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第二章 宿屋の経営改善
目指すべき姿を定義しましょう
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翌朝、いつもよりかなり早めに起きて掃除に取り掛かる。
自分の部屋はもちろん、宿の目につくところを大雑把でもいいので綺麗にしていくのだ。
アレクじいさんからは、しばらくは宿の経営改善に好きに時間を使っていいという伝言をもらっている。
もちろん武器店が本職なのでこまめに顔を出すつもりだが、しばらくはこの「ミストラル」復興に力を注ぐつもりだった。
はたきで埃を払いつつ、汚れがひどいところは濡らした布でこすって汚れを落としていくが…なかなか厄介だった。
だが、いくら飯がうまかろうと、サービスが良かろうと、清潔感がなかったら全て台無しになってしまう。
もちろん、清潔感があっても大きなプラスにはならない。
それが当然だからだ。
しかし清潔感のなさは極めて大きなマイナスになる。
つまり清潔感の有無というのは、加点要素ではなく減点要素なのだ。
もっとも、寝泊まりするところができれば綺麗であって欲しいというのは、人間の本能の求めるところではないだろうか。
中世ヨーロッパぐらいの宿屋はずいぶん不潔だったという話もあるが…何も悪いところを真似る必要はないだろう。
掃除しながら宿の設備を把握していくと、小さいながら石造りの湯浴みスペースや、原始的な水洗便所も揃っていることがわかった。
どうやら、それほど高度なものではないが、一応下水のシステムは整備されているらしい。
これらのいわゆる「水回り」系設備も決して汚いわけではないが、古ぼけてどことなく薄汚い印象を与えてしまうことは否めない。
水回りは何をおいても綺麗にしたほうがいいが…そのための資金があるかどうかだな。
とはいえ、まずは「目指すべき宿の姿」をビジョンとして共有することからはじめなければならないだろう。
食堂の問題は負荷が大きすぎるので、とりあえず先に取り掛かってしまったが、宿本体に手をつける前に、そのあたりのすり合わせをしなくてはならない。
武器屋のときもそうだったが、まずは何をするにしても「あるべき姿」の定義が何よりも大切だ。
「あるべき姿」が見えていれば、それを達成するために何をすればいいのか、が自ずと見えて来る。
逆に行き詰った時にも、「あるべき姿」に立ち返ることで、打開策が見えてくることがある。
この「あるべき姿」があいまいだったり、人によって浮かべるものが違うと、組織やプロジェクトは必ず迷走してしまうのだ。
これは言い換えれば「経営理念」とか「企業ビジョン」とも呼ばれるものである。
組織内でこれらがしっかりと浸透し、日々それを達成するために知恵を出してを動かせるかどうかが、ビジネスにおいては生死を分けると言っても過言ではない。
「おはようございます。朝からすみません。今日の会議はミストラルの『あるべき姿』を思い描き、共有することです。次の鐘が鳴るまでに結論を出します。」
二人にお願いし、食堂で朝から会議を開かせてもらった。
ローグさんは眠そうにそっぽを向いているが、ハンナさんはやる気十分といった感じだ。
「そんなわけで、お二人はどんな宿にしたいか、お考えはありますか?」
「うーむ…」
「あるべき姿ねぇ…」
会議というものに慣れていないのか、二人はなかなか口が重いようだった。
ここをどう引き出していくか、ファシリテーターとしての俺の手腕が問われるところだ。
本題とは関係ないが、会議設定は朝いちばんに限ると思っている。
昼食後や夕方の集中力が途切れる時間帯に会議を設定するのは悪手もいいところだ。
眠くて議題に集中できないので、ひらすら時間の無駄遣いである。
実のところ、会議はやらないのがいちばんいいが、ここぞという時にはやったほうがいいこともある。
やらなければならないなら、集中力がある時間帯に、目的を明確に決めた上でサクッと終わらせる。
これが生産的な会議のコツなのだ。
だらだら進捗だのを共有したところで、仕事をした気分になるだけで、成果は上がっていない。
典型的な日本企業だと無意味な会議で年間何百時間も無駄にしているし、ましてやそこにかかる人件費はとんでもないことになる。
会議の冒頭に目的を示し、制限時間を定め、必ず何かの成果を残す。これがデキるビジネスマンの会議だ。
自分の部屋はもちろん、宿の目につくところを大雑把でもいいので綺麗にしていくのだ。
アレクじいさんからは、しばらくは宿の経営改善に好きに時間を使っていいという伝言をもらっている。
もちろん武器店が本職なのでこまめに顔を出すつもりだが、しばらくはこの「ミストラル」復興に力を注ぐつもりだった。
はたきで埃を払いつつ、汚れがひどいところは濡らした布でこすって汚れを落としていくが…なかなか厄介だった。
だが、いくら飯がうまかろうと、サービスが良かろうと、清潔感がなかったら全て台無しになってしまう。
もちろん、清潔感があっても大きなプラスにはならない。
それが当然だからだ。
しかし清潔感のなさは極めて大きなマイナスになる。
つまり清潔感の有無というのは、加点要素ではなく減点要素なのだ。
もっとも、寝泊まりするところができれば綺麗であって欲しいというのは、人間の本能の求めるところではないだろうか。
中世ヨーロッパぐらいの宿屋はずいぶん不潔だったという話もあるが…何も悪いところを真似る必要はないだろう。
掃除しながら宿の設備を把握していくと、小さいながら石造りの湯浴みスペースや、原始的な水洗便所も揃っていることがわかった。
どうやら、それほど高度なものではないが、一応下水のシステムは整備されているらしい。
これらのいわゆる「水回り」系設備も決して汚いわけではないが、古ぼけてどことなく薄汚い印象を与えてしまうことは否めない。
水回りは何をおいても綺麗にしたほうがいいが…そのための資金があるかどうかだな。
とはいえ、まずは「目指すべき宿の姿」をビジョンとして共有することからはじめなければならないだろう。
食堂の問題は負荷が大きすぎるので、とりあえず先に取り掛かってしまったが、宿本体に手をつける前に、そのあたりのすり合わせをしなくてはならない。
武器屋のときもそうだったが、まずは何をするにしても「あるべき姿」の定義が何よりも大切だ。
「あるべき姿」が見えていれば、それを達成するために何をすればいいのか、が自ずと見えて来る。
逆に行き詰った時にも、「あるべき姿」に立ち返ることで、打開策が見えてくることがある。
この「あるべき姿」があいまいだったり、人によって浮かべるものが違うと、組織やプロジェクトは必ず迷走してしまうのだ。
これは言い換えれば「経営理念」とか「企業ビジョン」とも呼ばれるものである。
組織内でこれらがしっかりと浸透し、日々それを達成するために知恵を出してを動かせるかどうかが、ビジネスにおいては生死を分けると言っても過言ではない。
「おはようございます。朝からすみません。今日の会議はミストラルの『あるべき姿』を思い描き、共有することです。次の鐘が鳴るまでに結論を出します。」
二人にお願いし、食堂で朝から会議を開かせてもらった。
ローグさんは眠そうにそっぽを向いているが、ハンナさんはやる気十分といった感じだ。
「そんなわけで、お二人はどんな宿にしたいか、お考えはありますか?」
「うーむ…」
「あるべき姿ねぇ…」
会議というものに慣れていないのか、二人はなかなか口が重いようだった。
ここをどう引き出していくか、ファシリテーターとしての俺の手腕が問われるところだ。
本題とは関係ないが、会議設定は朝いちばんに限ると思っている。
昼食後や夕方の集中力が途切れる時間帯に会議を設定するのは悪手もいいところだ。
眠くて議題に集中できないので、ひらすら時間の無駄遣いである。
実のところ、会議はやらないのがいちばんいいが、ここぞという時にはやったほうがいいこともある。
やらなければならないなら、集中力がある時間帯に、目的を明確に決めた上でサクッと終わらせる。
これが生産的な会議のコツなのだ。
だらだら進捗だのを共有したところで、仕事をした気分になるだけで、成果は上がっていない。
典型的な日本企業だと無意味な会議で年間何百時間も無駄にしているし、ましてやそこにかかる人件費はとんでもないことになる。
会議の冒頭に目的を示し、制限時間を定め、必ず何かの成果を残す。これがデキるビジネスマンの会議だ。
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