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第二章 宿屋の経営改善

善は急ぐようです

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まず、客単価は現状より引き上げる。
リニューアルもするしサービスも強化するので当然のことだ。
少し強気で3,000円に値上げしてみる、というかそれに相応しい宿屋にするしかない。
ただし稼働率は40%とかなり低めに設定する。
現代日本のビジネスホテルの平均稼働率は7割弱だが、時代も旅行ニーズも違うのでそこまで高くは設定できない。
とはいえ首都にあることと、巡礼という宗教に裏打ちされた強いニーズがあることも踏まえての数値だ。

19人×40%×3,000×30日×12ヶ月=8,208,000円
これが年間の「売上高」だ。
ここから、あげるべき利益を先に決めてしまう。
現代日本におけるホテルの利益率、つまり売上高に対してどれぐらい利益が残るかという数値は実はかなり低く、5%も残れば超優良ホテルである。
ここでいう利益とは、本業で稼ぎ出した利益、すなわち「経常利益」の率をいう。

ということは、ミストラルであれば2%も残れば御の字、というかそれすらも夢のまた夢感はあるが、とりあえずは目指してみるしかない。
すなわち、諸々さっ引いても1年間で164,160円は残るようにしたい、ということだ。
ここに、老夫婦二人の生活費も乗ってくる。
二人の意見も聞きつつ、家賃はいらないが食費だのなんだので、年間100万円は掛かりそうだという見当だ。

8,208,000-1,000,000-164,160=7,043,840円が、ホテルの年間運営予算 (多分に願望も含む)である。
で、肝心のミストラルの売却価額だが…年間収益が164,160円として、還元利回りを少し高めの8%としてみよう。

164,160円/8%=2,052,000円

本当に雑な計算ではあるが、これがざっくりとしたミストラルの売却価額ということになる。

「ざっと、200ファジールってところですかね…」

二人に今言ったような考えた方を説明した上で価格を提示すると、二人はぽかんと口を開けている。
正直、高いのか低いのかよくわからないのだろう。

「このボロ宿がそんなお金になるもんかねぇ」

ローグさんがさっぱりわからん、というように呟いた。
一般的な感覚からしたらもっともな話だ。
現代の日本に暮らす人でさえ、金融業界人でもない限りなかなかピンとこない話だろう。

「いえ、建物の価値というよりは建物が稼ぎ出すであろうお金に着目しているんですよ」

「そんなに稼げるのかい?」

「稼ぐように頑張るんです!」

そう、これはあくまで絵空事に過ぎない。
実際のミストラルはまだ1ファズールだって稼ぎ出してはいない。
だからやるしかないのである。

「ミストラルはもうずっとそのファサドって人のものになっちまうのかい?」

「いや、それは『買い戻し特約』をつけられるよう頼むつもりです」

ミストラルを手放すのはあくまで資金調達のための一時的な手段だ。
盛り返して稼ぎ出せるようになったら、ファサドから買い戻せるよう頼むつもりだった。
もちろんその為には、当初の売却価格2,052,000円よりも高いお金をファサドに払う必要があるだろう。
いくらになるかは交渉してみるしかない。

とにかく今は、ファサドを納得させてお金を出してもらい、ミストラルを改装し、リニューアルキャンペーンを張ることが先決だ。
なんども言うが、善は急げ。
ビジネスにおけるスピード感は刺身の鮮度のようなものである。

かなり強引ではあるが、ミストラルの「セール&リースバック」についてローグさん夫妻の了解を取り付けると、その足で再び「エンドラ」へと引き返す。
「コンサルティング」スキルはともかく、肉体は全く鍛えられていないせいか、ぜいぜいと息が上がってしまった。
が、なんとかまだ日は沈んでいないので、再訪してもギリギリ失礼ではなさそうだ。
心配して付き添うと言い張るアレアをなだめすかし、男同士の話だからとよくわからん言い訳をして一人でファサドの元へ向かう。
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