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第二章 宿屋の経営改善

話のわかるやつです

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神殿の一角に石造りの小部屋があり、そこで神官たちが儀式の受付を行っているようだった。
神官たちの服装は、白を基調としているのは巡礼者と同じだが、ところどころに豪華な刺繍が施されており、彼らがそれなりの権勢を誇ることをうかがわせる。

「あの、ちょっとお伺いしたいんですが?」

何から書き物をしている神経質そうな顔の神官におそるおそる聞いてみる。
情報はできるだけ得ておきたいから、人見知りしている場合ではないのだが、やはり緊張した。
ましてこちらは一介の転生者、向こうは権勢を誇る神官の一員だ。

「ん?なんですか?」

書類から目をちらりとも上げず神官が聞き返してきた。
とりあえず怒られたりしなかっただけでなく、敬語の返事が返ってきて少し驚く。

「巡礼者向けの宿屋をやっているものなのですが…洗礼の儀式の受付は本人じゃなくても構わないのでしょうか?」

「それはどういうことです?」

そこで神官が手を止め、鋭い視線を向けてきた。
よく見ると、仕事はできそうなタイプだけど、なんとなく友達が少なそうだなこの人。
神官というよりは、いかにも能吏という感じで役所の窓口とかにいそうな雰囲気がある。

「宿の人間が代理で申し込んでおいて、しばらくしたら本人たちが来るようにしたら効率がいいのではと思いまして」

「ほぅ…そんなことを聞いてくる人は初めてですね。まぁ、時間がきたらこちらは名前を呼ぶだけなので、別に誰が受付をしても問題ないでしょう。あらかじめ喜捨は払っていただくことになるが」

「なるほど。もし意外に早く呼ばれてしまって、その時居合わせなかったらどうなりますか?」

「その時は飛ばす。呼ばれて儀式を済ませた人間はこちらで消し込んでいくので、次のタイミングで名前が残っていればまた呼ばれますよ」

なるほど、その仕組みであれば事前申し込みでもなんの問題もなさそうだ。
受付から呼ばれるまでの時間がわからないので、万一呼ばれるのが早くて居合わせなかったときに申し込みが無駄になるなら意味がない。
だが、名前さえ残っていれば毎回呼ばれるのであればその心配はないということだ。

「ありがとうございました。あ、僕は宿屋『ミストラル』の人間で、うちに泊まる巡礼者さんの申し込みは、宿の人間がまとめてやろうと思いますので宜しくお願いします」

「わかりました。他の神官に何かを言われたら、エルネストが許可したと言いなさい。それで問題ないでしょう。ただし何かトラブルがあっても我々は一切関知しませんので、そのおつもりで。」

エルネストというのがこの神官の名前らしい。
うん、やはりこの神官は見込み通り仕事のできるタイプの人間だ。
話が早いし、先例のないことだからと言ってむやみと拒絶したりしない。
事の本質を見抜いた上で、リスクがないと判断したことは許容してくれるようだ。
とにかくダメ、の一点張りでもおかしくないと覚悟していただけに、たまたま物分かりのいい神官がいて助かった。
おまけに他の神官に咎められた時の免罪符として自分の名前も出していいという。
ひょっとすると見た目よりもいい人かもしれない。

「もちろんです。あ、ちなみに喜捨って一人おいくらなんでしょうか?」

巡礼者たちからお金を預かるのであれば、その金額の多寡は重要なポイントだ。
あまりに大きいのであれば、宿が負うリスクも大きくなる。
どんな時代であれ、金銭を預かるというのは重大な責任を伴う行為だ。
元銀行員である俺にとって、たとえ1円であってもお金にはそれなりの重みを感じざるをえない。
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