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第二章 宿屋の経営改善
まずはアウトソーシングします
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「あの、一つ思いついたことがあるので、ご相談したいのですが」
早速じいさんに切り出してみるが、じいさんはひらひらと手を振るばかり。
「ばあさんと相談してくれ。わしゃ全部任せた」
「じゃあ、ハンナさんに相談しますね」
「うんうん、なんでも好きにやってくれりゃええ。どうせ無駄なんじゃから」
「では、お言葉に甘えて好き放題やらせていただきますので、よろしくです」
これ以上押し問答を繰り返してもしょうがないし、まずは実績をあげて関心を持たせるしかない。
コンサルティングの初期にはよくある話だ。
無気力なクライアント、非協力的な現場。
そこで挫けるようではコンサルタント失格である。
むしろ、それぐらいの逆境は当然と受け止め、そこからいかに挽回するかが腕の見せ所である。
なんにせよ好きにやっていいというお墨付きはもらった。
なんというか、この世界ではアレクじいさんといい、このじいさん(また名前聞き忘れた)といい、とりあえずは自由闊達にやらしてくれる人が多いんだろうか。
何かにつけて反対理由を見つけ出す銀行に慣れていた俺にとって、「やってみろ」という姿勢は大変ありがたいものだった。
まぁこのじいさんの場合半分皮肉で言っているのかもしれないが、そこはあえて字面通り受け取らせてもらおうじゃないか。
じいさんに頭を下げ、返す刀でハンナばあさんのいる食堂へとって返す。
先ほどまで居た客は帰ってしまったのか、ふたたび食堂は人影もなくがらんとしていた。
まずはここに、お客さんを取り戻す。
それが俺の第一目標だ。
ガラガラの食堂は景気が悪い感じがして、せっかくの宿泊客が来ても泊まる気をなくす恐れがあった。
逆に言えば、食堂が賑わいさえすれば、それが客寄せになってくれる。
「ハンナさん、食堂についてちょっと思いついたんで、相談してもいいですか?」
「お、おお?いきなりじゃな」
「すみません。でも、僕はこの『ミストラル』をとても気に入りました。だから、もっとお客さんで賑わって欲しいんです」
単刀直入に思いを伝える。
ねぐらにさせてもらっているからという恩ももちろんあるが、この宿のあちらこちらに残る温かみのようなものを、確かに俺は気に入っていた。
ただ、その温もりは消えかけており、このまま放っておけば確実に死んでいく。
そうなるとこの「ミストラル」が復活することは決してないだろう。
だから、そうなる前に。
一刻も早く、できることをしたいという気持ちが生まれていた。
ハンナばあさんが大きく息を吐きだした。
それから俺の顔を見つめて口を開いた。
「さっきも言った通りだ。あんたを男と見込もう。わたしも、死ぬ前にもう一度、このミストラルが再び賑わうところを見たいよ。ローグもわかってくれるじゃろう」
ハンナばあさんの瞳には、先程までの怠惰の光はもはや無く、活気を取り戻したかのように見えた。
ローグ、というのが旦那さん、つまりミストラルの主人の名前だろう。
「ローグ…さんも、ハンナさんに相談すればあとは好きにしろと言っていました」
「そうかそうか…まぁローグにもプライドがあるからねぇ、そう素直に頭は下げられんだろうさ。でも、アレクの勧めを断らなかったのも確かだよ」
「アレクさんが…?」
「そうさ、あの二人は昔から仲が良くてね。どっちの商売も沈みかけのところまで一緒だなんて言ってたが、武器屋はすっかり持ち直したそうじゃないか」
「ああ、いえ…まだ油断はできないですが」
「それもこれもぜんぶアンタの手柄だって、アレクは言ってたよ。だからサコンに経営を見てもらえってすすめられたのさ」
「そんな…大したことはしてないですよ」
「そうそう、孫娘をくれてやってもいい、とか言ってたっけね?」
からかうような口調でハンナばあさんが衝撃的なことをさりげなくぶっこんでくる。
「ブフォッ…げふんげふん…それはどういう…」
想定外のところでリーシャが出てきたので咳き込んでしまった。
「ほぅ、そりゃあんたもまんざらなじゃないってことかい?さっきも部屋に来てたようだしねぇ」
「え、いやあれはご飯を持ってきてくれたんで…」
「おまけにもう一人綺麗どころが来てたじゃないか」
ハンナばあさんはニヤニヤしながらも追撃の手を緩めない。
こ、このばあさん…食えない…
早速じいさんに切り出してみるが、じいさんはひらひらと手を振るばかり。
「ばあさんと相談してくれ。わしゃ全部任せた」
「じゃあ、ハンナさんに相談しますね」
「うんうん、なんでも好きにやってくれりゃええ。どうせ無駄なんじゃから」
「では、お言葉に甘えて好き放題やらせていただきますので、よろしくです」
これ以上押し問答を繰り返してもしょうがないし、まずは実績をあげて関心を持たせるしかない。
コンサルティングの初期にはよくある話だ。
無気力なクライアント、非協力的な現場。
そこで挫けるようではコンサルタント失格である。
むしろ、それぐらいの逆境は当然と受け止め、そこからいかに挽回するかが腕の見せ所である。
なんにせよ好きにやっていいというお墨付きはもらった。
なんというか、この世界ではアレクじいさんといい、このじいさん(また名前聞き忘れた)といい、とりあえずは自由闊達にやらしてくれる人が多いんだろうか。
何かにつけて反対理由を見つけ出す銀行に慣れていた俺にとって、「やってみろ」という姿勢は大変ありがたいものだった。
まぁこのじいさんの場合半分皮肉で言っているのかもしれないが、そこはあえて字面通り受け取らせてもらおうじゃないか。
じいさんに頭を下げ、返す刀でハンナばあさんのいる食堂へとって返す。
先ほどまで居た客は帰ってしまったのか、ふたたび食堂は人影もなくがらんとしていた。
まずはここに、お客さんを取り戻す。
それが俺の第一目標だ。
ガラガラの食堂は景気が悪い感じがして、せっかくの宿泊客が来ても泊まる気をなくす恐れがあった。
逆に言えば、食堂が賑わいさえすれば、それが客寄せになってくれる。
「ハンナさん、食堂についてちょっと思いついたんで、相談してもいいですか?」
「お、おお?いきなりじゃな」
「すみません。でも、僕はこの『ミストラル』をとても気に入りました。だから、もっとお客さんで賑わって欲しいんです」
単刀直入に思いを伝える。
ねぐらにさせてもらっているからという恩ももちろんあるが、この宿のあちらこちらに残る温かみのようなものを、確かに俺は気に入っていた。
ただ、その温もりは消えかけており、このまま放っておけば確実に死んでいく。
そうなるとこの「ミストラル」が復活することは決してないだろう。
だから、そうなる前に。
一刻も早く、できることをしたいという気持ちが生まれていた。
ハンナばあさんが大きく息を吐きだした。
それから俺の顔を見つめて口を開いた。
「さっきも言った通りだ。あんたを男と見込もう。わたしも、死ぬ前にもう一度、このミストラルが再び賑わうところを見たいよ。ローグもわかってくれるじゃろう」
ハンナばあさんの瞳には、先程までの怠惰の光はもはや無く、活気を取り戻したかのように見えた。
ローグ、というのが旦那さん、つまりミストラルの主人の名前だろう。
「ローグ…さんも、ハンナさんに相談すればあとは好きにしろと言っていました」
「そうかそうか…まぁローグにもプライドがあるからねぇ、そう素直に頭は下げられんだろうさ。でも、アレクの勧めを断らなかったのも確かだよ」
「アレクさんが…?」
「そうさ、あの二人は昔から仲が良くてね。どっちの商売も沈みかけのところまで一緒だなんて言ってたが、武器屋はすっかり持ち直したそうじゃないか」
「ああ、いえ…まだ油断はできないですが」
「それもこれもぜんぶアンタの手柄だって、アレクは言ってたよ。だからサコンに経営を見てもらえってすすめられたのさ」
「そんな…大したことはしてないですよ」
「そうそう、孫娘をくれてやってもいい、とか言ってたっけね?」
からかうような口調でハンナばあさんが衝撃的なことをさりげなくぶっこんでくる。
「ブフォッ…げふんげふん…それはどういう…」
想定外のところでリーシャが出てきたので咳き込んでしまった。
「ほぅ、そりゃあんたもまんざらなじゃないってことかい?さっきも部屋に来てたようだしねぇ」
「え、いやあれはご飯を持ってきてくれたんで…」
「おまけにもう一人綺麗どころが来てたじゃないか」
ハンナばあさんはニヤニヤしながらも追撃の手を緩めない。
こ、このばあさん…食えない…
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