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第二章 宿屋の経営改善
かなり古ぼけているようです
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翌日、店番をリーシャに任せて、じいさんと俺は件の宿屋「ミストラル」に向かっていた。
「ミストラル」は街の中心を占める王城にほど近い繁華街にあり、立地はかなり好条件らしかった。
ただ、建物や設備の老朽化が激しい上に、経営している老夫婦の加齢もあり、お客さんが減って困っているらしい。
じいさんと老夫婦はもともと仲が良いらしく、俺の話をしたら「ぜひ力を貸して欲しい」と頼み込まれたそうだ。
俺も神様というわけではなく、そこまで万能ではないから、あまり期待されても困る。
が、誰かに頼られるというのはある種の気持ち良さがあるのもまた確かだ。
何より、ねぐらに困っている俺にとって渡りに船とはこのことであった。
「サコンのその力は、ワシの店だけに留めるのはもったいないと思うんじゃ」
道すがら、じいさんはそう言ってくれた。
なんともありがたい言葉である。
とはいえ、アレク武器店も大繁盛とまでは盛り返していないし、課題も山積みだ。
「アレクさんのお店をメインで動きつつ、空いた時間で宿屋さんの相談にも乗るようにしますよ」
そう答えると、じいさんがウンウンと頷く。
「あまり根を詰めすぎないようにな。ワシの店はいつ飛び出してもらっても構わん…いや、でてけという意味じゃないぞ」
「わかってますよ。アレクさんの家は…俺の第二の実家みたいなもんだ、って勝手に思ってますから」
そんな話をしていると、ふとリーシャの顔が浮かんでしまい、我ながらドギマギしてしまった。
どうしてリーシャのことを思い出したのか…知らず頰が熱くなるのがわかった。
慌てて気持ちを切り替えようと、話を「ミストラル」に戻す。
「ミストラルは大きい宿屋なんですか?」
「そうさな、まぁそれほど大きくはないが、気持ちの良い宿屋だったよ」
「『だった』、ですか…」
「正直、もうかなり昔からあるからのぅ…今はお世辞にも綺麗とはいえんな」
施設の老朽化問題。
それは宿泊施設について回る永遠の課題だ。
いわゆる固定資産に依存するタイプのビジネスは、設備投資やメンテナンスに莫大なお金がかかる。
わかりやすいのは鉄道だろう。
JR各社の財務諸表…まぁ家計簿のすごいやつみたいなもんだが、こいつを見ると、財産のほとんどが建物やレールなどの「目に見える資産」で占められている。
この手のビジネスは、たとえ収入が多くても、支出もかなり多いから、かなり高度な投資判断が求められる難しさがある。
仕入れた物を売る、小売の武器店とは本質的に異なるのだ。
果たしてそこに俺のスキルが通用するのか…まだわからないが、きっとやれることはあるはずだ。
「ほれ、もう見えてきたぞ」
「あ…ほんとだ」
人通りの多い繁華街の一角に、「ミストラル」はあった。
2階建ての建物の1階は酒場兼食堂で、2階が寝室になっているようだ。
かつては瀟洒な建物だったんだろうが、今やかなり老朽化していて、安宿感がありありと出てしまっていた。
白かったであろう壁は煤け、扉や金具もかなり古ぼけてしまっている。
薄暗い食堂には人気がなく、なんとなく物悲しい空気が漂っていた。
やはり、大勢の人で賑わっているべきところがガランとしている光景は、辛いものがあるな…。
気がつけば、奥のカウンターでぼんやりとこちらを見ているばあさんがいた。
おそらくはこの「ミストラル」の主人の奥さんだろう。
大儀そうにゆっくりと立ち上がると、俺たちに向かって頭を下げた。
「ハンナ、しばらくぶりだが商売はどうかね?」
じいさん、結構容赦ない質問するな…。
「…繁盛してるように見えるかね?」
「いや…まったく」
「御察しの通りだよ。いまじゃめっきり泊まり客も来ないねぇ。ちょっと離れたところに素泊まりの小綺麗な宿ができたんで、みんなそっちに行っちまうのさ」
ハンナばあさんは深々とため息をついた。
めちゃめちゃ景気悪そうだけど…まぁ、ハードルは高い方がきっとやりがいがあるはずだ。
「ミストラル」は街の中心を占める王城にほど近い繁華街にあり、立地はかなり好条件らしかった。
ただ、建物や設備の老朽化が激しい上に、経営している老夫婦の加齢もあり、お客さんが減って困っているらしい。
じいさんと老夫婦はもともと仲が良いらしく、俺の話をしたら「ぜひ力を貸して欲しい」と頼み込まれたそうだ。
俺も神様というわけではなく、そこまで万能ではないから、あまり期待されても困る。
が、誰かに頼られるというのはある種の気持ち良さがあるのもまた確かだ。
何より、ねぐらに困っている俺にとって渡りに船とはこのことであった。
「サコンのその力は、ワシの店だけに留めるのはもったいないと思うんじゃ」
道すがら、じいさんはそう言ってくれた。
なんともありがたい言葉である。
とはいえ、アレク武器店も大繁盛とまでは盛り返していないし、課題も山積みだ。
「アレクさんのお店をメインで動きつつ、空いた時間で宿屋さんの相談にも乗るようにしますよ」
そう答えると、じいさんがウンウンと頷く。
「あまり根を詰めすぎないようにな。ワシの店はいつ飛び出してもらっても構わん…いや、でてけという意味じゃないぞ」
「わかってますよ。アレクさんの家は…俺の第二の実家みたいなもんだ、って勝手に思ってますから」
そんな話をしていると、ふとリーシャの顔が浮かんでしまい、我ながらドギマギしてしまった。
どうしてリーシャのことを思い出したのか…知らず頰が熱くなるのがわかった。
慌てて気持ちを切り替えようと、話を「ミストラル」に戻す。
「ミストラルは大きい宿屋なんですか?」
「そうさな、まぁそれほど大きくはないが、気持ちの良い宿屋だったよ」
「『だった』、ですか…」
「正直、もうかなり昔からあるからのぅ…今はお世辞にも綺麗とはいえんな」
施設の老朽化問題。
それは宿泊施設について回る永遠の課題だ。
いわゆる固定資産に依存するタイプのビジネスは、設備投資やメンテナンスに莫大なお金がかかる。
わかりやすいのは鉄道だろう。
JR各社の財務諸表…まぁ家計簿のすごいやつみたいなもんだが、こいつを見ると、財産のほとんどが建物やレールなどの「目に見える資産」で占められている。
この手のビジネスは、たとえ収入が多くても、支出もかなり多いから、かなり高度な投資判断が求められる難しさがある。
仕入れた物を売る、小売の武器店とは本質的に異なるのだ。
果たしてそこに俺のスキルが通用するのか…まだわからないが、きっとやれることはあるはずだ。
「ほれ、もう見えてきたぞ」
「あ…ほんとだ」
人通りの多い繁華街の一角に、「ミストラル」はあった。
2階建ての建物の1階は酒場兼食堂で、2階が寝室になっているようだ。
かつては瀟洒な建物だったんだろうが、今やかなり老朽化していて、安宿感がありありと出てしまっていた。
白かったであろう壁は煤け、扉や金具もかなり古ぼけてしまっている。
薄暗い食堂には人気がなく、なんとなく物悲しい空気が漂っていた。
やはり、大勢の人で賑わっているべきところがガランとしている光景は、辛いものがあるな…。
気がつけば、奥のカウンターでぼんやりとこちらを見ているばあさんがいた。
おそらくはこの「ミストラル」の主人の奥さんだろう。
大儀そうにゆっくりと立ち上がると、俺たちに向かって頭を下げた。
「ハンナ、しばらくぶりだが商売はどうかね?」
じいさん、結構容赦ない質問するな…。
「…繁盛してるように見えるかね?」
「いや…まったく」
「御察しの通りだよ。いまじゃめっきり泊まり客も来ないねぇ。ちょっと離れたところに素泊まりの小綺麗な宿ができたんで、みんなそっちに行っちまうのさ」
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