90 / 107
第三章 王国軍の改革
軍を立て直すことになりそうです
しおりを挟む
「では、保護していただけるのですね?」
「条件があるわ」
そう言ってフォルトゥナ大公は婉然と微笑んだ。
蕩けるような笑み、とはこういう表情を言うのだろう。
知らず、視線を奪われる。
「わたしの奴隷になりなさい」
「へ?」
「あ、誤解を招く言い方だったわね。わたしの配下となり、その力をわたしと我が軍のために役立てなさい」
誤解?
むしろ本音では?
と突っ込みたいところをぐっとこらえる。
「いや、急に言われましても……ミストラルもアレク武器店の再建も終わってませんし」
「いいこと?これから間違いなくアルバレストとの戦争になるわ。かの国は人心に乱れありといえど、ひとかどの軍事大国よ。一方の我が国はここ数十年は戦争らしい戦争をしていない」
「はぁ、そうなんですか」
「この子は、申し訳ないけれど確実に火種になる。サコン、あなたはこの国やこの子たちを守りたいのでしょう?」
「それはそう、ですが。俺の力が軍事や国防に役立つなんて自信が……」
「いいえ、わたしはあなたの働きを見たわ。市井の人々の噂にもなっている。あなたには間違いなく何かを変える力がある」
そう言ってフォルトゥナ大公が俺の目をじっと見つめる。
そこには先ほどまで湛えられていた微笑はもはやない。
一国の安全保障を預かる者としての真摯な表情が取って代わっていた。
ここまで見込まれたんじゃあ、ケツをまくって逃げ出すわけにもいかないな。
「……わかりました、メルが危険な目に遭ったのは、俺にも責任の一端があります。この国には恩義もある。俺で役に立てるなら、なんでもしましょう」
「武器店のことは安心なさい。我が軍はこれから戦力増強を図らなければならないのだから、武具の発注を回せるでしょう」
「そ、それは助かります」
「宿屋は…そうねぇ。軍で借り上げてしまいましょう。どのみち市中に防衛の指揮所が必要だと思っていたから」
「は、はぁ…そうですか」
なんのために改善してきたんだがよくわからなくなってしまったが、とりあえず俺の行動がお世話になった人たちへの恩返しに繋がるならいいか。
「これから成果を出そうというときに横槍を挟んで申し訳なく思うわ……でも、あなたの行動があればこそ、わたしも便宜を取り計らうのだし。やる気のないボロ宿だの潰れかけの武器屋だのなら、放っておくわよ」
どうやら俺の気持ちは見透かされていたようだ。
確かに、ようやく軌道に乗りかけてきたところで、さらに飛躍できるかどうか自分たちだけの腕を試したいという気持ちはある。
とはいえ、全てが自分の力だと思うのも傲慢だろう。
何はともあれ、自分の行動が少しずつ積み重なって、今の状況へと繋がってきたのは確かな事実だ。
「平和になったら、また一から自分たちで頑張りますよ」
「期待しているわ。わたしとしては、末長くわたしに尽くしてほしいのだけれど」
「えっ、あっ、はい?」
思わず声が裏返ってしまい、メルに冷たい目で睨まれる。
そんなメルにフォルトゥナ大公が声をかけた。
「まさかこんなところで再会するとはね、メルセデス王女。いえ、いまはメルでいいのかしら」
「ほんとうにお久しぶりでございます、フォルトゥナ大公殿下……いつぞやの舞踏会でお目にかかって以来ですね」
「舞踏会……そうね、先王陛下のお招きに預かって参上したときだったかしら」
「はい。アルバレストの貴族が、殿下の元に束になって求婚に訪れた様は、その後の語り草になっておりました」
「ふふ、懐かしいわ。あまりに軟弱すぎて束のまま刈り取られていった男たちね」
なんとなく、男たちがちぎっては投げられる様が脳裏に浮かんだが、あながち外れていないだろう。
この人の腕の確かさは、先ほど目の前でまざまざと見せつけられたからな。
そんじょそこらの貴族では眼鏡にかなうはずもない。
「条件があるわ」
そう言ってフォルトゥナ大公は婉然と微笑んだ。
蕩けるような笑み、とはこういう表情を言うのだろう。
知らず、視線を奪われる。
「わたしの奴隷になりなさい」
「へ?」
「あ、誤解を招く言い方だったわね。わたしの配下となり、その力をわたしと我が軍のために役立てなさい」
誤解?
むしろ本音では?
と突っ込みたいところをぐっとこらえる。
「いや、急に言われましても……ミストラルもアレク武器店の再建も終わってませんし」
「いいこと?これから間違いなくアルバレストとの戦争になるわ。かの国は人心に乱れありといえど、ひとかどの軍事大国よ。一方の我が国はここ数十年は戦争らしい戦争をしていない」
「はぁ、そうなんですか」
「この子は、申し訳ないけれど確実に火種になる。サコン、あなたはこの国やこの子たちを守りたいのでしょう?」
「それはそう、ですが。俺の力が軍事や国防に役立つなんて自信が……」
「いいえ、わたしはあなたの働きを見たわ。市井の人々の噂にもなっている。あなたには間違いなく何かを変える力がある」
そう言ってフォルトゥナ大公が俺の目をじっと見つめる。
そこには先ほどまで湛えられていた微笑はもはやない。
一国の安全保障を預かる者としての真摯な表情が取って代わっていた。
ここまで見込まれたんじゃあ、ケツをまくって逃げ出すわけにもいかないな。
「……わかりました、メルが危険な目に遭ったのは、俺にも責任の一端があります。この国には恩義もある。俺で役に立てるなら、なんでもしましょう」
「武器店のことは安心なさい。我が軍はこれから戦力増強を図らなければならないのだから、武具の発注を回せるでしょう」
「そ、それは助かります」
「宿屋は…そうねぇ。軍で借り上げてしまいましょう。どのみち市中に防衛の指揮所が必要だと思っていたから」
「は、はぁ…そうですか」
なんのために改善してきたんだがよくわからなくなってしまったが、とりあえず俺の行動がお世話になった人たちへの恩返しに繋がるならいいか。
「これから成果を出そうというときに横槍を挟んで申し訳なく思うわ……でも、あなたの行動があればこそ、わたしも便宜を取り計らうのだし。やる気のないボロ宿だの潰れかけの武器屋だのなら、放っておくわよ」
どうやら俺の気持ちは見透かされていたようだ。
確かに、ようやく軌道に乗りかけてきたところで、さらに飛躍できるかどうか自分たちだけの腕を試したいという気持ちはある。
とはいえ、全てが自分の力だと思うのも傲慢だろう。
何はともあれ、自分の行動が少しずつ積み重なって、今の状況へと繋がってきたのは確かな事実だ。
「平和になったら、また一から自分たちで頑張りますよ」
「期待しているわ。わたしとしては、末長くわたしに尽くしてほしいのだけれど」
「えっ、あっ、はい?」
思わず声が裏返ってしまい、メルに冷たい目で睨まれる。
そんなメルにフォルトゥナ大公が声をかけた。
「まさかこんなところで再会するとはね、メルセデス王女。いえ、いまはメルでいいのかしら」
「ほんとうにお久しぶりでございます、フォルトゥナ大公殿下……いつぞやの舞踏会でお目にかかって以来ですね」
「舞踏会……そうね、先王陛下のお招きに預かって参上したときだったかしら」
「はい。アルバレストの貴族が、殿下の元に束になって求婚に訪れた様は、その後の語り草になっておりました」
「ふふ、懐かしいわ。あまりに軟弱すぎて束のまま刈り取られていった男たちね」
なんとなく、男たちがちぎっては投げられる様が脳裏に浮かんだが、あながち外れていないだろう。
この人の腕の確かさは、先ほど目の前でまざまざと見せつけられたからな。
そんじょそこらの貴族では眼鏡にかなうはずもない。
0
お気に入りに追加
919
あなたにおすすめの小説
喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜
田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。
謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった!
異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?
地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。
冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
貴方の隣で私は異世界を謳歌する
紅子
ファンタジー
あれ?わたし、こんなに小さかった?ここどこ?わたしは誰?
あああああ、どうやらわたしはトラックに跳ねられて異世界に来てしまったみたい。なんて、テンプレ。なんで森の中なのよ。せめて、街の近くに送ってよ!こんな幼女じゃ、すぐ死んじゃうよ。言わんこっちゃない。
わたし、どうなるの?
不定期更新 00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
女神に嫌われた俺に与えられたスキルは《逃げる》だった。
もる
ファンタジー
目覚めるとそこは地球とは違う世界だった。
怒る女神にブサイク認定され地上に落とされる俺はこの先生きのこることができるのか?
初投稿でのんびり書きます。
※23年6月20日追記
本作品、及び当作者の作品の名称(モンスター及び生き物名、都市名、異世界人名など作者が作った名称)を盗用したり真似たりするのはやめてください。
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる