53 / 107
第二章 宿屋の経営改善
花売りの少女と出会ったようです
しおりを挟む
古来より、社会と宗教は密接な関わりを持ってきた。
むしろ不可分と言って良いだろう。
「政教分離」、つまり政治と宗教が切り離されるべきという考え方は中世になって出現したもので、それ以前の古代においてはむしろ政治と宗教は一体であった。
現代の日本ですら、特定の宗教団体の支持者が母体になっている政党があるぐらいなので、「政教分離」が徹底されているかというとはっきりとは断言できない部分もあるぐらいだ。
世界的に見ても憲法などで明確に規定しているのはアメリカ、日本、フランスなど一部の国だった記憶がある。
イランやアフガニスタンなどのように、政治と宗教が蜜月関係を維持している国もあれば、「コンコルダート」と呼ばれる協定を結び、分離と密着の間ぐらいの距離感を維持しているドイツやイタリアのような国々もある。
とはいえニュースを見ていれば、ローマ教皇やイスラム教の指導者たちの言動は世界の政治情勢に大きな影響を与えていることは明らかだ。
結局のところ、政治も宗教も高度な社会的行為という意味では共通の根底があり、永遠に切り離せないものなのかもしれない。
ここエル・アジル王国ではどの程度宗教に政治的影響力があるのかはまだ知らないが、わざわざ巡礼する人が大半だということは、かなり密接だと考えて良いはずだ。
大神官の支配する神殿の大きさや、王城のすぐ近くに建設を許されていることからしても、相当な特権を与えられていることは間違いないだろう。
言い方は悪いが、商圏としては巨大だとも言える。
イドリス大神殿は、王城の背後に聳える山脈の麓にその威容を見せつけている。
さすがに王城とまではいかないが、それでもかなりの大きさだ。
十数メートルはありそうな高い天井と、あちこちに据え付けられた繊細な彫刻が、見るものを厳粛な気持ちにさせる。
神殿の入り口は全ての人に開かれているようで、特にチェックみたいなものはない。
大きな広場があり、そこで大勢の花売りたちが巡礼者たちに群がっているのが見えた。
これが先ほど話に聞いた「マランカの花」だろう。
百合に似た優雅な白い花を、小さな束にまとめてある。
アガレスト正教の主神たる女神アリアンナが愛したと言われ、巡礼者はおしなべてこの花を捧げることになっているらしい。
白い装束を身にまとった巡礼者たちを奪い合うように、花売りたちが口々に呼びかけている。
どれを買っても大差は無さそうだが、相場をよく知らない巡礼者たちをカモにしようとふっかける者たちもいるらしかった。
見れば、混み合う広場から離れた片隅で、ぽつんと花籠を抱えて佇む少女がいる。
他の花売りたちのように押しかけていくことはしない、というかできない感じのようだった。
フードの奥に隠された静謐な美貌にはっとさせられるが、どこか諦めたような表情に覆われていて、喧騒をぼんやりと眺めている様子に引っかかるものを感じる。
「君は花を売らないの?」
「…売りたいけど、神殿の近くまでは行けないから」
思わず声をかけてしまったが、少女は気だるげながらも一応返事をしてくれる。
小さい、けれど透き通るような声だった。
「あの辺で売るには、何か資格みたいなものがいるってこと?」
「…最近仕切り始めた奴らがいて、そいつらに賄賂を渡さないと追い払われる」
「…なるほど」
「これぐらい離れていれば見逃してもらえるみたいだけど、まぁこんなところじゃ売れないよね」
自嘲するように少女の頬が歪んだ。
「よかったら、1つ売ってくれないかな?」
「…巡礼者でもないのに?同情ならいらないわ」
少女の声が険しくなり、警戒するように後ずさられてしまった。
むしろ不可分と言って良いだろう。
「政教分離」、つまり政治と宗教が切り離されるべきという考え方は中世になって出現したもので、それ以前の古代においてはむしろ政治と宗教は一体であった。
現代の日本ですら、特定の宗教団体の支持者が母体になっている政党があるぐらいなので、「政教分離」が徹底されているかというとはっきりとは断言できない部分もあるぐらいだ。
世界的に見ても憲法などで明確に規定しているのはアメリカ、日本、フランスなど一部の国だった記憶がある。
イランやアフガニスタンなどのように、政治と宗教が蜜月関係を維持している国もあれば、「コンコルダート」と呼ばれる協定を結び、分離と密着の間ぐらいの距離感を維持しているドイツやイタリアのような国々もある。
とはいえニュースを見ていれば、ローマ教皇やイスラム教の指導者たちの言動は世界の政治情勢に大きな影響を与えていることは明らかだ。
結局のところ、政治も宗教も高度な社会的行為という意味では共通の根底があり、永遠に切り離せないものなのかもしれない。
ここエル・アジル王国ではどの程度宗教に政治的影響力があるのかはまだ知らないが、わざわざ巡礼する人が大半だということは、かなり密接だと考えて良いはずだ。
大神官の支配する神殿の大きさや、王城のすぐ近くに建設を許されていることからしても、相当な特権を与えられていることは間違いないだろう。
言い方は悪いが、商圏としては巨大だとも言える。
イドリス大神殿は、王城の背後に聳える山脈の麓にその威容を見せつけている。
さすがに王城とまではいかないが、それでもかなりの大きさだ。
十数メートルはありそうな高い天井と、あちこちに据え付けられた繊細な彫刻が、見るものを厳粛な気持ちにさせる。
神殿の入り口は全ての人に開かれているようで、特にチェックみたいなものはない。
大きな広場があり、そこで大勢の花売りたちが巡礼者たちに群がっているのが見えた。
これが先ほど話に聞いた「マランカの花」だろう。
百合に似た優雅な白い花を、小さな束にまとめてある。
アガレスト正教の主神たる女神アリアンナが愛したと言われ、巡礼者はおしなべてこの花を捧げることになっているらしい。
白い装束を身にまとった巡礼者たちを奪い合うように、花売りたちが口々に呼びかけている。
どれを買っても大差は無さそうだが、相場をよく知らない巡礼者たちをカモにしようとふっかける者たちもいるらしかった。
見れば、混み合う広場から離れた片隅で、ぽつんと花籠を抱えて佇む少女がいる。
他の花売りたちのように押しかけていくことはしない、というかできない感じのようだった。
フードの奥に隠された静謐な美貌にはっとさせられるが、どこか諦めたような表情に覆われていて、喧騒をぼんやりと眺めている様子に引っかかるものを感じる。
「君は花を売らないの?」
「…売りたいけど、神殿の近くまでは行けないから」
思わず声をかけてしまったが、少女は気だるげながらも一応返事をしてくれる。
小さい、けれど透き通るような声だった。
「あの辺で売るには、何か資格みたいなものがいるってこと?」
「…最近仕切り始めた奴らがいて、そいつらに賄賂を渡さないと追い払われる」
「…なるほど」
「これぐらい離れていれば見逃してもらえるみたいだけど、まぁこんなところじゃ売れないよね」
自嘲するように少女の頬が歪んだ。
「よかったら、1つ売ってくれないかな?」
「…巡礼者でもないのに?同情ならいらないわ」
少女の声が険しくなり、警戒するように後ずさられてしまった。
0
お気に入りに追加
918
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。
みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜
甲殻類パエリア
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。
秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。
——パンである。
異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。
というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。
そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる