元銀行員の俺が異世界で経営コンサルタントに転職しました

第二章 宿屋の経営改善

まずは相談してみましょう

さて、ミストラルが調達するとすれば、理屈的には「直接金融」に頼るしかない。
大きな会社でもない、むしろ零細のミストラルに対して投資してもいいという人を見つけるのはなかなか難しいだろう。
そもそもそれ以前に、「間接金融」が成り立つのは、株式や債券といった概念が存在しなければならないし、それが取引される「市場」がなくてはならない。
この世界の金融市場がどうなっているかはまだ分からないが、恐らくはまだ未登場の概念だろう。
日本に「株式会社」、つまり株式を発行して資金を調達する会社が登場したのは1873年、つまりごく最近のことなのだ。

とすると、この世界にいわゆる「銀行」的な存在が居てくれれば、そこに頼るのが一番だが…果たして銀行もあるのだろうか。
実は株式会社と比べると、銀行の歴史は相当に古い。
一説によると、紀元前3000年前の古代バビロニア王国では、はやくも穀物や家畜を貸し付ける仕組みがあったらしい。
遺跡から発掘された粘土板には、担保や金利の設定、不動産取引契約、投資契約など高度な金融経済機能に基づく記録が残されているという。
つまり原始的な銀行のようなものは、西暦よりもはるか昔から存在したのだ。
それだけ人類文明の発展と金融は切り離せない関係にあるといってもいいだろう。
ちなみに、いわゆる「貸付」が特に発達したのは12世紀ごろのイタリアからだと言われている。
銀行を英語で言うと「バンク」だが、これはイタリア語の「ベンチ」という意味に由来している。
なんでも、両替などの取引をする際にベンチを使ったからだそうだ。
さらに余談だが、この「バンク」を日本語に訳す際、「金行」と「銀行」、2つの案があったらしい。
が、語呂の良さや、当時参考にした海外の銀行が銀を貨幣として採用していたため、「銀行」に決まったとされている。

「そうだ、こういう時はアレアに聞いてみるか」

「エンドラ」であれば同じ商売人だし、取り扱うお金の大きさもアレク武器店とは桁違いだろうから、詳しいかもしれない。
ひょっとしたらこの世界の銀行についても知っている可能性がある。

エンドラの扉をくぐると、以前取り次いでくれたガタイのいい店員が飛んできて、今度は非常に愛想よく迎えてくれた。
どうやら「お嬢様のご友人」と認識してくれるようになったらしい。
以前と打って変わって揉み手をせんばかりの態度にはちょっと複雑な気分だが、粗末に扱われるよりはマシだな。
ガタイのいい店員と入れ替わりで現れたリンについて、再びアレアの部屋に案内してもらう。

「あの、この前みたいなことにならないでしょうね？」

念のため確認しておく。
この前は眼福…いや、ひどい目にあったからな。
俺の警戒を感じ取ったのか、リンはイタズラっぽく目を細めながらニヤニヤしてそらとぼけてくる。

「この前みたいなこと、とは？」

「いや、だから入ったらすごい格好…みたいな」

「ほぅ、また期待しているのかな？」

「いや、だからそうではなく」

「あられもない姿のお嬢様もなかなかかわいかっただろ？」

「え、まぁそれはそうだけど…っておい！」

「そうだな、今度は入浴中かもしれないぞ」

「ちょ、それはだめでしょう！」

「フフ、このスケベめ…今度は大丈夫だ。次に同じようなことをしたらクビだと言われてしまったからな」

「そりゃそうでしょう。からかうのもいい加減にしてくださいよ」

「心配なら、自分で大声で入るぞと言ってから入ればいいだろう」

もちろん言われなくてもそうするつもりだった。
このメイドは何を企んでいるかわかったもんじゃないからな…。