25 / 107
第一章 武器屋の経営改善
年齢不詳美女に気に入られたようです
しおりを挟む
振り返ると、声をかけてきたのはローブをすっぽりと被った年齢不詳の女性だった。
失礼にならないようにさりげなくローブの奥に隠されたご尊顔を拝見すると…なるほど、水も滴る美女とはこのことだろう。
切れ長の瞳に挑発するような光を宿し、俺を値踏みするかのように見据えていた。
身に付けた服は明らかに上質なもので、立ち振る舞いも洗練された気品を感じさせる。
どこぞの貴族…それもかなり高位の貴族の奥方様が、お忍びでふらりと立ち寄ったのだろうか。
お供も連れていないのは、よほど腕に覚えがある証拠なのか…美女の腰にはすらりとした細身の短剣が収まっている。
印象的なのは、なによりその強い光を宿した瞳だ。
美しいアンバーに彩られているが、世間では「狼の目」と言われるのもなるほどと思わせる、ただならぬ気配を発していた。
正直、これほどのオーラを放つ人間に勧められるほどの武器は思いつかない。
「…あいにくではございますが、当店は庶民のためのお店でございます。率直に申し上げて、お客様におすすめできる武器はございません」
「あらあら」
「強いて申し上げるならば、『エンドラ』の奥で飾られた宝剣…でしょうか」
女性を見て思いついたのが、とっさに「エンドラ」の奥に丁重に飾られていた壮麗な剣だった。
艶やかで美しく彩られてはいるが、その実、鋭い切れ味を秘めていそうでもある。
ほんとうに思いつきではあるものの、まさにこの女性を体現しているかのような剣だと感じたのは、嘘ではない。
「ふふっ…あの剣は、よいものね」
「は、ご存知で…」
「商売敵の品を勧めるのね。なかなか素敵で、面白いお兄さんじゃない」
「え…?あ、ありがとうございます」
女性は決して威圧的ではないが、人の上に立つことが当然、という気配をありありと放っている。
そのオーラは間違いなく生まれついてのものだろう。後天的な教育や努力で身につく類のものではない。
「貴人」とはまさに彼女のような人を指して言う言葉なのだと知る。
この世界の身分制度は、実はあまりよくわかっていない部分もあるのだが、この女性の前では自然にへり下った態度を取ってしまう俺がいた。
「あなた、お名前はなんというのかしら?」
「え?…さ、サコンといいます」
「サコンくん…ね。しっかりと覚えておくわ」
そう言ってにっこりと微笑むと、剣呑な気配が一瞬だけ消える。
「(か、かわいい…)」
さすがにこれは死んでも声に出せないので、心の中で俺は叫んだ。
ひらひらと手を振ると、女性は裾を翻し、ほのかな残り香を漂わせながら優雅に立ち去った。
俺はまだ気づいていなかった。
この女性との出会いが、俺の運命を大きく変えるということに。
けれどそれは、まだまだ先のお話だ。
「…誰?」
「おわっ…びっくりした!」
幽霊のようなささやき声が耳元でしたので、俺はびっくりして振り返る。
リーシャがじとっとした目で俺を見ていた。
「綺麗な…人だった…」
そう言って拗ねたようなお顔で俺を見るので、慌てて両手を振った。
とはいえなんで俺が慌てなきゃいけないんだろう…
「え、知らない人だよ…おすすめ紹介しろって言われたけど、なんか貴族みたいだしエンドラをすすめといた」
「…そう…」
リーシャはその答えに満足したのか、またすぅっと離れて会計に戻っていった。
なんなんだろういったい…。
まぁ機嫌が直ったならよしとするか。
気を取り直してさぁ接客だ、と思ったらいきなり背中をど突かれてまた調子が狂う。
「いててっ!?」
「繁盛してるじゃない!」
失礼にならないようにさりげなくローブの奥に隠されたご尊顔を拝見すると…なるほど、水も滴る美女とはこのことだろう。
切れ長の瞳に挑発するような光を宿し、俺を値踏みするかのように見据えていた。
身に付けた服は明らかに上質なもので、立ち振る舞いも洗練された気品を感じさせる。
どこぞの貴族…それもかなり高位の貴族の奥方様が、お忍びでふらりと立ち寄ったのだろうか。
お供も連れていないのは、よほど腕に覚えがある証拠なのか…美女の腰にはすらりとした細身の短剣が収まっている。
印象的なのは、なによりその強い光を宿した瞳だ。
美しいアンバーに彩られているが、世間では「狼の目」と言われるのもなるほどと思わせる、ただならぬ気配を発していた。
正直、これほどのオーラを放つ人間に勧められるほどの武器は思いつかない。
「…あいにくではございますが、当店は庶民のためのお店でございます。率直に申し上げて、お客様におすすめできる武器はございません」
「あらあら」
「強いて申し上げるならば、『エンドラ』の奥で飾られた宝剣…でしょうか」
女性を見て思いついたのが、とっさに「エンドラ」の奥に丁重に飾られていた壮麗な剣だった。
艶やかで美しく彩られてはいるが、その実、鋭い切れ味を秘めていそうでもある。
ほんとうに思いつきではあるものの、まさにこの女性を体現しているかのような剣だと感じたのは、嘘ではない。
「ふふっ…あの剣は、よいものね」
「は、ご存知で…」
「商売敵の品を勧めるのね。なかなか素敵で、面白いお兄さんじゃない」
「え…?あ、ありがとうございます」
女性は決して威圧的ではないが、人の上に立つことが当然、という気配をありありと放っている。
そのオーラは間違いなく生まれついてのものだろう。後天的な教育や努力で身につく類のものではない。
「貴人」とはまさに彼女のような人を指して言う言葉なのだと知る。
この世界の身分制度は、実はあまりよくわかっていない部分もあるのだが、この女性の前では自然にへり下った態度を取ってしまう俺がいた。
「あなた、お名前はなんというのかしら?」
「え?…さ、サコンといいます」
「サコンくん…ね。しっかりと覚えておくわ」
そう言ってにっこりと微笑むと、剣呑な気配が一瞬だけ消える。
「(か、かわいい…)」
さすがにこれは死んでも声に出せないので、心の中で俺は叫んだ。
ひらひらと手を振ると、女性は裾を翻し、ほのかな残り香を漂わせながら優雅に立ち去った。
俺はまだ気づいていなかった。
この女性との出会いが、俺の運命を大きく変えるということに。
けれどそれは、まだまだ先のお話だ。
「…誰?」
「おわっ…びっくりした!」
幽霊のようなささやき声が耳元でしたので、俺はびっくりして振り返る。
リーシャがじとっとした目で俺を見ていた。
「綺麗な…人だった…」
そう言って拗ねたようなお顔で俺を見るので、慌てて両手を振った。
とはいえなんで俺が慌てなきゃいけないんだろう…
「え、知らない人だよ…おすすめ紹介しろって言われたけど、なんか貴族みたいだしエンドラをすすめといた」
「…そう…」
リーシャはその答えに満足したのか、またすぅっと離れて会計に戻っていった。
なんなんだろういったい…。
まぁ機嫌が直ったならよしとするか。
気を取り直してさぁ接客だ、と思ったらいきなり背中をど突かれてまた調子が狂う。
「いててっ!?」
「繁盛してるじゃない!」
0
お気に入りに追加
919
あなたにおすすめの小説
白紙の冒険譚 ~パーティーに裏切られた底辺冒険者は魔界から逃げてきた最弱魔王と共に成り上がる~
草乃葉オウル
ファンタジー
誰もが自分の魔法を記した魔本を持っている世界。
無能の証明である『白紙の魔本』を持つ冒険者エンデは、生活のため報酬の良い魔境調査のパーティーに参加するも、そこで捨て駒のように扱われ命の危機に晒される。
死の直前、彼を助けたのは今にも命が尽きようかという竜だった。
竜は残った命を魔力に変えてエンデの魔本に呪文を記す。
ただ一つ、『白紙の魔本』を持つ魔王の少女を守ることを条件に……。
エンデは竜の魔法と意思を受け継ぎ、覇権を争う他の魔王や迫りくる勇者に立ち向かう。
やがて二人のもとには仲間が集まり、世界にとって見逃せない存在へと成長していく。
これは種族は違えど不遇の人生を送ってきた二人の空白を埋める物語!
※完結済みの自作『PASTEL POISON ~パーティに毒の池に沈められた男、Sランクモンスターに転生し魔王少女とダンジョンで暮らす~』に多くの新要素を加えストーリーを再構成したフルリメイク作品です。本編は最初からすべて新規書き下ろしなので、前作を知ってる人も知らない人も楽しめます!
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
アサの旅。竜の母親をさがして〜
アッシュ
ファンタジー
辺境の村エルモに住む至って普通の17歳の少女アサ。
村には古くから伝わる伝承により、幻の存在と言われる竜(ドラゴン)が実在すると信じられてきた。
そしてアサと一匹の子供の竜との出会いが、彼女の旅を決意させる。
※この物語は60話前後で終わると思います。完結まで完成してるため、未完のまま終わることはありませんので安心して下さい。1日2回投稿します。時間は色々試してから決めます。
※表紙提供者kiroさん
レジェンドテイマー ~異世界に召喚されて勇者じゃないから棄てられたけど、絶対に元の世界に帰ると誓う男の物語~
裏影P
ファンタジー
【2022/9/1 一章二章大幅改稿しました。三章作成中です】
宝くじで一等十億円に当選した運河京太郎は、突然異世界に召喚されてしまう。
異世界に召喚された京太郎だったが、京太郎は既に百人以上召喚されているテイマーというクラスだったため、不要と判断されてかえされることになる。
元の世界に帰してくれると思っていた京太郎だったが、その先は死の危険が蔓延る異世界の森だった。
そこで出会った瀕死の蜘蛛の魔物と遭遇し、運よくテイムすることに成功する。
大精霊のウンディーネなど、個性溢れすぎる尖った魔物たちをテイムしていく京太郎だが、自分が元の世界に帰るときにテイムした魔物たちのことや、突然降って湧いた様な強大な力や、伝説級のスキルの存在に葛藤していく。
持っている力に振り回されぬよう、京太郎自身も力に負けない精神力を鍛えようと決意していき、絶対に元の世界に帰ることを胸に、テイマーとして異世界を生き延びていく。
※カクヨム・小説家になろうにて同時掲載中です。
目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~
白い彗星
ファンタジー
十年という年月が、彼の中から奪われた。
目覚めた少年、達志が目にしたのは、自分が今までに見たことのない世界。見知らぬ景色、人ならざる者……まるで、ファンタジーの中の異世界のような世界が、あった。
今流行りの『異世界召喚』!? そう予想するが、衝撃の真実が明かされる!
なんと達志は十年もの間眠り続け、その間に世界は魔法ありきのファンタジー世界になっていた!?
非日常が日常となった世界で、現実を生きていくことに。
大人になった幼なじみ、新しい仲間、そして……
十年もの時間が流れた世界で、世界に取り残された達志。しかし彼は、それでも動き出した時間を手に、己の足を進めていく。
エブリスタで投稿していたものを、中身を手直しして投稿しなおしていきます!
エブリスタ、小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも、投稿してます!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
転生5回目!? こ、今世は楽しく長生きします!
実川えむ
ファンタジー
猫獣人のロジータ、10歳。
冒険者登録して初めての仕事で、ダンジョンのポーターを務めることになったのに、
なぜか同行したパーティーメンバーによって、ダンジョンの中の真っ暗闇の竪穴に落とされてしまった。
「なーんーでーっ!」
落下しながら、ロジータは前世の記憶というのを思い出した。
ただそれが……前世だけではなく、前々々々世……4回前? の記憶までも思い出してしまった。
ここから、ロジータのスローなライフを目指す、波乱万丈な冒険が始まります。
ご都合主義なので、スルーと流して読んで頂ければありがたいです。
セルフレイティングは念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる