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第一章 武器屋の経営改善
年齢不詳美女に気に入られたようです
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振り返ると、声をかけてきたのはローブをすっぽりと被った年齢不詳の女性だった。
失礼にならないようにさりげなくローブの奥に隠されたご尊顔を拝見すると…なるほど、水も滴る美女とはこのことだろう。
切れ長の瞳に挑発するような光を宿し、俺を値踏みするかのように見据えていた。
身に付けた服は明らかに上質なもので、立ち振る舞いも洗練された気品を感じさせる。
どこぞの貴族…それもかなり高位の貴族の奥方様が、お忍びでふらりと立ち寄ったのだろうか。
お供も連れていないのは、よほど腕に覚えがある証拠なのか…美女の腰にはすらりとした細身の短剣が収まっている。
印象的なのは、なによりその強い光を宿した瞳だ。
美しいアンバーに彩られているが、世間では「狼の目」と言われるのもなるほどと思わせる、ただならぬ気配を発していた。
正直、これほどのオーラを放つ人間に勧められるほどの武器は思いつかない。
「…あいにくではございますが、当店は庶民のためのお店でございます。率直に申し上げて、お客様におすすめできる武器はございません」
「あらあら」
「強いて申し上げるならば、『エンドラ』の奥で飾られた宝剣…でしょうか」
女性を見て思いついたのが、とっさに「エンドラ」の奥に丁重に飾られていた壮麗な剣だった。
艶やかで美しく彩られてはいるが、その実、鋭い切れ味を秘めていそうでもある。
ほんとうに思いつきではあるものの、まさにこの女性を体現しているかのような剣だと感じたのは、嘘ではない。
「ふふっ…あの剣は、よいものね」
「は、ご存知で…」
「商売敵の品を勧めるのね。なかなか素敵で、面白いお兄さんじゃない」
「え…?あ、ありがとうございます」
女性は決して威圧的ではないが、人の上に立つことが当然、という気配をありありと放っている。
そのオーラは間違いなく生まれついてのものだろう。後天的な教育や努力で身につく類のものではない。
「貴人」とはまさに彼女のような人を指して言う言葉なのだと知る。
この世界の身分制度は、実はあまりよくわかっていない部分もあるのだが、この女性の前では自然にへり下った態度を取ってしまう俺がいた。
「あなた、お名前はなんというのかしら?」
「え?…さ、サコンといいます」
「サコンくん…ね。しっかりと覚えておくわ」
そう言ってにっこりと微笑むと、剣呑な気配が一瞬だけ消える。
「(か、かわいい…)」
さすがにこれは死んでも声に出せないので、心の中で俺は叫んだ。
ひらひらと手を振ると、女性は裾を翻し、ほのかな残り香を漂わせながら優雅に立ち去った。
俺はまだ気づいていなかった。
この女性との出会いが、俺の運命を大きく変えるということに。
けれどそれは、まだまだ先のお話だ。
「…誰?」
「おわっ…びっくりした!」
幽霊のようなささやき声が耳元でしたので、俺はびっくりして振り返る。
リーシャがじとっとした目で俺を見ていた。
「綺麗な…人だった…」
そう言って拗ねたようなお顔で俺を見るので、慌てて両手を振った。
とはいえなんで俺が慌てなきゃいけないんだろう…
「え、知らない人だよ…おすすめ紹介しろって言われたけど、なんか貴族みたいだしエンドラをすすめといた」
「…そう…」
リーシャはその答えに満足したのか、またすぅっと離れて会計に戻っていった。
なんなんだろういったい…。
まぁ機嫌が直ったならよしとするか。
気を取り直してさぁ接客だ、と思ったらいきなり背中をど突かれてまた調子が狂う。
「いててっ!?」
「繁盛してるじゃない!」
失礼にならないようにさりげなくローブの奥に隠されたご尊顔を拝見すると…なるほど、水も滴る美女とはこのことだろう。
切れ長の瞳に挑発するような光を宿し、俺を値踏みするかのように見据えていた。
身に付けた服は明らかに上質なもので、立ち振る舞いも洗練された気品を感じさせる。
どこぞの貴族…それもかなり高位の貴族の奥方様が、お忍びでふらりと立ち寄ったのだろうか。
お供も連れていないのは、よほど腕に覚えがある証拠なのか…美女の腰にはすらりとした細身の短剣が収まっている。
印象的なのは、なによりその強い光を宿した瞳だ。
美しいアンバーに彩られているが、世間では「狼の目」と言われるのもなるほどと思わせる、ただならぬ気配を発していた。
正直、これほどのオーラを放つ人間に勧められるほどの武器は思いつかない。
「…あいにくではございますが、当店は庶民のためのお店でございます。率直に申し上げて、お客様におすすめできる武器はございません」
「あらあら」
「強いて申し上げるならば、『エンドラ』の奥で飾られた宝剣…でしょうか」
女性を見て思いついたのが、とっさに「エンドラ」の奥に丁重に飾られていた壮麗な剣だった。
艶やかで美しく彩られてはいるが、その実、鋭い切れ味を秘めていそうでもある。
ほんとうに思いつきではあるものの、まさにこの女性を体現しているかのような剣だと感じたのは、嘘ではない。
「ふふっ…あの剣は、よいものね」
「は、ご存知で…」
「商売敵の品を勧めるのね。なかなか素敵で、面白いお兄さんじゃない」
「え…?あ、ありがとうございます」
女性は決して威圧的ではないが、人の上に立つことが当然、という気配をありありと放っている。
そのオーラは間違いなく生まれついてのものだろう。後天的な教育や努力で身につく類のものではない。
「貴人」とはまさに彼女のような人を指して言う言葉なのだと知る。
この世界の身分制度は、実はあまりよくわかっていない部分もあるのだが、この女性の前では自然にへり下った態度を取ってしまう俺がいた。
「あなた、お名前はなんというのかしら?」
「え?…さ、サコンといいます」
「サコンくん…ね。しっかりと覚えておくわ」
そう言ってにっこりと微笑むと、剣呑な気配が一瞬だけ消える。
「(か、かわいい…)」
さすがにこれは死んでも声に出せないので、心の中で俺は叫んだ。
ひらひらと手を振ると、女性は裾を翻し、ほのかな残り香を漂わせながら優雅に立ち去った。
俺はまだ気づいていなかった。
この女性との出会いが、俺の運命を大きく変えるということに。
けれどそれは、まだまだ先のお話だ。
「…誰?」
「おわっ…びっくりした!」
幽霊のようなささやき声が耳元でしたので、俺はびっくりして振り返る。
リーシャがじとっとした目で俺を見ていた。
「綺麗な…人だった…」
そう言って拗ねたようなお顔で俺を見るので、慌てて両手を振った。
とはいえなんで俺が慌てなきゃいけないんだろう…
「え、知らない人だよ…おすすめ紹介しろって言われたけど、なんか貴族みたいだしエンドラをすすめといた」
「…そう…」
リーシャはその答えに満足したのか、またすぅっと離れて会計に戻っていった。
なんなんだろういったい…。
まぁ機嫌が直ったならよしとするか。
気を取り直してさぁ接客だ、と思ったらいきなり背中をど突かれてまた調子が狂う。
「いててっ!?」
「繁盛してるじゃない!」
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