元銀行員の俺が異世界で経営コンサルタントに転職しました

第一章 武器屋の経営改善

がんばって探すようです

店に戻ると、セールの余韻のおかげか、ちらほらとお客さんの姿がある。
アレク武器店の存在が、再び世間にある程度認知されたと思っていいだろう。
油断するにはまだまだ早いが、当面は一安心ではないだろうか。
接客もそれほど忙しくはないので、合間をぬってガンテスの後継者問題について考えることにする。

現代日本でも、いわゆる伝統工芸などの職人は必ずと言っていいほど後継者不足に悩まされている。
職業選択が多様化し、キツイうえに最初は給料がほとんど出ず、おまけに忍耐を強いられる、というイメージの職人になろうという若者は減った。
そのせいで失われた技術や伝統は数知れないと言っていい。
それは単純に文化の損失であり、人類の資産が喪われたと言っても大げさではないと思っている。

他方で、時代の変化に合わせて巧みに後継者を発掘し、息長く続いている伝統工芸もあると聞く。
自治体と連携して若者のインターンシップを受け入れたり、めちゃくちゃ厳しく指導するのではなく、丁寧に優しく教えたりと、工夫を重ねられる産業は生き延びられる。
要は、時代やニーズの変化に応えられるかどうか、という柔軟性と、自ら考え行動していけるかどうかという自律性が問われている、ということだろう。
ひるがえってガンテスはどうだろうか。

じいさんに聞いてみたところ、ガンテスは頑固で無愛想ではあるものの、雷親父というわけではないらしい。
とすると、真面目な人がコツコツ頑張るのであればうまく折り合っていけるかもしれない。
俺の突拍子もない提案も無下に断ったりせず、一応は乗ってくれるところを見ても、かなり柔軟なところもあるようだ。
また、この世界でも師匠は弟子に衣食住を保証するのが習わしだそうなので、とりあえず弟子入りすれば食うには困らないというのも魅力だろう。
総論として、悪くない条件が揃っている。

「真面目な職人気質で、今食うのに困っている人間を探せばいい…ってことだな」

実はまったく心当たりがないわけではなかった。
この世界では転生者が珍しくない…となれば、生活の不安に常につきまとわれる転生者と、衣食住の保証を受けられる弟子入り型の職は相性が良いのではないかと思う。
実際、俺もアレクじいさんと出会わなかったら、結構真剣に検討してもいい案件だ。
何より飯付きというのは、単純だが魅力のある条件と言える。
まずは、転生者の仮住まいが集う区画に募集の張り紙をだしてみることにした。

「手に職つけてみませんか？
名工ガンテスが後継者を募集中。
衣食住完全保証、その他の待遇応相談。
まずはお試し体験しましょう。
詳しくはアレク武器店のサコンまで。
応募者多数の場合、恐縮ですが面接による審査とさせていただきます。
この張り紙は三日後には剥がします。」

こんな感じの文面で手製の張り紙を作り、仕事の合間を縫って区画のあちこちに貼りだしてみた。
もちろんガンテスのところにもう一度行き、大まかな構想は話した上で同意を得ている。

入れ替わりが激しいので、この仮住まいに滞在する転生者たちがどれぐらいいるのかあまりよくわかっていないが、それでも十数人はいるのではないか。
なぜ入れ替わるかというと、やはり異世界に馴染めず世を去るものや、ふらっと当てもなく行方不明になってしまうものも、それなりにいるからだ。
哀しいことではあるが、それが現実だった。
俺だって一歩間違えば職も見つからず路頭に迷って死んでいたかもしれないので、他人事ではない。
それだけに、ガンテスに弟子入りすることで、ある意味同胞とも言える転生者たちが糧を得られるなら、全力で手伝いたいと考えていた。

あえて短めの三日間という期限を切ったのは、悩む時間を与えないためだ。
無期限だと、なかなか人は真剣には考えられないものである。
期限があると、思い切って行動に移せることもあるものだ。