なけなしの石で引いたガチャから出てきた娘がただのレアだった件

きゅちゃん

文字の大きさ
上 下
18 / 32

第18話 豹変

しおりを挟む
「どるぁぁ!」

斧が一閃し、スケルトンゴラゴンの頭蓋骨を粉々に砕いた。
ふんっ、とガッツポーズを決める小野寺さんがもたらす安心感は異常だ…。

現在、塔の第38フロアまで到達。
幸いにして大きなトラブルやダメージもなく、俺たちは順調すぎると言っていいほど順調に進んでいた。
あの時よぎった嫌な予感は、きっと何かの間違いだったのだろうと、忘れることにする。

アベルが二度とあの冷酷な表情を浮かべることはなく、相変わらず気弱そうな微笑が張り付いていた。   

「また来るぞ!」

スケルトンドラゴンを倒したものの、一息つく暇もない。
またも前方に転送光が発現し、次の瞬間には十数体のスケルトンナイトが現われる。
カタカタと骨の音を響かせ、剣や槍、ボウガンなどさまざまな武器を構えながら近づいてきた。

「…こいつらは、かなり強いぞ。俺とアイシャでできるだけ片付けるが、討ち漏らしはリョウキとアベルで何とかしてくれ」

「「了解」」

「ニアも攻撃魔法でできるだけ敵の邪魔をして欲しい。ヘイトを集めすぎないようにな」

ヘイトとは、敵を攻撃することで上昇するシステム上の値で、プレイヤーが直接確認する術はない。
敵は基本的に最寄りの相手を狙うようにプログラムされているが、
一定以上のヘイト値を集めてしまうと、例え離れていてもヘイト値の高い相手を狙うようになるのだ。
それゆえ、近接戦闘が苦手な遠距離型、サポート型のクラスがヘイト値を集めすぎると戦線が乱れることになりやすい。
裏返せば、小野寺さんがそれだけニアを信頼してくれていることの証でもある。

「はい、任せてください!」

ニアが力強く頷いた。

「アイリスは、背後からの奇襲に備えつつ、ニアに敵を近づけるな」

「…わかった」

アキバ系電脳アイドルのような見た目とは裏腹に徹底的にクールな槍使いだが、頼れることはこれまでの戦闘で実証済みだ。

「では、蹂躙の時間だ!」

言い終わるや否や、我らの突撃隊長は猛然と走り出す。
雷神の露払いをするかのように、滝のような矢が敵へ向かって降り注いだ。
威力を犠牲にした物量攻撃、アイシャのアローストームだが、
スケルトンナイトたちは一向にひるむ気配がない。

…これまでの敵とは格が違う。
しかし、矢の奔流のおかげで、前進するスピードが少しだけ鈍ったその隙に、
紫電のごとき閃光が数体のスケルトンを薙ぎ払った。

小野寺さんのトールハンマーが、ついにその牙を解き放ったのだ。
しかしそれは、解きはなたざるをえなかったということでもあり、
これまでとは戦闘のステージが変化したという明確な証でもある。
俺のスキルが、どこまで通用するのだろうか。

「いこう、アベルさん」

「…そ、そうだね」

先陣で斧を振るう小野寺さんから少し距離を取り、
雷神の槌トールハンマーをかわして抜けてくるスケルトンを待ち構えることにする。

「…来た!」

槍持ちが一体に、ボウガン持ちが一体、他のスケルトンを犠牲にしつつ、
俺たちの方へと突進してくる。

「アベルさん、ボウガン持ちは任せます。俺は槍の方を!」

「わ、わかった!」

二手に分かれた俺たちは、それぞれの目標に向かって対峙する。
スケルトンが突き出した槍を、左の剣で受け流しつつ、前ステップで一気に詰め寄る。
槍を引き戻そうとして生まれた隙を逃さず、右の剣を渾身の力で突き出し、スケルトンの顎を打ち砕いた。
電池切れのように骨がバラバラと散らばり、次の瞬間塵になって消えていく。

次の瞬間、嫌な気配を感じて振り向いたところに、ダガーが振り下ろされる。
いつの間にかボウガンからダガーへと持ち替えたスケルトンが、俺の背後に迫っていた。

「うぉ…」

アベルさんに任せきって油断していた俺は、とっさにダガーの初撃こそ躱せたものの、
バランスを崩して転んでしまう。
その機を逃すまいと、スケルトンがのし掛かって俺の喉元にダガーを振り下ろしてくる!
こんなところで死ぬのか…?
ごめん、ニア…

そう覚悟を決めた瞬間、

「…諦めるの、早い」

迅雷のごとき速度で飛来した槍が二本、俺に覆いかぶさっていたスケルトンの双方の眼窩をそれぞれ正確に貫いた。

「あ、ありがとう…」

「…油断するな。敵はどこにでもいる」

アイリスはそれだけ言ってぷいと目を逸らした。
しかし、アベルさんは何をしていたんだ?
先ほどの腕があればスケルトン1体ごときに遅れをとるとも思えないが…

アベルさんの姿を探すが、どこにも見当たらない。
乱戦とはいえ、敵の数がそれほど多いわけではないし、小野寺さんとアイシャが敵の大半を食い止めている。
この状況下で行方不明になるというのはおかしい。

ふと、この旅の始まりで目にしたアベルさんの酷薄ともいえる表情を思い出す。

「わざと…俺をスケルトンに襲わせたのか?」

嫌な考えが頭をよぎる。
…新人とはいえ、白の騎士団のメンバーがそんなことを?

そう思い悩む間にスケルトンはほぼ全滅しかけていた。
相変わらずアベルさんの姿は見当たらない。

まずは小野寺さんに相談しよう。
そう足を踏み出した瞬間、

「うわあああ!!ご、ごめんよおお!!!」

後方から大絶叫が響き、アベルさんがふらふらと駆け寄ってきた。
こいつ、どこに行っていたというんだ…?
疑いの視線を向けた俺は…その先の光景に絶句する。

それは、百鬼夜行ともいうべきモンスターの群れ、否、軍団だった。
スケルトン、スケルトンドラゴン、リッチ、ヴェアウォルフ…種々雑多な魔物達が憎悪に目を光らせ、
徒党を組んでアベルさんを追いかけてきていたのだ。

「くそ…よくまぁこんなにも出てきたもんだ…」

さすがの小野寺さんの額にも汗が浮かんでいる。
この人が焦るところ、はじめて見た気がするぞ。
つまりそれだけ、とんでもなくやばい状況だってことだ。

「も、申し訳ない、ちょっと乱戦で道を外れたらものすごく付いてきてしまって…」

アベルさんはぺこぺこと頭をさげる。

「仕方ない、まずは前進して、なんとかやり過ごせる場所を探そう」

小野寺さんが、先ほどスケルトンナイト達が現れた方向へと進もうとした。

「いや、それじゃ困るんだな」

申し訳なさそうな表情が一転、アベルさん…いや、アベルが薄ら笑いを浮かべて俺たちの前に立ちふさがった。
その背後には、無表情のアイリスが槍を構え、アベルを掩護する。

「…なんだと?」

睨み据える小野寺さんに、一向にひるむ様子もなくアベルは言い放つ。

「あんた達には、ここで奮戦虚しく死んでもらうのさ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。

蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。 此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。 召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。 だって俺、一応女だもの。 勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので… ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの? って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!! ついでに、恋愛フラグも要りません!!! 性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。 ────────── 突発的に書きたくなって書いた産物。 会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。 他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。 4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。 4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。 4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました! 4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。 21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

【完結】五度の人生を不幸な出来事で幕を閉じた転生少女は、六度目の転生で幸せを掴みたい!

アノマロカリス
ファンタジー
「ノワール・エルティナス! 貴様とは婚約破棄だ!」 ノワール・エルティナス伯爵令嬢は、アクード・ベリヤル第三王子に婚約破棄を言い渡される。 理由を聞いたら、真実の相手は私では無く妹のメルティだという。 すると、アクードの背後からメルティが現れて、アクードに肩を抱かれてメルティが不敵な笑みを浮かべた。 「お姉様ったら可哀想! まぁ、お姉様より私の方が王子に相応しいという事よ!」 ノワールは、アクードの婚約者に相応しくする為に、様々な事を犠牲にして尽くしたというのに、こんな形で裏切られるとは思っていなくて、ショックで立ち崩れていた。 その時、頭の中にビジョンが浮かんできた。 最初の人生では、日本という国で淵東 黒樹(えんどう くろき)という女子高生で、ゲームやアニメ、ファンタジー小説好きなオタクだったが、学校の帰り道にトラックに刎ねられて死んだ人生。 2度目の人生は、異世界に転生して日本の知識を駆使して…魔女となって魔法や薬学を発展させたが、最後は魔女狩りによって命を落とした。 3度目の人生は、王国に使える女騎士だった。 幾度も国を救い、活躍をして行ったが…最後は王族によって魔物侵攻の盾に使われて死亡した。 4度目の人生は、聖女として国を守る為に活動したが… 魔王の供物として生贄にされて命を落とした。 5度目の人生は、城で王族に使えるメイドだった。 炊事・洗濯などを完璧にこなして様々な能力を駆使して、更には貴族の妻に抜擢されそうになったのだが…同期のメイドの嫉妬により捏造の罪をなすりつけられて処刑された。 そして6度目の現在、全ての前世での記憶が甦り… 「そうですか、では婚約破棄を快く受け入れます!」 そう言って、ノワールは城から出て行った。 5度による浮いた話もなく死んでしまった人生… 6度目には絶対に幸せになってみせる! そう誓って、家に帰ったのだが…? 一応恋愛として話を完結する予定ですが… 作品の内容が、思いっ切りファンタジー路線に行ってしまったので、ジャンルを恋愛からファンタジーに変更します。 今回はHOTランキングは最高9位でした。 皆様、有り難う御座います!

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます

水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか? 私は、逃げます! えっ?途中退場はなし? 無理です!私には務まりません! 悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。 一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。

処理中です...