元銀行員の俺が異世界で経営コンサルタントに転職しました

きゅちゃん

文字の大きさ
上 下
61 / 107
第二章 宿屋の経営改善

お父様を紹介されるようです

しおりを挟む
「アレア、サコンだけど入るぞっ!」

たとえ風呂に入っていても聞こえるように大声を出すと、中から何かを取り落とすような大きな音がした。

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってなさい!!」

…待つこと数分後。
きちんと衣服は身につけているものの、髪を濡らしたアレアが息を切らしながら扉を開けてくれた。
どう見ても風呂上りです。ありがとうございました。

「…ほんとに風呂に入ってんじゃん…あぶねぇ!」

「わたしが嘘をつくような人間に見えると?」

リンが心外だ、とでもいうように肩をすくめる。
こいつ、確信犯だ…。

「そういう問題かよ…クビになるんじゃなかったのか?」

「面白い光景が見れるなら、私のクビなんて安いものだ」

自分の雇用より面白さを優先するその姿勢、嫌いじゃないけど俺を巻き込まないでほしい…。

「ちょっと、二人で何わけのわかんない会話してんのよ!?」

「いえ、ではわたしはこれで消えますのでお二人でどうぞご・ゆ・っ・く・り」

わざとらしく「ごゆっくり」を強調していうやいなや、忍者のようにさささっと消えていくリン。
その素早い身のこなしに唖然とするが、気を取り直して本題に入ることにする。

「えー、あー、その、なんだ。実は今、宿屋のお手伝いをしてて、ちょっと相談に乗ってもらえないかと思ってね」

「あ、あら、武器屋はクビになったのかしら?」

「いや、そうじゃない」

「なんだ、つまんない」

なぜか残念そうにするアレア。
いや、人の不幸を喜ばんでほしい。

「とりあえずのところ、アレクさんのところは大丈夫そうなんで、次は『ミストラル』の改善を頼まれたんだよ」

「ミストラル…ああ、昔は結構流行ってたって話だけど、今はだいぶ…あれね」

ストレートな表現は避けたようだが、やはり街の人々から見てもミストラルはやばいんだな…。
そういう評判が一度ついてしまうと、イメージの悪化は避けられない。
旅人たちもある程度そういったイメージに影響を受けるから、ますますお客さんが減るという悪循環だ。

「そう、正直経営が危ない。だからなんとかテコ入れをしたいんだ」

「武器店で見せた辣腕再びってところかしら」

「そんな大したもんじゃないけど、でも俺にできる限りのことはしたい…で、だ」

「先立つものが必要ってところかしら?」

さすが商売人の娘だけあって、話が早い。
俺の訪問目的を早くも察してくれたようだった。

「そう、その通り。ちょっとしたキャンペーンを張りたいんだけど、宿屋だから少し手を入れるにしてもそれなりにお金がかかりそうなんだ」

「まぁ、設備が勝負の商売だものね…」

「率直に言って、お金を貸してくれるところを探してる」

「なるほど…お金についてはまだアタシもお父様から教わってないのよね」

「そうか…」

アレアならひょっとしたらと期待をかけていたので、失望が顔に出てしまったのだろう。
慌てたようにアレアが言葉を続ける。

「あー、まぁあんたさえよかったら、お父様に紹介してあげてもいいわよ。自分で直接いろいろ聞いたら?」

「え、お父さんを…?いいのかな」

それは正直すごく助かる。
けど…ちょっとおっかない気もする。
アレアのお父さんは貴族の称号も持っているということだし、これだけの豪商を束ねる人なのだ。
ひとかどの人物ということだろう。

「べ、べつに変な意味で紹介するんじゃないからね。あくまで困っているあんたを助けようと…」

「変な意味ってどんな意味…」

「うっさいわね、ちょっとここで待ってなさい」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

生前SEやってた俺は異世界で…

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん
ファンタジー
旧タイトル 前世の職業で異世界無双~生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています~ ※書籍化に伴い、タイトル変更しました。 書籍化情報 イラストレーター SamuraiG さん 第一巻発売日 2017/02/21 ※場所によっては2、3日のずれがあるそうです。  職業・SE(システム・エンジニア)。年齢38歳。独身。 死因、過労と不摂生による急性心不全…… そうあの日、俺は確かに会社で倒れて死んだはずだった…… なのに、気が付けば何故か中世ヨーロッパ風の異世界で文字通り第二の人生を歩んでいた。 俺は一念発起し、あくせく働く事の無い今度こそゆったりした人生を生きるのだと決意した!! 忙しさのあまり過労死してしまったおっさんの、異世界まったりライフファンタジーです。 ※2017/02/06  書籍化に伴い、該当部分(プロローグから17話まで)の掲載を取り下げました。  該当部分に関しましては、後日ダイジェストという形で再掲載を予定しています。 2017/02/07  書籍一巻該当部分のダイジェストを公開しました。 2017/03/18  「前世の職業で異世界無双~生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています~」の原文を撤去。  新しく別ページにて管理しています。http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/258103414/  気になる方がいましたら、作者のwebコンテンツからどうぞ。 読んで下っている方々にはご迷惑を掛けると思いますが、ご了承下さい。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...