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第二章 宿屋の経営改善
人事を尽くして天命を待つようです
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「早いな。もう持ってきたのか」
少し驚いた様子で迎えてくれたファサドだが、その驚きはもう一瞬で消えている。
俺がいったいどんな提案を持ってきたのかという興味のほうが勝ったのだろう。
いかにも辣腕の経営者らしい反応だ。
俺はかくかくしかじかと「セール&リースバック」の仕組みと、想定買取価格について説明した。
さすがにファサドはローグ夫妻よりははるかに飲み込みが早かった。
が、それでもこの世界に存在したことのない仕組みでもあるし、正直こじつけで設定している部分もあるので、説明にはかなり時間がかかる。
気がつけば、すでに外は真っ暗になっているようだった。
「ど、どうでしょうか…」
話していてなんだか自信が少し無くなってきたのが正直なところだが、他に策もないのであとは運を天に任せる他はない。
巧遅よりも拙速と思い、とるものもとりあえず駆けつけたのが果たして吉と出るかはわからない。
人事を尽くして天命を待つというやつだ。
「……」
無言を貫いたまま、ファサドが首を振り、傍を通り過ぎて部屋を出て行ってしまう。
うーん……やはりこんな急ごしらえの提案では無理だったのだろうか。
しばらく待ってみたが、ファサドが戻ってくる気配はない。
…どうやら、辣腕の実務家たるファサドを納得させることができなかったようだ。
先ほどまでフル回転していた心と脳が急に冷えていくような感覚に襲われる。
まだ何もかもダメになったというわけではないが、先ほどまで見えてきた希望の光がふいに消えてしまったのだ。
ローグさんたちにもなんと説明すればいいのか…。
無人の部屋の真ん中で、動く気力も湧かないままがっくりと崩折れて呆然としていると、
「はい、これ」
と肩を叩かれた。
振り返るとアレアが困ったように微笑んでいた。
なんだろう、慰めにお菓子でもくれるんだろうか。
「袋の中、見てみなさいよ」
「…?」
お菓子にしては妙に重いようだが…。
のたのたと袋を開いてみると、そこには見知らぬ金貨が20枚ほど納められているではないか。
「えっ…?これは…」
「どうだ!びっくりしたか!?もうダメだと思ったかぁ!?」
哄笑とともに部屋に闖入してきたのは、もちろんファサドであった。
「どういうことでしょう…」
嬉しいというよりも何がなんだかよく分からず、かろうじて紡げたのはその一言だった。
「なんだ、もっと喜ばんのか?」
「お父様は毎度悪ふざけがすぎます!」
アレアの肘打ちが綺麗にファサドの鳩尾に決まった。
あーあれは痛いだろうねぇ。
「ふぐっ!?せ、成長したな娘よ…胸以外は」
「…」
あ、今開けてはいけない扉を開けたなこの人…
なんか、アレアのこめかみからプチンって音がしたもんね。
本当に怒ると、人ってむしろ笑顔になるんだなぁ……
「…ごめんなさい」
禁断の領域に足を踏み入れかけたことを悟ったのか、ファサドが秒速で謝ったのでなんとかことなきを得たようだった。
「えー、つまりだな、それ、自由に使ってくれ。ご希望の200ファジールあるから。」
変な空気を払いのけようとしてか、むやみとえへんえへん咳払いしながらファサドが言う。
もう、威厳全然ないですけどね……。
「お借りしていいんですか?」
まだ信じられないので念のため確認する。
だってさっきあんなに「話にならんな」オーラを出してたじゃん。
「いやー、なんかこう、ポンと貸してしまうと、ありがたみも薄いかなと思ってね」
そういってニヤリ、とファサドが笑う。
ああ、この人はいつまでたっても悪戯小僧タイプの人なんだな…。
見事に一杯食わされてしまったが、種あかしをされれば別段腹も立たない。
むしろ、辣腕オーラを出しつつもこんなに遊び心のあるおっさんはカッコいいと思う。
まぁ…俺の心臓には悪かったけども。
少し驚いた様子で迎えてくれたファサドだが、その驚きはもう一瞬で消えている。
俺がいったいどんな提案を持ってきたのかという興味のほうが勝ったのだろう。
いかにも辣腕の経営者らしい反応だ。
俺はかくかくしかじかと「セール&リースバック」の仕組みと、想定買取価格について説明した。
さすがにファサドはローグ夫妻よりははるかに飲み込みが早かった。
が、それでもこの世界に存在したことのない仕組みでもあるし、正直こじつけで設定している部分もあるので、説明にはかなり時間がかかる。
気がつけば、すでに外は真っ暗になっているようだった。
「ど、どうでしょうか…」
話していてなんだか自信が少し無くなってきたのが正直なところだが、他に策もないのであとは運を天に任せる他はない。
巧遅よりも拙速と思い、とるものもとりあえず駆けつけたのが果たして吉と出るかはわからない。
人事を尽くして天命を待つというやつだ。
「……」
無言を貫いたまま、ファサドが首を振り、傍を通り過ぎて部屋を出て行ってしまう。
うーん……やはりこんな急ごしらえの提案では無理だったのだろうか。
しばらく待ってみたが、ファサドが戻ってくる気配はない。
…どうやら、辣腕の実務家たるファサドを納得させることができなかったようだ。
先ほどまでフル回転していた心と脳が急に冷えていくような感覚に襲われる。
まだ何もかもダメになったというわけではないが、先ほどまで見えてきた希望の光がふいに消えてしまったのだ。
ローグさんたちにもなんと説明すればいいのか…。
無人の部屋の真ん中で、動く気力も湧かないままがっくりと崩折れて呆然としていると、
「はい、これ」
と肩を叩かれた。
振り返るとアレアが困ったように微笑んでいた。
なんだろう、慰めにお菓子でもくれるんだろうか。
「袋の中、見てみなさいよ」
「…?」
お菓子にしては妙に重いようだが…。
のたのたと袋を開いてみると、そこには見知らぬ金貨が20枚ほど納められているではないか。
「えっ…?これは…」
「どうだ!びっくりしたか!?もうダメだと思ったかぁ!?」
哄笑とともに部屋に闖入してきたのは、もちろんファサドであった。
「どういうことでしょう…」
嬉しいというよりも何がなんだかよく分からず、かろうじて紡げたのはその一言だった。
「なんだ、もっと喜ばんのか?」
「お父様は毎度悪ふざけがすぎます!」
アレアの肘打ちが綺麗にファサドの鳩尾に決まった。
あーあれは痛いだろうねぇ。
「ふぐっ!?せ、成長したな娘よ…胸以外は」
「…」
あ、今開けてはいけない扉を開けたなこの人…
なんか、アレアのこめかみからプチンって音がしたもんね。
本当に怒ると、人ってむしろ笑顔になるんだなぁ……
「…ごめんなさい」
禁断の領域に足を踏み入れかけたことを悟ったのか、ファサドが秒速で謝ったのでなんとかことなきを得たようだった。
「えー、つまりだな、それ、自由に使ってくれ。ご希望の200ファジールあるから。」
変な空気を払いのけようとしてか、むやみとえへんえへん咳払いしながらファサドが言う。
もう、威厳全然ないですけどね……。
「お借りしていいんですか?」
まだ信じられないので念のため確認する。
だってさっきあんなに「話にならんな」オーラを出してたじゃん。
「いやー、なんかこう、ポンと貸してしまうと、ありがたみも薄いかなと思ってね」
そういってニヤリ、とファサドが笑う。
ああ、この人はいつまでたっても悪戯小僧タイプの人なんだな…。
見事に一杯食わされてしまったが、種あかしをされれば別段腹も立たない。
むしろ、辣腕オーラを出しつつもこんなに遊び心のあるおっさんはカッコいいと思う。
まぁ…俺の心臓には悪かったけども。
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