしたクレードの指をするりとかわすと、セツハは言葉を続けた。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
未亡人となった側妃は、故郷に戻ることにした
星ふくろう
恋愛
カトリーナは帝国と王国の同盟により、先代国王の側室として王国にやって来た。
帝国皇女は正式な結婚式を挙げる前に夫を失ってしまう。
その後、義理の息子になる第二王子の正妃として命じられたが、王子は彼女を嫌い浮気相手を溺愛する。
数度の恥知らずな婚約破棄を言い渡された時、カトリーナは帝国に戻ろうと決めたのだった。
他の投稿サイトでも掲載しています。
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる