元銀行員の俺が異世界で経営コンサルタントに転職しました

きゅちゃん

文字の大きさ
上 下
74 / 107
第二章 宿屋の経営改善

改装プロジェクト始動します

しおりを挟む
もうすっかり人通りも無くなった夜道を、月明かりと家々から漏れ出る明かりだけを頼りに駆け抜ける。
文字通りとっても温かい懐を抱えているので、慎重にではあるが。
これでうっかり落としたり、盗人にでも襲われたらそれこそこれまでの苦労が水の泡になってしまうからな…。

急足ならほんの十数分の距離ではあるが、気分的にはずいぶん長く感じてしまった。
気が急いていたのだろう。
ミストラルでは、ローグさんたちが不安そうな顔で待っていた。
とりあえず息が上がっていたので水をもらって一気に飲み干す。
ああ、一仕事終えた後の水は美味いなぁ…本当はビールがいいけど、大事な話の前にアルコールはご法度だ。

「というわけで」

ドン、と金貨の入った袋を置く。
袋の中身を見たローグさんもハンナさんも、驚きのあまり目が飛び出しそうになっている。

「あんたこれ…」

「当たり前ですけど、これ盗んできたわけじゃないですよ。正真正銘、ファサドさんが投資してくれたんです」

「なんとまぁ……ありがたいことじゃ」

ハンナさんが金貨袋を拝む。
ローグさんなんかもう泣いてるからね。

「何から何まで世話になっちまって…すまねぇなぁ」

「喜ぶのはまだ早いですよ。これはあくまでスタートラインですからね!」

このお金で余生を淡々と過ごそうというわけではないのだ。
こいつを元手に、ミストラルに活気を取り戻す。
お金を出してもらったんだから、もう後戻りはできない。
その意味では、資金調達できた喜びよりも、プレッシャーの方が大きいぐらいだ。
俺の緊張感が伝わったのか、ローグさんもハンナさんもすぐに真剣な表情になる。
この資金の重みを理解してくれたのだろう。

その夜は、その勢いで明け方近くまで改装の計画を話し合った。
みんな興奮していたので、疲れてはいたものの眠くはならなかった。
喧々諤々の熱い議論を交わした結果、投資とリニューアルの方針は概ね以下の通りに決まる。

・水回りと家具、寝具は宿屋のメインインフラなので総取り替えする。
・見栄えの悪くなった壁や扉などの外装系は原則自分たちで塗り直してカバーし、どうしてもダメな部分だけ取り替える。
・食堂は、ちょうどいい人が来てくれそうなのでその人にお願いし、売り上げの2割を家賃としてもらう。
・改装終了後、しばらくは毎日先着1組無料キャンペーンを張る。2組目は半額、3組目は25%オフにする。
・無料宿泊客にはチラシを渡して故郷に持ち帰って宣伝してもらう。
・メルに毎朝マランカの花を売りに来てもらう。
・巡礼に行くお客の代わりに朝一で宿の人間が神殿に儀式の申し込みにいく。

それから数日間は目の回るような忙しさだった。
ミストラルは一旦休業とし、ローグさんが昔馴染みの大工にリニューアルを依頼し、突貫工事がはじまった。
本来数週間ぐらいはかかるところを、棟梁に拝み倒して1週間で頑張ってもらうことにした。
その分工賃をはずむことにはなったが、それでも知人割引で結構勉強してくれたので助かった。
例によって俺は手作り看板とチラシを持って神殿付近をうろうろし、巡礼者たちにキャンペーンの説明をして回る。
今まさに巡礼している人たちが泊まる機会はもうあまりないだろうけれど、彼らが故郷に帰って身の回りの人に話してくれることに期待したのだ。
案の定、何人かの巡礼者たちが興味を持ってくれ、チラシを持ち帰ってくれた。

街の人たちも何事だろうとぽつぽつとミストラルを見にくるので、積極的に声をかけていく。
巡礼者たちを取り込むのはもちろんだが、将来的には街の人々にも「息抜きのために泊まる」という選択肢を提示していきたいと思っている。
もちろん食堂のお客さんとしても重要だし。
だからきちんと宣伝をしておき、認知度を高めておくことは何よりも大切だ。
結局、どんな商売であれ地域の人々とのつながりを断ち切って成り立つことはありえない。
地域に愛され、受け入れられること。
これはあらゆる企業やビジネスにとって必要なことである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...