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第一章 武器屋の経営改善
顧客生涯価値を大切にします
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扉を開けるやいなや、たちまち十数人のお客さんがなだれ込んでくる。
外で並んでくれていた人たちだろう。
期待に顔を輝かせながら、それぞれが目当てのゾーンに突進していく。
なかでも店内中央の平台には特に人口密度が高く、毎日値下がりする特価品と、急遽追加したセット販売品をみな熱心に眺めたり手に取ったりしてくれる。
繁盛時の立ち回りは、とにかく手短に声をかけて回りつつ、大きな声を出すことだ。
混雑している店内では自然と大声を出す必要があるが、大声で接客していれば複数のお客さんに聞いてもらえるから効率的だ。
「こちらの平台の商品、本日は2割5分引きとなってます!明日は5割引きになりますけど、残ってる保証はできません!」
やはり目玉のダッチオークション式セールについてはしつこくアピールしていきたい。
俺の張り上げた声を聞いて、また何人かのお客さんが熱心に平台の周りに集まってきてくれる。
「買い時を決めるのはお客様!今買うもよし!明日まで待つもよし!」
こんな調子でお客さんを煽りつつ、買うものを決めた人を会計に誘導したり、乱れた商品を直したりと、とかく目の回る忙しさだ。
とはいえ店員の忙しそうな動きはセールの華でもある。
店員が忙しそうにしていれば店が活気付くし、お客さんも店員から声をかけられないという安心感から、お店の滞在時間が長くなる。
店に客がいれば外のお客さんも入りやすくなり、結果として客が絶えない、という好循環が作り出せる。
じいさんもリーシャも、それぞれのやり方で頑張ってくれているのが目に入った。
それほど広くない店内にはお客さんでいっぱいで、何事かと覗きに来てそのままついつい割引につられて買い物をしてしまう人も多いようだ。
ふと平台に目をやると、筋骨隆々のいかにも逞しい戦士が、例の「雄々しい勇士向け」セットを手に取りしげしげと眺めている。
俺は戦士にさりげなく話しかけた。
「こちらの商品、お客様にはあまりお勧めできません」
「なに、それはどういう意味だ」
戦士がムッとした様子で睨みつけてくるが、ここで慌てちゃいけない。
「お見受けしたところ、お客様はたいそう腕に覚えがあるご様子。とてもこの程度の武器でご満足いただけるとは思えません」
戦士はたちまち破顔一笑して、軽々と2つの巨大な武器セットを持ち上げた。
「お前、自分の店の商品をこき下ろすとは面白い。雄々しい勇士向けというのは嘘っぱちか」
「そういうわけではないのですが、あくまでも『村いちばんの力持ち』ぐらいの想定でして…」
まさかこのわりと平穏な街の、昨日まで寂れていた武器屋にこれほど強そうな戦士が来る事は想定外だったのだ。
昨日の宣伝がよほどうまくいったとも言えるわけで、ありがたい話ではあるのだが。
「いや、いいのだ。これは弟子たちの練習用にするのでな」
「そうですか、それならば。どうもありがとうございます!」
「気に入った。また覗きにくるぞ」
そう言って戦士は会計に向かっていく。
結果として売れてよかったが、別に俺はおべっかを使ったわけではない。
本当に思ったことを、素直に伝えたまでなのだ。
とにかく売ろう売ろうとするのが正しい接客ではない。
顧客のニーズを真に汲み取り、それに応えることこそが一番大切なのだ。
だから、時には今のように買おうとするお客さんを止めたっていい。
いっときの売上でお客さんを失望させるよりは、信頼関係を構築し末長く買ってもらう方がずっといい結果をもたらすからだ。
これは「顧客生涯価値 (Life Time Value)」という言葉で表されることもある。
「平均購買単価×購買頻度×継続購買期間」という計算式でも表現されるが、つまりできるだけ長い間お客さんが買い物に来てくれるようにしよう、ということだ。
極端に言えば、あるお客さんが一生涯うちのお店で武器を買ってくれれば、1個あたりの金額がさほどではなくてもトータルではかなりの金額になる。
1回3,000円の買い物というと小さく聞こえるが、これを年4回、20年来てくれたら、「3,000×4×20=240,000円」の売上だ。
「ねぇお兄さん、わたしに何かおすすめの武器はないかしら?」
戦士に深々と頭を下げていた俺に、艶やかな声がかけられた。
外で並んでくれていた人たちだろう。
期待に顔を輝かせながら、それぞれが目当てのゾーンに突進していく。
なかでも店内中央の平台には特に人口密度が高く、毎日値下がりする特価品と、急遽追加したセット販売品をみな熱心に眺めたり手に取ったりしてくれる。
繁盛時の立ち回りは、とにかく手短に声をかけて回りつつ、大きな声を出すことだ。
混雑している店内では自然と大声を出す必要があるが、大声で接客していれば複数のお客さんに聞いてもらえるから効率的だ。
「こちらの平台の商品、本日は2割5分引きとなってます!明日は5割引きになりますけど、残ってる保証はできません!」
やはり目玉のダッチオークション式セールについてはしつこくアピールしていきたい。
俺の張り上げた声を聞いて、また何人かのお客さんが熱心に平台の周りに集まってきてくれる。
「買い時を決めるのはお客様!今買うもよし!明日まで待つもよし!」
こんな調子でお客さんを煽りつつ、買うものを決めた人を会計に誘導したり、乱れた商品を直したりと、とかく目の回る忙しさだ。
とはいえ店員の忙しそうな動きはセールの華でもある。
店員が忙しそうにしていれば店が活気付くし、お客さんも店員から声をかけられないという安心感から、お店の滞在時間が長くなる。
店に客がいれば外のお客さんも入りやすくなり、結果として客が絶えない、という好循環が作り出せる。
じいさんもリーシャも、それぞれのやり方で頑張ってくれているのが目に入った。
それほど広くない店内にはお客さんでいっぱいで、何事かと覗きに来てそのままついつい割引につられて買い物をしてしまう人も多いようだ。
ふと平台に目をやると、筋骨隆々のいかにも逞しい戦士が、例の「雄々しい勇士向け」セットを手に取りしげしげと眺めている。
俺は戦士にさりげなく話しかけた。
「こちらの商品、お客様にはあまりお勧めできません」
「なに、それはどういう意味だ」
戦士がムッとした様子で睨みつけてくるが、ここで慌てちゃいけない。
「お見受けしたところ、お客様はたいそう腕に覚えがあるご様子。とてもこの程度の武器でご満足いただけるとは思えません」
戦士はたちまち破顔一笑して、軽々と2つの巨大な武器セットを持ち上げた。
「お前、自分の店の商品をこき下ろすとは面白い。雄々しい勇士向けというのは嘘っぱちか」
「そういうわけではないのですが、あくまでも『村いちばんの力持ち』ぐらいの想定でして…」
まさかこのわりと平穏な街の、昨日まで寂れていた武器屋にこれほど強そうな戦士が来る事は想定外だったのだ。
昨日の宣伝がよほどうまくいったとも言えるわけで、ありがたい話ではあるのだが。
「いや、いいのだ。これは弟子たちの練習用にするのでな」
「そうですか、それならば。どうもありがとうございます!」
「気に入った。また覗きにくるぞ」
そう言って戦士は会計に向かっていく。
結果として売れてよかったが、別に俺はおべっかを使ったわけではない。
本当に思ったことを、素直に伝えたまでなのだ。
とにかく売ろう売ろうとするのが正しい接客ではない。
顧客のニーズを真に汲み取り、それに応えることこそが一番大切なのだ。
だから、時には今のように買おうとするお客さんを止めたっていい。
いっときの売上でお客さんを失望させるよりは、信頼関係を構築し末長く買ってもらう方がずっといい結果をもたらすからだ。
これは「顧客生涯価値 (Life Time Value)」という言葉で表されることもある。
「平均購買単価×購買頻度×継続購買期間」という計算式でも表現されるが、つまりできるだけ長い間お客さんが買い物に来てくれるようにしよう、ということだ。
極端に言えば、あるお客さんが一生涯うちのお店で武器を買ってくれれば、1個あたりの金額がさほどではなくてもトータルではかなりの金額になる。
1回3,000円の買い物というと小さく聞こえるが、これを年4回、20年来てくれたら、「3,000×4×20=240,000円」の売上だ。
「ねぇお兄さん、わたしに何かおすすめの武器はないかしら?」
戦士に深々と頭を下げていた俺に、艶やかな声がかけられた。
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