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第二章 宿屋の経営改善

次の一手を考えましょう

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「いいでしょう。あなたはなかなかの智慧者のようだ。ひょっとしたら私のほうからも何かお願いすることがあるかもしれませんし」

「はい、俺で何かのお役に立てるならば喜んで」

エルネストという神官の知己を得られたのは大収穫と言っていいだろう。
この世界の人々とこうして少しずつ繋がれていくことに、打算は抜きで純粋に嬉しい気持ちが湧く。
世界とは、つまるところ人と人との繋がりの総和だろう。
誰かと繋がりができれば、それだけこの世界へと深く根を下ろしたことになるのではないだろうか。
全く別の世界から転生した俺にとっては、とても意味のあることに感じられる。

そんな感傷を抱きつつ神殿を後にして宿に戻る道すがら、次に打つべき手を考えることにする。
巡礼者たちが泊まった際の利便性をあげる手立てはすでに布石を打った。
まだ実現には至っていないものの、うまくいけば必ず有効な一手となるはずだ。
でも、そもそもまずは泊まってもらえないと意味がない。

「無料で宿泊キャンペーンを張るのはありかもしれないな…」

不動産を借りる時のフリーレントと基本的には同じアイデアになるが、まずはコストをフリーにして敷居を下げる手がある。
とにかくまずは泊まってもらわないことには、ミストラルの価値を感じてもらえないだろう。
宿泊とは体験型のサービスであり、いかに言葉を尽くして宣伝したところでなかなか伝わるものではない。

まずは無料で泊まる気になってもらい、その人たちの口コミが広がっていくことに期待するのだ。
ただ、長期に借りることが前提の不動産と異なり、宿はせいぜい数泊だから、無料宿泊はコストが大きい。
むやみやたらと無料にすると、お客さんが、提供されるモノやサービスを「価値の低いもの」と考えるようになってしまうので、使いどころが肝心だ。
これはセールの乱発と同じ話で、何でも価格を下げればいいというわけではないということだ。
特にインパクトの大きい「無料」にするのならば、とにかくそれなりの理由をつけることが必要である。
あくまでも例外で特別なのだ、と思ってもらわないと、無料が当たり前になってしまうからだ。

では、無料にしてもおかしくないような何かが、今の「ミストラル」にあるかといえば、正直言って、無い。
レストランのリニューアルを予定はしているものの、まだ新シェフが見つかるかもわからないし、インパクトとして弱いだろう。
もっとこう、大幅なリニューアルでもしたいというのが本音だ。
せめて水回りと外壁をきれいにできるだけでもかなり印象が違うはずなんだが。

「結局、先立つものが必要なんだよなぁ…」

思わず独り言がこぼれてしまう。
ミストラルにはカンフル剤が必要だが、アレク武器店のように商品ではなく施設で勝負する商売だから、武器店で使ったリニューアルセールのような手法は使えない。
となると、やはり資金調達を検討したくなるのは元銀行員の性というものだろう。
お金があればなんでもできる、とは言わないが、少なくともビジネスの世界においてはだいたいのことができる。
しかしどこからか湧いてくるわけではないから、「調達」してこなければならない。
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