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第一章 武器屋の経営改善
開店で御座います
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そして迎えたセール当日の朝。
いささか緊張しながら、俺は朝から精をつけるべく奮発して買った肉を焼き、味わって食べた。
もっとも、味付けは塩しかなかったのであるが。
実はこう見えて意外とゲンを担ぐタイプなのである。
大学受験の時はキットカットを肌身離さなかったし、就活の時にはよくきくというお守りを買った。
なんでもできることはとりあえずやってみる、というのがモットーなのだ。
少し胃もたれしながらも、早めに店へ向かうと、既に何人かのお客さんの姿がある。
どうやら昨日の宣伝が効を奏したのか、開店前から掘り出し物狙いの人が来てくれたのだろう。
幸先としては実にいい。
扉を開けて店に入ると、じいさんが待ちかねたように話しかけてくる。
「おはようサコン、なんと店を開ける前からお客さんがいるぞ…こんなことはじめてじゃ」
「はい、言い方は悪いですけど実にいい広告塔になります。ありがたいことです。せっかくなんで待っている間お茶でも出しましょう」
開店前の行列は、客引きとしてはこれ以上にない吸引力がある。
それだけに、できるだけ快適に並んでいてもらうことが大切だ。
某有名ドーナツ店では、並んでいるお客さんにドーナツを振舞うことで知られている。
あれを真似て、せめてお茶を振舞うことにしてみよう。
急いで台所に向かい、リーシャに頼んでお茶を淹れてもらう。
その間に、木の板で「最後尾はこちら」と書いた即席の看板も作った。
棚にあったカップ類をかき集め、看板を抱えて外へ向かう。
店の外でなんとなく列を形成していたお客さんたちに声をかけ、改めて列に誘導しつつお茶を配る。
「お、兄さん気がきくねぇ」
ちょっとしたサービスで、人の心は面白いようにほぐれたりするものだ。
お客さんたちの顔が和やかになり、行列に並んだ人同士で自然と会話が生まれ始めた。
その活気が道行く人の足を止めさせ、少しずつ行列に加わる人も増えていく。
最後尾の人に、「次に来た人にこれを渡してください」と看板を預けておき、店の中に引き返す。
昨日帰る前にセールの準備はほとんど済ませておいたので、あとは最終点検だけだ。
店内商品は一律15%オフとし、中央の台に集めた特価品は初日なので25%オフ。
もちろん思いつきで作ったセットも目立つように中央の台の一角を占めている。
割引率についてはかなり悩んだ。
あまり下げ過ぎるとセール後への影響が大きいし、かといってお得感がなくては魅力に欠ける。
かなり下げている特価品のバランスも考慮し、今回は15%という数字に設定してみた。
特価品の一部はお店の外に並べ、客引きを狙うことにする。
「店の奥にはさらにお得商品が!」というPOPを併設し、店内への誘導も狙う。
まずはちょっと覗いてみようかな、という気持ちになってもらうことが何より大切だ。
「一通り準備できたんで、もう開けちゃいましょうか」
開店準備を終えた俺はじいさんに提案する。
臨機応変は商売の鉄則。
無理をしない範囲で、柔軟に動くことには意味がある。
「そうじゃな!アレク武器店の新しい門出じゃ…開店しよう」
「はい!」
俺とじいさんは扉の前に立つ。
じいさんがゆっくりと頷いた。
「サコン、お主が開けてくれ」
「…わかりました」
いいんだろうか。そんな思いもあるが、任されたことを嬉しくも感じる。
今日はリーシャもお店に立ってくれるのか、少し離れたところから見守ってくれていた。
誇らしい気持ちで、扉に手をかける。
俺は元の世界では何もなし得ないまま死んでしまった。
知識や資格こそそれなりにあったが、それを活かす機会もほとんどなく、半ば死んだように仕事をしていたと思う。
転生して、戦闘スキルもなく途方にくれていたけれど、ようやくやりがいのある仕事に巡り会えたことに感謝したい。
俺ができること、俺がすべきこと。
まだ働き始めてほんの数日でしかないが、少しずつだけれど、見えてきたような気がする。
ゆっくりと扉を開き、丹田に力を込めて声を出した。
「おはようございます!アレク武器店、ただいまより開店で御座います!」
いささか緊張しながら、俺は朝から精をつけるべく奮発して買った肉を焼き、味わって食べた。
もっとも、味付けは塩しかなかったのであるが。
実はこう見えて意外とゲンを担ぐタイプなのである。
大学受験の時はキットカットを肌身離さなかったし、就活の時にはよくきくというお守りを買った。
なんでもできることはとりあえずやってみる、というのがモットーなのだ。
少し胃もたれしながらも、早めに店へ向かうと、既に何人かのお客さんの姿がある。
どうやら昨日の宣伝が効を奏したのか、開店前から掘り出し物狙いの人が来てくれたのだろう。
幸先としては実にいい。
扉を開けて店に入ると、じいさんが待ちかねたように話しかけてくる。
「おはようサコン、なんと店を開ける前からお客さんがいるぞ…こんなことはじめてじゃ」
「はい、言い方は悪いですけど実にいい広告塔になります。ありがたいことです。せっかくなんで待っている間お茶でも出しましょう」
開店前の行列は、客引きとしてはこれ以上にない吸引力がある。
それだけに、できるだけ快適に並んでいてもらうことが大切だ。
某有名ドーナツ店では、並んでいるお客さんにドーナツを振舞うことで知られている。
あれを真似て、せめてお茶を振舞うことにしてみよう。
急いで台所に向かい、リーシャに頼んでお茶を淹れてもらう。
その間に、木の板で「最後尾はこちら」と書いた即席の看板も作った。
棚にあったカップ類をかき集め、看板を抱えて外へ向かう。
店の外でなんとなく列を形成していたお客さんたちに声をかけ、改めて列に誘導しつつお茶を配る。
「お、兄さん気がきくねぇ」
ちょっとしたサービスで、人の心は面白いようにほぐれたりするものだ。
お客さんたちの顔が和やかになり、行列に並んだ人同士で自然と会話が生まれ始めた。
その活気が道行く人の足を止めさせ、少しずつ行列に加わる人も増えていく。
最後尾の人に、「次に来た人にこれを渡してください」と看板を預けておき、店の中に引き返す。
昨日帰る前にセールの準備はほとんど済ませておいたので、あとは最終点検だけだ。
店内商品は一律15%オフとし、中央の台に集めた特価品は初日なので25%オフ。
もちろん思いつきで作ったセットも目立つように中央の台の一角を占めている。
割引率についてはかなり悩んだ。
あまり下げ過ぎるとセール後への影響が大きいし、かといってお得感がなくては魅力に欠ける。
かなり下げている特価品のバランスも考慮し、今回は15%という数字に設定してみた。
特価品の一部はお店の外に並べ、客引きを狙うことにする。
「店の奥にはさらにお得商品が!」というPOPを併設し、店内への誘導も狙う。
まずはちょっと覗いてみようかな、という気持ちになってもらうことが何より大切だ。
「一通り準備できたんで、もう開けちゃいましょうか」
開店準備を終えた俺はじいさんに提案する。
臨機応変は商売の鉄則。
無理をしない範囲で、柔軟に動くことには意味がある。
「そうじゃな!アレク武器店の新しい門出じゃ…開店しよう」
「はい!」
俺とじいさんは扉の前に立つ。
じいさんがゆっくりと頷いた。
「サコン、お主が開けてくれ」
「…わかりました」
いいんだろうか。そんな思いもあるが、任されたことを嬉しくも感じる。
今日はリーシャもお店に立ってくれるのか、少し離れたところから見守ってくれていた。
誇らしい気持ちで、扉に手をかける。
俺は元の世界では何もなし得ないまま死んでしまった。
知識や資格こそそれなりにあったが、それを活かす機会もほとんどなく、半ば死んだように仕事をしていたと思う。
転生して、戦闘スキルもなく途方にくれていたけれど、ようやくやりがいのある仕事に巡り会えたことに感謝したい。
俺ができること、俺がすべきこと。
まだ働き始めてほんの数日でしかないが、少しずつだけれど、見えてきたような気がする。
ゆっくりと扉を開き、丹田に力を込めて声を出した。
「おはようございます!アレク武器店、ただいまより開店で御座います!」
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