元銀行員の俺が異世界で経営コンサルタントに転職しました

きゅちゃん

文字の大きさ
上 下
48 / 107
第二章 宿屋の経営改善

目指すべき姿を定義しましょう

しおりを挟む
翌朝、いつもよりかなり早めに起きて掃除に取り掛かる。
自分の部屋はもちろん、宿の目につくところを大雑把でもいいので綺麗にしていくのだ。
アレクじいさんからは、しばらくは宿の経営改善に好きに時間を使っていいという伝言をもらっている。
もちろん武器店が本職なのでこまめに顔を出すつもりだが、しばらくはこの「ミストラル」復興に力を注ぐつもりだった。

はたきで埃を払いつつ、汚れがひどいところは濡らした布でこすって汚れを落としていくが…なかなか厄介だった。
だが、いくら飯がうまかろうと、サービスが良かろうと、清潔感がなかったら全て台無しになってしまう。
もちろん、清潔感があっても大きなプラスにはならない。
それが当然だからだ。
しかし清潔感のなさは極めて大きなマイナスになる。
つまり清潔感の有無というのは、加点要素ではなく減点要素なのだ。
もっとも、寝泊まりするところができれば綺麗であって欲しいというのは、人間の本能の求めるところではないだろうか。
中世ヨーロッパぐらいの宿屋はずいぶん不潔だったという話もあるが…何も悪いところを真似る必要はないだろう。

掃除しながら宿の設備を把握していくと、小さいながら石造りの湯浴みスペースや、原始的な水洗便所も揃っていることがわかった。
どうやら、それほど高度なものではないが、一応下水のシステムは整備されているらしい。
これらのいわゆる「水回り」系設備も決して汚いわけではないが、古ぼけてどことなく薄汚い印象を与えてしまうことは否めない。
水回りは何をおいても綺麗にしたほうがいいが…そのための資金があるかどうかだな。

とはいえ、まずは「目指すべき宿の姿」をビジョンとして共有することからはじめなければならないだろう。
食堂の問題は負荷が大きすぎるので、とりあえず先に取り掛かってしまったが、宿本体に手をつける前に、そのあたりのすり合わせをしなくてはならない。
武器屋のときもそうだったが、まずは何をするにしても「あるべき姿」の定義が何よりも大切だ。
「あるべき姿」が見えていれば、それを達成するために何をすればいいのか、が自ずと見えて来る。
逆に行き詰った時にも、「あるべき姿」に立ち返ることで、打開策が見えてくることがある。

この「あるべき姿」があいまいだったり、人によって浮かべるものが違うと、組織やプロジェクトは必ず迷走してしまうのだ。
これは言い換えれば「経営理念」とか「企業ビジョン」とも呼ばれるものである。
組織内でこれらがしっかりと浸透し、日々それを達成するために知恵を出してを動かせるかどうかが、ビジネスにおいては生死を分けると言っても過言ではない。

「おはようございます。朝からすみません。今日の会議はミストラルの『あるべき姿』を思い描き、共有することです。次の鐘が鳴るまでに結論を出します。」

二人にお願いし、食堂で朝から会議を開かせてもらった。
ローグさんは眠そうにそっぽを向いているが、ハンナさんはやる気十分といった感じだ。

「そんなわけで、お二人はどんな宿にしたいか、お考えはありますか?」

「うーむ…」

「あるべき姿ねぇ…」

会議というものに慣れていないのか、二人はなかなか口が重いようだった。
ここをどう引き出していくか、ファシリテーターとしての俺の手腕が問われるところだ。

本題とは関係ないが、会議設定は朝いちばんに限ると思っている。
昼食後や夕方の集中力が途切れる時間帯に会議を設定するのは悪手もいいところだ。
眠くて議題に集中できないので、ひらすら時間の無駄遣いである。

実のところ、会議はやらないのがいちばんいいが、ここぞという時にはやったほうがいいこともある。
やらなければならないなら、集中力がある時間帯に、目的を明確に決めた上でサクッと終わらせる。
これが生産的な会議のコツなのだ。

だらだら進捗だのを共有したところで、仕事をした気分になるだけで、成果は上がっていない。
典型的な日本企業だと無意味な会議で年間何百時間も無駄にしているし、ましてやそこにかかる人件費はとんでもないことになる。
会議の冒頭に目的を示し、制限時間を定め、必ず何かの成果を残す。これがデキるビジネスマンの会議だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

生前SEやってた俺は異世界で…

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん
ファンタジー
旧タイトル 前世の職業で異世界無双~生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています~ ※書籍化に伴い、タイトル変更しました。 書籍化情報 イラストレーター SamuraiG さん 第一巻発売日 2017/02/21 ※場所によっては2、3日のずれがあるそうです。  職業・SE(システム・エンジニア)。年齢38歳。独身。 死因、過労と不摂生による急性心不全…… そうあの日、俺は確かに会社で倒れて死んだはずだった…… なのに、気が付けば何故か中世ヨーロッパ風の異世界で文字通り第二の人生を歩んでいた。 俺は一念発起し、あくせく働く事の無い今度こそゆったりした人生を生きるのだと決意した!! 忙しさのあまり過労死してしまったおっさんの、異世界まったりライフファンタジーです。 ※2017/02/06  書籍化に伴い、該当部分(プロローグから17話まで)の掲載を取り下げました。  該当部分に関しましては、後日ダイジェストという形で再掲載を予定しています。 2017/02/07  書籍一巻該当部分のダイジェストを公開しました。 2017/03/18  「前世の職業で異世界無双~生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています~」の原文を撤去。  新しく別ページにて管理しています。http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/258103414/  気になる方がいましたら、作者のwebコンテンツからどうぞ。 読んで下っている方々にはご迷惑を掛けると思いますが、ご了承下さい。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...