元銀行員の俺が異世界で経営コンサルタントに転職しました

きゅちゃん

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第二章 宿屋の経営改善

花売りの少女と出会ったようです

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古来より、社会と宗教は密接な関わりを持ってきた。
むしろ不可分と言って良いだろう。
「政教分離」、つまり政治と宗教が切り離されるべきという考え方は中世になって出現したもので、それ以前の古代においてはむしろ政治と宗教は一体であった。
現代の日本ですら、特定の宗教団体の支持者が母体になっている政党があるぐらいなので、「政教分離」が徹底されているかというとはっきりとは断言できない部分もあるぐらいだ。
世界的に見ても憲法などで明確に規定しているのはアメリカ、日本、フランスなど一部の国だった記憶がある。
イランやアフガニスタンなどのように、政治と宗教が蜜月関係を維持している国もあれば、「コンコルダート」と呼ばれる協定を結び、分離と密着の間ぐらいの距離感を維持しているドイツやイタリアのような国々もある。
とはいえニュースを見ていれば、ローマ教皇やイスラム教の指導者たちの言動は世界の政治情勢に大きな影響を与えていることは明らかだ。
結局のところ、政治も宗教も高度な社会的行為という意味では共通の根底があり、永遠に切り離せないものなのかもしれない。

ここエル・アジル王国ではどの程度宗教に政治的影響力があるのかはまだ知らないが、わざわざ巡礼する人が大半だということは、かなり密接だと考えて良いはずだ。
大神官の支配する神殿の大きさや、王城のすぐ近くに建設を許されていることからしても、相当な特権を与えられていることは間違いないだろう。
言い方は悪いが、商圏としては巨大だとも言える。

イドリス大神殿は、王城の背後に聳える山脈の麓にその威容を見せつけている。
さすがに王城とまではいかないが、それでもかなりの大きさだ。
十数メートルはありそうな高い天井と、あちこちに据え付けられた繊細な彫刻が、見るものを厳粛な気持ちにさせる。
神殿の入り口は全ての人に開かれているようで、特にチェックみたいなものはない。
大きな広場があり、そこで大勢の花売りたちが巡礼者たちに群がっているのが見えた。

これが先ほど話に聞いた「マランカの花」だろう。
百合に似た優雅な白い花を、小さな束にまとめてある。
アガレスト正教の主神たる女神アリアンナが愛したと言われ、巡礼者はおしなべてこの花を捧げることになっているらしい。
白い装束を身にまとった巡礼者たちを奪い合うように、花売りたちが口々に呼びかけている。
どれを買っても大差は無さそうだが、相場をよく知らない巡礼者たちをカモにしようとふっかける者たちもいるらしかった。

見れば、混み合う広場から離れた片隅で、ぽつんと花籠を抱えて佇む少女がいる。
他の花売りたちのように押しかけていくことはしない、というかできない感じのようだった。
フードの奥に隠された静謐な美貌にはっとさせられるが、どこか諦めたような表情に覆われていて、喧騒をぼんやりと眺めている様子に引っかかるものを感じる。

「君は花を売らないの?」

「…売りたいけど、神殿の近くまでは行けないから」

思わず声をかけてしまったが、少女は気だるげながらも一応返事をしてくれる。
小さい、けれど透き通るような声だった。

「あの辺で売るには、何か資格みたいなものがいるってこと?」

「…最近仕切り始めた奴らがいて、そいつらに賄賂を渡さないと追い払われる」

「…なるほど」

「これぐらい離れていれば見逃してもらえるみたいだけど、まぁこんなところじゃ売れないよね」

自嘲するように少女の頬が歪んだ。

「よかったら、1つ売ってくれないかな?」

「…巡礼者でもないのに?同情ならいらないわ」

少女の声が険しくなり、警戒するように後ずさられてしまった。
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